6ペンスの唄
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*二話:幼なじみ*
私が家庭教師のアルバイトで教えることになったのは、景ちゃんと同じ高校に通う忍足侑士くんという生徒だった。
ついこの間まで私も高校生だったのかと思うと感慨深い。
「おい希々、今からでも遅くねぇ。忍足の家庭教師なんて辞めろ。あいつはそんなもんが必要なほど馬鹿じゃねぇ」
「もう、景ちゃんそればっかり。侑士くんのお母さん、私のお母さんの友達だったんだからしょうがないでしょ?」
古文のわかりやすいお手製資料を作る私の横で、景ちゃんはずっとむすっとしている。
「あいつは女の敵だ。悪いことは言わねぇから辞めるって言ってこい」
「はいはい。景ちゃんこそ、生徒会の仕事私の部屋でやるのやめない?」
「俺はいいんだよ」
所謂幼なじみの景ちゃんは、学校では跡部様なんて呼ばれているけれど私の前ではかなりの甘えん坊だ。私を姉のように慕ってくれるのは嬉しいが、少々心配性過ぎるきらいがある。
「初めて会った時は値踏みされてるのかなぁって思ったけど、今日はすごく素直に話聞いてくれたよ? 侑士くん」
「そのうち痛い目見るのは希々だぞ? 泣かされる前に辞めてこい」
私はため息をついた。
「あのね、景ちゃん。男の人は全員敵だと思えとか、露出の多い服は着るなとか、一人で街を出歩くなとか、景ちゃんは過保護が過ぎるよ」
侑士くんの件が初めてではない。景ちゃんはいつも私が男性に関わることになるたび過剰に反応する。
「私は景ちゃんと違ってお金持ちじゃないから別に誘拐なんてされないし、おばさまと違って美人でもないからナンパだってされないよ」
私もくっついてくる景ちゃんが可愛くて甘やかしすぎたのかもしれない。別に嫌ではないが、この心配ぶりは最早父親の域だ。
「それより景ちゃんはモテるのに、どうして彼女さんとか紹介してくれないの?」
「あのなぁ……っ!」
景ちゃんは拳をぷるぷる震わせて、何かに耐えているみたいだった。しばらくして耐え切ったのか、長い長い深呼吸をして若干無理のある笑顔を浮かべる。
「……そうだった。希々は俺の想定と想像を超える唯一の人間だったな」
「え、そんな急に褒めないでよ」
「褒めてねぇ! ったく……」
景ちゃんはげんなりした顔で、寝転がった。そのまま頭を私の膝に乗せる。
膝枕をねだる景ちゃんなんて、私の部屋でしか見られない。景ちゃんは私の部屋で二人きりの時以外は常に完璧な王様だから。
「……彼女なんかいねぇよ。前から言ってるだろうが。俺には好きな奴がいんだよ」
私は資料作成を中断して、景ちゃんの髪を撫でた。
「嘘だー。あ、さては二股!? ダメだよ、そういう不誠実なのは」
「誰が不誠実だ! …………告白しても相手にされねぇんだから仕方ねぇだろ」
「景ちゃんでも相手にされないなんて、相手は芸能人かな? さすがの景吾坊っちゃまも、芸能界は厳しいかー」
景ちゃんが無言で私を見上げた。私ははっとして髪を撫でる手を止める。
「まさか…………学校の先生との禁断の恋、とか…………!?」
「…………」
「え、もしくは……ど、同性との禁断の恋とか……!? 景ちゃん、ほんとのところどうなの!?」
「……………………」
何故か可哀想なものを見る目で見られた。
「景ちゃんの恋バナ聞きたいー!」
景ちゃんは身体の向きを変え、私のお腹に抱き着くようにして顔を隠してしまった。
「ちょ、景吾! お腹にちょっぴりついたお肉がバレちゃうから、その向きは駄目ー」
「……とっくにバレてるっての。ばーか」
「シェイプアップ運動しなきゃ」
「どうせ三日も続かねぇだろ」
「だよね、知ってる。まぁいっか」
景ちゃんは何も言わずにぎゅうぎゅう抱き着いている。甘えたい気分なのだろうか。
「はいはいよしよし」
私はもう一度景ちゃんの髪を撫でてから、資料作成に戻ったのだった。