6ペンスの唄(跡部vs.忍足)
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*二十二話:印*
最近の景吾は、以前にも増して私の部屋に入り浸るようになった。壊れそうだったあの日の景吾を知っている私には、言わずもがな拒絶なんてできない。そもそも景吾のことが心配だったから、毎日顔を見せてくれることに安堵していた。顔色も良くなったし、食欲も戻ったと聞く。
ただ、景吾がいることで緊張してしまうのも確かだった。
「……」
数日前付けてくれと言われたキスマークが、眼前の景吾の白い首筋にいくつも散っている。正常な判断力を失っていた間にいくつ付けさせられたのか。翌日は私も唇が痛かった。
「…………」
というか、何故隠さない。
氷帝は学ランではないから、ある程度は仕方ないかもしれない。しかしマフラーをするとか湿布を貼るとか、この際某キャラクターのコスプレで包帯を巻くとか、どうにかできるはずだ。トレーニングで痛めたと言い訳だってできる。
なのに景吾は隠さない。
むしろ見せつけたいのかと思うほどにネクタイを緩めているので、私の方が目を逸らすことになってしまう。
そしてそんな私の内心を全部見透かしているかのように、景吾は笑う。『俺は希々のもんだっつー印』なんて言って。その笑みが色気を感じさせるものだから、私の脳内処理は追いつかなくなる。
今日も部活終わりに私の部屋に来た景吾は、またもやキスマークを要求してきた。いやもうじゅうぶんだろう。学生の身分で何という暴挙だ。
「見ろよ。ここが薄くなっちまったから、もう一回……」
「あのね、景吾」
「?」
景吾が小首を傾げる様子なんて、昔なら子供っぽくて可愛いとしか思わなかった。今は滑らかな前髪が揺れて頬にかかるだけで色っぽい。
「……っ!」
私は鋼の意思で動揺を押し殺した。
「……っ景吾は高校生でしょ? 先生からの評価にも影響すると思うの。だからせめて隠さないと……」
景吾のアイスブルーが私を覗き込む。
「氷帝では隠してる。俺が隠さねぇのは学園から一歩外に出てからだ」
「……っ」
そうだった。この子は跡部景吾だった。抜け目なくて当然だ。
「っでも、他の生徒からの目線とか……」
景吾は思考の読めない瞳で私を射抜く。
「他の奴の目なんざ知るか。俺が追ってる目線は希々だけだ」
「……っ!」
少し怖くなる程の執着。揺らいでいるのは私の視線だけで、景吾には何一つ迷いなどない。
「俺としてはこの配置が気に入ってるんだが……希々が気になるなら、別の場所にする」
「配置って何」
「数は譲らねぇ。耳の下のやつが駄目なら見えねぇとこに付けてくれ」
「えぇええ…………」
真っ直ぐな眼差しで邪な命令をするこの王様に、開いた口が塞がらない。
しかし景吾は本気だ。さっさとブレザーを脱いでワイシャツを肌蹴る。
「どこならいいんだ? 希々の納得できる場所に……付け直してくれよ」
「っ!」
思わず頬が赤くなったのがわかる。顔を背けようとしたけれど、景吾は動きを予想していたように私の手を掴んだ。
「付けて……くれる、よな……?」
「景吾、」
景吾の目が熱を帯びる。問答無用とばかりに唇を重ねられて、反射的に目を閉じていた。
「けぃ、……っご……っ」
気づけば景吾の手に両頬を包まれていて、上を向かされる。繰り返される口づけに、だんだん頭がくらくらしてきた。
「け…………っ、ちゃ、ん……っ」
柔らかくふわりとしたキス。でも景吾は私の唇の形を確かめるように、何度もその感覚を刻んでいく。苦しくはないけれど、息が上がってしまうのを止められない。
「ふ、…………っ!」
吐息が飲み込まれる。景吾のキスは恥ずかしくてどこか心地好い。こんな風に流されちゃダメだとわかっていても、このキスは身体の力を奪っていく。
「け……ちゃ、だ、め…………っ」
「……駄目じゃない」
「そんな、……んん…………っ!」
景吾のキスは、執拗なほど長かった。
唇の感覚がなくなる。
すっかり力の入らない私の身体を抱き寄せて、景吾は唇を重ねる。触れて離れてはまた触れて、啄むように軽く食まれる。
「は、ぁ…………っ、ふ…………」
頭の芯が融ける。どれだけ時間が経ったのかもわからない。
気付いた頃にはこれがいけないことなのかどうか判断する余裕など、とうになくなっていた。
景吾の右手は昔よりずっと大きい。熱いてのひらが私の後頭部を支えているのがわかる。
骨ばった左手が、投げ出された私の右手を探り当てて指先を絡める。
熱くて熱くて、もう何もわからない。
指を絡めて握られて、反射的に握り返す。
僅かに離れた唇の間で、景吾は囁いた。
「付けて……くれる、だろ……?」
「ん…………」
「どこがいい……?」
「わ、かんな……」
また唇が触れて、そっと離れる。若干痛いくらいだ。キスってしすぎると唇が痛くなるんだ、なんてぼんやりと思った。
景吾は壊れ物を扱うように優しく、私の頭を自分の胸元に寄せた。
「……ここなら見えねぇから、ここに付けてくれよ……」
「ん…………」
白い鎖骨に精一杯吸い付くと、景吾が笑ったのがわかった。
私をぎゅうぎゅう抱きしめて、頬擦りしてくる。
「ありがとな、希々」
「ぅん…………」
思考力が鈍ったまま目の前の首筋も吸い上げると、景吾は息を飲んで私を掻き抱いた。
「……ありがとな……っ」
その声が泣きそうで、私はどうにか顔を上げた。
「景……ちゃん…………?」
景吾は、嬉しそうな切なそうな不思議な表情をしていた。
「俺は…………っ、希々を諦められねぇ……っ!」
「……? けぃ、ちゃ、」
「――好きだ」
もう何十回目かわからないキスに翻弄されつつ、私はその言葉の意味にまでは気付けなかった。