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十二番隊隊長兼技術開発局局長涅マユリ
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【反応実験】
寝不足が続き、上司命令で休息を取った名無しは、2時間ほど眠った後目を覚ました。涅特製の薬は、名無しに安眠をもたらしたようだ。
名無しが目を覚ましたとき、涅はすでに部屋を出た後だった。
左の肩を下にして横向きになると、先ほどまで涅がいたであろう痕跡が見られた。実験器具の置かれた机上では、湯煎用の湯からまだ湯気が出ていた。名無しは、うっすらと白く広がる湯気を眺めていた。すると遠くの方からなにやら不安定な霊圧を携えた涅が、歩いてこちらへ向かっているのを感じた。
名無しは自分の体温でまだわずかに温もりの残る布団をたたみ、まだ真新しい清潔なにおいがする枕をその上に置いた。
そろそろ涅が戻ってくるだろう、そうぼんやり思いながら今日起こったことをもう一度振り返っては、涅の優しさを噛みしめる。
実験器具の置かれた机上には、白いラベルが貼られた二寸ほどの小さなビンが置かれている。なにやら書いてあるが、小さくて読めないため名無しは机へ近づきその小さなビンを目の前まで持ち上げた。
ビンには
【名無し 安眠、疲労回復】
と、書かれていた。名無しはそれを読んだ瞬間、身体の中で少量の電流が流れるような感覚を抱いた。小さなビンを机上に戻そうとする指が震えた。涅の毒々しい外見に潜む人間的な温かさを感じ、名無しは以前から感じていた想いに確信を抱きはじめていた。
「隊長……わたし……」
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涅はそろそろ名無しが目覚める頃だろうと思いながら、足早に自室へ戻ってきた。
「名無し、目覚めたのだネ。」
そう言いながら涅は引き戸を開け、自室へ入った。
「見た限りよく寝ていたようだが、具合はどうかネ。」
「はい、おかげさまで疲れが取れました。」
「それは良かったヨ。まあ私が調合した薬を飲んで身体を休められないわけがないのだがネ。」
「あの、涅隊長、ご迷惑をおかけ致しまして本当に申し訳ありませんでした。それから、ありがとうございました。以後このようなことがないよう努めます。」
「……」
「……あの、涅隊長……」
「……」
ひととおりの謝罪を言い終えた名無しを、涅は無言でじっと見つめた。
美しい金色の瞳はゆらゆらと燃えているようだった。涅の中で、血液を送る脈が音を感じるのではないかというほど一層激しくなった。
口を開いた涅はごくりと唾を飲みこみ、
「名無し、…………こちらへ」
そう言って名無しを回転椅子へ座らせ、机上に置いてあった小ビンを手に取りながら
「私は不思議だったのだヨ。なぜここまで私は君の世話をしたがるのか。君はそんなに珍しいタイプでもないだろう。もしそうであればとうの昔に興味が湧いて研究なり解剖なりしているのだが、単に興味の対象というわけでもない。……受け取りたまえ。」
と言って、手に取った小ビンを名無しへ手渡した。
「長いこと“感情″という観点を忘れていた……それ故に気がつくまで時間がかかってしまったのが恥ずべきことだヨ。冷静さを失うのも恋愛感情を抱いていれば当然のことか……。まァ、そんなことはどうでもいいんだヨ。名無し、君に恋をしたようだ。この私が!実に驚くべきことだヨ!」
信じられない科白が涅から飛び出してきた。研究一筋で脳内は解剖、反応調査、毒薬調合、観察という名の監視……などなど色恋なんてものからは一番遠いような死神が、「恋をした」とひとり興奮している。
「……えっ……?!」
名無しは本日立て続けに起こっている信じがたい出来事に頭がついていかないようだ。出来事を事実と認識できずに、信じがたいことを言った張本人の表情を見ている。
名無しは【恋】という単語に、自分の知らない意味があるのではないかと思い意味を確認しようと試みた。
「えっと涅隊長、その、恋というのは」
「想いを寄せている、ということだヨ、名無し。理解しているかネ?エ?」
涅は、何を言っているんだ、と言うような表情でなにやら波上を描いているモニターを見ながら話している。
「それで、だヨ。」
涅は隊長羽織をばさりと翻し振り返ると、
「君と交際がしたいのだが、君は、交際相手はいるのかネ。」
と言った。
先ほどから展開が急すぎて圧倒されている名無しは、恐々やっとのことで受け答えをしている。
「……お、おりませんが……」
「では話は早いヨ。ソレを排除する手間が省けた。実に喜ばしいことだ。」
さらりと恐ろしいことを言っているのはいつものことのため置いておくこととしたが、涅があまりにも嬉しそうで名無しは驚き、目をまん丸にして涅を見つめている。そして涅の表情を見た名無しの心臓は心拍数を上げ、呼吸は浅くなった。
「ん?……名無し、こちらへ来たまえ。」
「はっ、はい。」
小ビンを握り締めた両拳を膝に乗せていた名無しは、椅子から立ち涅の方へ歩み出た。
「名無し、試したいことがあるのだが、いいかネ。」
そう言って涅は名無しの少し汗ばんだ掌から小ビンを取り、机上へまた戻した。
名無しは涅の表情と動きとを交互に見ながら、なにが起こるのかと様子を窺っている。
涅は片方の手で名無しの手に触れたまま
名無しの手から視線を上げ、瞳をちらと見た。少し潤んでいるようで、頬は上気し桃色になっている。
「……君は交際相手はいないと言ったが、好意を寄せている相手は……」
「……っその、」
「……ちょっと失礼するヨ……」
涅の指がするりと名無しの腕を撫で下ろし、そっと両手を取った。名無しはびくりと体を震わせ、涅の足元を見ている。
「名無し、答えたまえ。」
「?!……申し上げられません……。その、恥ずかしくて……」
桃色に染まった名無しの頬、心拍の上昇により微かに震える死覇装、そこからのぞく滑らかな肌、熱い息、すべてが涅を興奮させた。
「……このままでは私は一方的な思いだけで君を抱いてしまいそうだヨ。反応が出ているとはいえ君の口から聞かなければ……。」
「……」
涅は先ほどとは異なり、弱くかすれた声で名無しの答えを待っている。名無しは涅の科白に一瞬違和感を感じたが、普段見ることのないやや萎んだ声色の涅の問いに先に答えることにした。
「……涅隊長、」
名無しは涅の手からするりとすり抜け、涅の懐にすっぽりと収まった。そして
「涅隊長、わたし、貴方をお慕い申しております。隊長にこのような気持ちを抱いてはいけないと、重々わかっているのですが……以前から隊長のお側で任務ができるだけで幸せを感じておりました……」
と涅の胸に顔を埋めたまま、想いを口にした。
名無しの行動に涅は一瞬だけ目を大きく開き名無しの身体をかき抱いた。
「……名無し……っ、心音が煩いほどだ。震えてこちらまで伝わって来ている。平常より体温も高い。君が私と同じで実に嬉しいヨ。……こちらを見たまえ。」
そう言った涅は名無しの顔を上へ向かせると、美しい黄金色の瞳で名無しを見つめた。
「予想外だヨ……君がそこまで言うなんてネ。瞳を見ていると、どうにかなってしまいそうだ。アァ……口付けるヨ、いいかネ。」
「……あ、」
涅は名無しの唇へ引き寄せられるように口付けた。名無しは何か言おうとしたが涅の皮膚の薄い柔らかな唇に口付けられ、言葉も飲み込まれてしまった。
「んっ……はぁ……ぁ」
「名無し……アァ、可愛いネ……」
ちゅっちゅっと音を立てながら、涅は優しく口付けた。名無しは突然のことに対応ができずぼぅっとしてくる脳を奮い立たせ、先ほど感じた違和感について尋ねようと必死である。
「たいちょ……んっ待ってくださ…あっ」
「ン?」
「”反応“って……なんですぁっ、ん!」
言い終わる前に涅はもう一度優しく口付け、
「アァ……、名無し、君の”反応“だヨ。ホラ、あそこに、見えるだろう?」
と言って、先ほどの波状の線
を描いているモニターに視線をやった。幾重にも重なりあった波が表しているのは、
「君の…ん…はァ……体の、ありとあらゆる情報、だヨ。」
「ちょ、涅隊長、情報ってなにが……あっまって…んっ」
「半同居人に倒れられても困るからネ……名目上はヘルスデータ採取だったのだが……アレのおかげで君の反応は手にとるように分かる。っ……愛らしい……はぁっ…外から見て、君の頬が染まっていれば君の心拍は増しており、同時に少しずつ呼吸数も多くなってくる。先程から私は君をこうして抱きしめているだろう?私が触れれば汗や涙の分泌、手指の振動が増える、実に素直でかわいらしいことだ。はぁ…っ……」
涅は名無しに何度も口付けながら、自分の犯している人権侵害には全く触れずに説明を終えた。
名無しは涅の優しさと、優しさだけでは到底許すことのできないことの2つのうち後者について反論しようと試みた。涅は名無しの表情を口付けるギリギリまで観察しながら、何度も何度も浅く口づけを繰り返す。
名無しは薄く目を開き、何度か涅と視線を通わせた。しかし、その度にビリビリと体中を流れる電流が名無しのまぶたを閉じさせ、徐々に体の力は抜けていった。名無しは脳が少しずつ投げやりになっていくのをぼんやりと感じていた。
「涅、たいちょ…」
「アァ、名無し……実に可愛らしい。ドロドロに溶かしたいネ……。」
優しすぎる涅の唇を受け入れ、名無しは完全にまぶたを閉じ、涅の隊長羽織をギュッと握った。
疑問を感じることはないとは言えないような気がするが、この日は2人の想いが通じた特別な日となった。
Fin.