七番隊隊長狛村左陣
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護廷十三隊七番隊隊長狛村左陣。
一日の任務を終え、妻の待つ新居へ向かう。
愛しい妻の霊圧を少し遠くに感じながら、足を進めるにつれ徐々に近づく甘く芳しい香りにうっとりとしてしまう。ついつい口元が緩み、いつもは硬く引き締められている口角も上がってしまうようである。
しかし、はっとして首を横に振る。そして自らの表情筋の緩みを自覚し周囲に目をむけきょろきょろと落ち着かない様子だ。護廷十三隊七番隊隊長ともあろう男が、往来をニヤついた顔で歩くなどあってはならぬこと。心の中で気合を入れ直し、また歩き出した。
妻を迎え入れるにあたり、新しく構えた狛村邸。庭の鯉が泳ぐ池の水の音が疲れを癒す。
カラカラと戸を引き玄関へ入るなりすぐに、妻である名無しの美しい声で
「おかえりなさい、狛村隊長」と、出迎えられた。
狛村はその巨体からは想像もつかぬような小さな声で
「あ、ああ……ただいま帰った」と、まるで夢を見てうわ言を言っているかのように呟く。金色の瞳は妻を捕らえて離さない。未だ新婚の気が抜けず、なんとも気恥ずかしいやら嬉しいやらむず痒い気持ちなのであろう。
「ただいま」
そう言ったきり、玄関に突っ立ったままの無言の夫を見つめた名無しは、こちらも見ている方が恥ずかしくなりそうなもじもじを携え、顔を赤らめながらふらふらっと夫へ近づき、
「おかえりなさい」
と、もう一度言いながら、ふわりと狛村の胸へ顔を埋め腰へ腕をまわした。厚くやわらかな狛村の胸へ頬を摺り寄せ、うっとりと熱っぽい表情である。胸の下の方ですっぽり収まっている妻を抱き上げた狛村は、はたと妻の異変に気がついた。
なんだか熱っぽいのである。
ふわふわと太陽の匂いがする夫の首元に腕をまわし、ぴろぴろとよく動く耳元へ顔を埋めている名無しは、体重を預け今にも眠ってしまいそうなほど力が抜けている。狛村は小さな体を落とさぬよう注意しながら空いている左の手の甲を妻の額に滑らせ、小さくため息をついた。
「名無し、風邪だ。」
額の熱に、確信したようである。
狛村との生活が始まってからというもの、妻として夫を支えたいという気持ちが強かった名無しは、自らの属する十二番隊の激務を定時までに終わらせながら愛する夫のために夕飯づくりや風呂の準備、愛犬五郎のブラッシングに至るまで抜かりなくこなしていた。
狛村としては、家事などは完璧でなくて良いから一緒にいる時間を増やしたいというのが本音である。せっかく一緒に暮らしているのだから。
「……隊長、申し訳ありません。」
名無しは、謝罪の言葉を口にしながら狛村の腕の中で眠ってしまった。
狛村は妻を寝所まで運び、すでに就寝の準備が整えられてあった布団へと妻の身体を横たえ、上から毛布をかけた。
「無理をさせてしまった……」
狛村はそう呟き、寝ている妻を起こさぬようにそっと寝所を後にした。その背には何か決意のようなものを感じる。
(目が覚めたら何か食べさせなくては)
死覇装を脱ぎ浴衣に着替え、台所に立ち米を器で測る大きな体。
どうやら粥をつくるらしい。
ざっざっと米を指先で研ぎ、竹ざるで水を切ったら土鍋に米と水をたっぷり入れる。
ぐつぐつと沸騰させ、土鍋の底の米を木さじでこそげ、火を弱火にし、蓋をする。
調理をしている様子は、まるで子ども用のおもちゃの台所セットでおままごとをしているようである。猫背になりながら、かちゃかちゃと手際よく粥を作っていく。
「風邪の時は、何が良いか…」
塩だけでは栄養にならない。梅干しは喉への刺激が強いだろうか。思案しながら床下の食品保存庫を巨体が覗いていると、狛村の耳がピクッと動いた。
保存庫から顔を出して、棚の上に置いてある籠の中の卵をそっと取り出す。
たまご粥にするようだ。
そのころ寝所では、1人では広すぎる布団に横たえられた名無しがうつらうつらと夢と現実を行ったり来たりしていた。
早く起きて狛村の夕飯を温め直さなければ、風呂の準備をしなければと思うと体は睡眠を欲しているのにうまく眠りにつくことができない。
台所の方ではなにやらカチャカチャと物音がする。夫が夕飯を自分で準備しているのだろうと思い、申し訳ない気持ちと情けない気持ちでいっぱいであった。
うーんうーんと唸りながら横になっていると突然寝室の襖がすっと開けられた。
「名無し、少し起きられるか。」
寝所へ入っていく狛村はお盆を持っている。もちろんそこには土鍋と小さな茶碗が乗せられていた。
狛村は枕元にそれを置き、妻の身体を抱き起こし、自身の体へもたれ掛からせた。
「……えっと……まさか、隊長がおつくりになられたのですか。」
「ああ。食べて今日はもう眠りなさい。」
名無しは心底驚いたが、その驚きを言葉にできずに目をまん丸にさせている。
妻の言わんとすることを察した狛村が
「1人でいる時間が長かった故、飯炊きはできるが、今まで己の為だけの炊事であったからな……口に合えば良いのだが。」
言いながら土鍋の粥を茶碗によそい、木のさじで粥の表面をかき集め妻の口元へ持っていった。
名無しは夫の言葉と粥をよそう様子を見て涙が出そうになる。孤独だった頃の夫、誰かのために炊事をしようと思う優しい夫、どんな夫も愛したいと思っていたことを名無しは思い出した。家事を完璧にすることに重きを置いて、根本を忘れていたのかもしれない。
名無しは狛村の持つさじから粥を一口食べ、
「おいしいです。ほんとうに。」
と言った。
狛村は
「うむ。」
とうなづいて次次と妻の口へ粥を運んでいった。
身体が温まり、心地の良い満腹感にまどろんできた名無しを抱きながら、狛村はぽつりとこんなことを漏らした。
「名無し、無理はするな。儂はそなたがそばにいるだけで満たされる。」
その言葉を聞き、安心した名無しは、狛村の顔へ手を伸ばし
「ありがとうございます」
と微笑んだ。
Fin.
一日の任務を終え、妻の待つ新居へ向かう。
愛しい妻の霊圧を少し遠くに感じながら、足を進めるにつれ徐々に近づく甘く芳しい香りにうっとりとしてしまう。ついつい口元が緩み、いつもは硬く引き締められている口角も上がってしまうようである。
しかし、はっとして首を横に振る。そして自らの表情筋の緩みを自覚し周囲に目をむけきょろきょろと落ち着かない様子だ。護廷十三隊七番隊隊長ともあろう男が、往来をニヤついた顔で歩くなどあってはならぬこと。心の中で気合を入れ直し、また歩き出した。
妻を迎え入れるにあたり、新しく構えた狛村邸。庭の鯉が泳ぐ池の水の音が疲れを癒す。
カラカラと戸を引き玄関へ入るなりすぐに、妻である名無しの美しい声で
「おかえりなさい、狛村隊長」と、出迎えられた。
狛村はその巨体からは想像もつかぬような小さな声で
「あ、ああ……ただいま帰った」と、まるで夢を見てうわ言を言っているかのように呟く。金色の瞳は妻を捕らえて離さない。未だ新婚の気が抜けず、なんとも気恥ずかしいやら嬉しいやらむず痒い気持ちなのであろう。
「ただいま」
そう言ったきり、玄関に突っ立ったままの無言の夫を見つめた名無しは、こちらも見ている方が恥ずかしくなりそうなもじもじを携え、顔を赤らめながらふらふらっと夫へ近づき、
「おかえりなさい」
と、もう一度言いながら、ふわりと狛村の胸へ顔を埋め腰へ腕をまわした。厚くやわらかな狛村の胸へ頬を摺り寄せ、うっとりと熱っぽい表情である。胸の下の方ですっぽり収まっている妻を抱き上げた狛村は、はたと妻の異変に気がついた。
なんだか熱っぽいのである。
ふわふわと太陽の匂いがする夫の首元に腕をまわし、ぴろぴろとよく動く耳元へ顔を埋めている名無しは、体重を預け今にも眠ってしまいそうなほど力が抜けている。狛村は小さな体を落とさぬよう注意しながら空いている左の手の甲を妻の額に滑らせ、小さくため息をついた。
「名無し、風邪だ。」
額の熱に、確信したようである。
狛村との生活が始まってからというもの、妻として夫を支えたいという気持ちが強かった名無しは、自らの属する十二番隊の激務を定時までに終わらせながら愛する夫のために夕飯づくりや風呂の準備、愛犬五郎のブラッシングに至るまで抜かりなくこなしていた。
狛村としては、家事などは完璧でなくて良いから一緒にいる時間を増やしたいというのが本音である。せっかく一緒に暮らしているのだから。
「……隊長、申し訳ありません。」
名無しは、謝罪の言葉を口にしながら狛村の腕の中で眠ってしまった。
狛村は妻を寝所まで運び、すでに就寝の準備が整えられてあった布団へと妻の身体を横たえ、上から毛布をかけた。
「無理をさせてしまった……」
狛村はそう呟き、寝ている妻を起こさぬようにそっと寝所を後にした。その背には何か決意のようなものを感じる。
(目が覚めたら何か食べさせなくては)
死覇装を脱ぎ浴衣に着替え、台所に立ち米を器で測る大きな体。
どうやら粥をつくるらしい。
ざっざっと米を指先で研ぎ、竹ざるで水を切ったら土鍋に米と水をたっぷり入れる。
ぐつぐつと沸騰させ、土鍋の底の米を木さじでこそげ、火を弱火にし、蓋をする。
調理をしている様子は、まるで子ども用のおもちゃの台所セットでおままごとをしているようである。猫背になりながら、かちゃかちゃと手際よく粥を作っていく。
「風邪の時は、何が良いか…」
塩だけでは栄養にならない。梅干しは喉への刺激が強いだろうか。思案しながら床下の食品保存庫を巨体が覗いていると、狛村の耳がピクッと動いた。
保存庫から顔を出して、棚の上に置いてある籠の中の卵をそっと取り出す。
たまご粥にするようだ。
そのころ寝所では、1人では広すぎる布団に横たえられた名無しがうつらうつらと夢と現実を行ったり来たりしていた。
早く起きて狛村の夕飯を温め直さなければ、風呂の準備をしなければと思うと体は睡眠を欲しているのにうまく眠りにつくことができない。
台所の方ではなにやらカチャカチャと物音がする。夫が夕飯を自分で準備しているのだろうと思い、申し訳ない気持ちと情けない気持ちでいっぱいであった。
うーんうーんと唸りながら横になっていると突然寝室の襖がすっと開けられた。
「名無し、少し起きられるか。」
寝所へ入っていく狛村はお盆を持っている。もちろんそこには土鍋と小さな茶碗が乗せられていた。
狛村は枕元にそれを置き、妻の身体を抱き起こし、自身の体へもたれ掛からせた。
「……えっと……まさか、隊長がおつくりになられたのですか。」
「ああ。食べて今日はもう眠りなさい。」
名無しは心底驚いたが、その驚きを言葉にできずに目をまん丸にさせている。
妻の言わんとすることを察した狛村が
「1人でいる時間が長かった故、飯炊きはできるが、今まで己の為だけの炊事であったからな……口に合えば良いのだが。」
言いながら土鍋の粥を茶碗によそい、木のさじで粥の表面をかき集め妻の口元へ持っていった。
名無しは夫の言葉と粥をよそう様子を見て涙が出そうになる。孤独だった頃の夫、誰かのために炊事をしようと思う優しい夫、どんな夫も愛したいと思っていたことを名無しは思い出した。家事を完璧にすることに重きを置いて、根本を忘れていたのかもしれない。
名無しは狛村の持つさじから粥を一口食べ、
「おいしいです。ほんとうに。」
と言った。
狛村は
「うむ。」
とうなづいて次次と妻の口へ粥を運んでいった。
身体が温まり、心地の良い満腹感にまどろんできた名無しを抱きながら、狛村はぽつりとこんなことを漏らした。
「名無し、無理はするな。儂はそなたがそばにいるだけで満たされる。」
その言葉を聞き、安心した名無しは、狛村の顔へ手を伸ばし
「ありがとうございます」
と微笑んだ。
Fin.
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