オペラ
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【深夜の茶会】
サリバン邸
長い長い廊下で、灯りを携えた赤い執事が音もなく歩いている。
鍵を持たせられているのか、彼ら自体が鍵なのかどうかは定かではないが、漆黒の念子が2匹、オペラの後ろをつかず離れずの距離で歩いていた。
澄んだ空気に、ぴりりとした緊張感。
オペラは念子たちを集め、屋敷の戸締まり確認をしているようだ。1日の最後の仕事で、かつ、最も重要な仕事の一つであるセキュリティ任務である。
「……お疲れ様でした。それではまた明日。おやすみなさい。」
オペラを含め、大小合わせて計3匹の猫は毎晩こうして解散する。
サリバン邸の夜は長い。
闇に包まれる夜は奇襲にはもってこいである。執事として、一刻も気を抜ける間などない。
時計の針は23時を回る頃、入間はすでに寝ていることだろう。
もう一人の住人を思い浮かべ、廊下を1人歩くオペラの黒い尻尾の先が揺れる。
「さて、ヒロインさんは……」
オペラが向かうはヒロインの寝室。今頃ヒロインは趣味の読書をしながら彼の来訪を待っている頃か。オペラはヒロインにおやすみのあいさつをするのが日課なのだが、この日はいつもより少し遅くなってしまった。
昨日のアクドル大武闘会で、入間(イルミ)たちは大健闘。大喜びのサリバンは、元々細い目がますます細くなって見えなくなるほどだった。
その後の月越しのあいさつと称した宴は大盛り上がりで、アブノーマルクラスの面々は酔い潰れた。彼らの盛り上がり方も普通ではない。余計な仕事が増えるとオペラに皺寄せがくるのは当たり前で、宴の騒ぎを思い出すと頭痛がするようだった。かわいい入間のためなら仕方のないことだが。
「ヒロインさん」
ヒロインの部屋の前に立ち、ノックをし、声をかける。
「……寝てしまったようですね。」
返事がないためもうヒロインは寝てしまったのだろう。
ふぅ、とひとつ息を吐き、オペラは扉の前から立ち去ろうとした。彼の肩に今日の疲れが益々どっとのし掛かったようだ。
「あ!オペラさん!」
突然、暗く長い廊下の向こう側よりヒロインがオペラに声をかけた。彼女の声によって闇に包まれた廊下が微かに明るくなった気がした。彼女は2人分のティーセットをトレーに乗せ、部屋へ戻ってくる途中だった。
「ヒロインさん。」
耳をピクリと動かし、オペラは声の方へ体を向ける。心なしか嬉々とした表情である。
「おつかれさまです。そろそろいらっしゃるころかなと思いまして……あの、お茶、しませんか?」
ふんわりと温かな蝋燭の灯りに照らされ、にっこりとほほえんだヒロインを見て、オペラの表情も幾分か緩んだようだ。耳だけはピンと立ち、当人よりも大分正直な様子である。
「ヒロインさん、ありがとうございます。わざわざ厨房まで行ってきてくださったのですね。」
オペラがヒロインの手からティーセットを受け取り、片手に持ち替え、ヒロインの部屋の扉を開ける。ティーセットは、かちゃりと音を立てた。
流れるようなその颯爽とした姿に、ヒロインはいつも胸をときめかせる。
「あ、ありがとうございます。」
「ヒロインさん、どうぞ。どうぞ、と言っても、こちらはヒロインさんのお部屋なのですが・・・・・・」
「いえいえ、すみません。こちらこそありがとうございます。」
オペラに導かれ、ぺこぺこと頭を下げながらヒロインは自室へ入った。
重い扉が閉まり、オペラはヒロインのベッドの近くに置いてある小さなテーブルにティーセットを置いた。
「オペラさん、今日は大変でしたよね、ほんとうにおつかれさまでした……入間くんクラスのみんな、まさかリラック酒を原液で飲むなんて……」
「ええ、信じられないです。本当に。」
「酔った入間くんは可愛いけど、アブノーマルクラスはやっぱり酔い方も規格外ですね。大分暴れましたね・・・・・・」
「そうですね。担任がカルエゴくんですからねぇ。彼にはどう責任をとってもらいましょうか・・・・・・」
「ふふ。オペラさん、カルエゴ先生の話をしている時本当に楽しそう。」
ヒロインとオペラが楽しく話している時カルエゴ邸では、くしゃみを連発している悪魔がいたらしい。
オペラが魔茶を一杯飲み終えたのをちらと確認したヒロインは早々にオペラに切り出した。
「オペラさん、お仕事終わりに引き留めて申し訳ありませんでした。お風呂に入ってきてください。」
ヒロインは一息ついてほしいという気持ちと、早く休んでほしい気持ちとの二つがせめぎ合っていた。
「ありがとうございます。そうですね、行って参ります。」
立ち上がったオペラがヒロインの頬へ手を伸ばした。
「・・・・・・待っていてくださいますか。」
するり、と、オペラの白い指が彼女の頬から首へと滑り、彼女の表情を伺った。オペラの手はティーカップの熱で温く、しっとりとしている。ヒロインはオペラからそれだけではない熱を感じ、ぴくっと体を震わせた。
「あ、はい!待ってます!」
「すぐに戻ってきますので。」
一瞬どきりとしたヒロインだったが、いつもの調子のオペラを見て自分はなんて浅ましいのだと恥ずかしい気持ちになる。
「失礼いたします。」
オペラは凄まじいスピードでヒロインの部屋から出て行った。
そういえば、オペラさんはお風呂に入るときどんな感じなんだろう。お風呂に入るオペラさん、全く想像がつかない。というか、オペラさんの日常が想像できない。サリバン様のお屋敷に住み込みでオフの日は無だろうし、オフの時間もほとんどないだろう。超ブラック勤務だよなぁ・・・・・・。
ヒロインが魔茶をもう一杯カップに注ぎ入れ、ふうふうと冷ましながらひとり思う。
先ほどの、オペラが魔茶のティーセットをさりげなく受け取り、扉を開ける仕草。
どうぞ、という声のトーン。魔茶をカップに注ぎ入れるときに伏せた眼。無駄のない動き。そのすべてが
「はぁ、ほんと素敵・・・・・・」
「何が、“素敵”なのですか。」
「ひゃっオペラさん!早いですね!」
「おや、驚かせてしまいましたか。ノックはしたのですが、返事がなかったのでもうおやすみになられたかと・・・・・・しかし、先ほど、“待っている”とおっしゃっていたので。」
さほど時間はたっていないようだが、オペラはもう風呂から上がり、再びヒロインの部屋へ戻ってきた。ヒロインはノックの音も聞こえないほどまったりしていたらしい。魔茶にもリラックス作用があるようで、いい気持ちで寝る寸前だったようだ。オペラはキングサイズのベッドに腰掛けているヒロインの手からティーカップを取り、テーブルの上へと置いた。置くなり彼女の隣へと腰掛け、丸い頬に手を滑らせる。
「それで、何が“素敵”なんですか。」
聞きながら、オペラはヒロインの首筋にキスをいくつも落としていく。彼の唇が触れるか触れないかの柔い刺激にヒロインの心臓がどくどくと早鐘を打ち始めた。オペラの尻尾はぱたんぱたんと音を立てながらベッドのシーツに打ち付けられている。べろり、とオペラのザラついた舌が首筋を舐めあげ、オペラはヒロインの顔を見つめた。
「あの、オペラさん!」
「カルエゴくんですか。」
「へ?」
なぜここでカルエゴの名前が出てくるのだとヒロインは頭の上に疑問符を浮かべた。
「カルエゴくんが素敵だと、つぶやいたのでは?」
オペラの赤い瞳の中にゆらりと嫉妬の炎が上がる。彼の手がヒロインの体へと伸び今度は一つずつ、パジャマのボタンを外していこうとしていた。
が、ヒロインはあっさりとしたもので、
「え、ちがいますよ。」
オペラの手を握り、きっぱりと言った。
「では、」
「オペラさんですよ。素敵なのは。」
かっこいいんだもん。
オペラの手をぎゅっと握り直しヒロインが小さくつぶやいた。恥ずかしくなるほどの甘い空気がその場に立ちこめている。
「そうですか。」
じっとヒロインの瞳を見つめ、今度はオペラが彼女の両手をとり、唇を寄せた。
「すみません。」
「何で謝るんですか。」
「返答によっては、あなたが訳がわからなくなるまでしようと思っていたので。」
「・・・・・・」
何を?とは聞かなかった。
狂気的な嫉妬心を感じ、ヒロインは苦笑いを浮かべた。オペラはたまにそういうときがある。
「あの、オペラさん。しかしですよ、なぜカルエゴ先生が出てくるんですか・・・・・・」
「あなたはカルエゴくんの話をするとき、とても楽しそうなので。」
「それはオペラさんが楽しそうな顔をしているからで、カルエゴ先生が素敵とかそういうことでは・・・・・・んっ」
突如唇と唇が触れ、必死で弁明していたヒロインは、口づけられていると遅れて認識した。
ちゅうちゅうと音を立て、角度を変えながら柔らかな口づけが続く。真っ黒な尻尾はヒロインの足へと絡みつき、尾の先だけがピコピコと揺れていた。
「カルエゴくんはもういいです。」
赤い眼がヒロインの瞳をじっと見つめ、彼女の耳からこぼれ落ちた髪の毛を一房そっとかけ直した。オペラはあらわになったヒロインの耳朶を指で撫で、
「早くしたい。」
と吐息混じりに囁いた。
ヒロインは顔を真っ赤に染め、こくりとうなずく。オペラの瞳には欲を孕んだ濡れた瞳が映った。
オペラはヒロインの髪の毛を幾度か指で梳かし、彼女の体をひょいと持ち上げ、自身の膝の上へと乗せた。
「今日は本当に疲れているんです。疲れている時ってなぜセックスしたくなるんでしょうか。体力使いますよね。」
「セッ・・・・・・!オペラさん、そういうこと言わないでください!」
機嫌良く喉をごろごろと鳴らしながら、オペラは幾度も口づけを落としていく。
「じゃあ、“えっち”の方がいいですか。」
「!!!」
あまりの恥ずかしさで耳を塞ぐヒロインに、少し微笑みを浮かべたオペラが、それはそれは深く口づけた。
Fin.