6ペンスの唄(跡部vs.忍足)
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*二十一話:付けて欲しい*
俺は再び希々の部屋に入り浸るようになった。ただ、今までとは関係性が変わった。
甘えるのではなく、俺が希々を抱き締めるようになった。希々は肩を揺らすものの、拒絶はしない。そしてしばらくすると『緊張が限界だから!』と暴れ出す。
あの土曜の夜から、希々への想いが止まらない。
女神のように騎士のように、希々は俺を救ってくれた。そんな彼女への愛情が、自我を越えて溢れていくのを自覚している。
愛してる、愛してる。愛してる。
好きで好きで愛しくて、気が狂いそうなほどだ。
――コン、コン、
今日も俺は希々の母に許可を得て、彼女の部屋に入った。
日曜の昼下がり。窓から柔らかな光が射し込んで、希々の髪に光の輪を作る。大学の課題をこなしていたらしく、ローテーブルにプリントと本が広げられていた。
「希々」
「景吾……」
希々は俺を見ると、本を閉じて目を伏せた。
「……今日は、どうしたの?」
「希々に会いたかった」
「……私、何をしてあげられるわけでもないよ?」
「……希々がいるだけでいい」
俺が歩み寄ると、希々は僅かに後退した。とは言え大して広い部屋でもないため、俺達の距離は縮まる。
「……希々がいれば、他に何も要らねぇ」
「、そんなこと、ないよ…………」
以前なら『私以外にもちゃんと頼れる人を作らなきゃダメでしょ!』などと説教されていただろう。しかし、幾度となく言われてきた台詞が彼女から発せられることはない。意識されている喜びに、緩む頬を隠せなかった。
「希々がいいんだ。希々が好きなんだ。……希々を愛してるんだ」
「……っ!」
告白をかわされることもない。希々は俺の想いを受け止めてくれている。そのことが嬉しい。
俺は希々の隣に膝をつき、彼女を抱き締めた。
「希々……好きだ。希々が俺を救ってくれた。……今の俺は希々のもんだ」
「っ!」
「希々以外の女なんか要らねぇ。希々以外要らねぇ。……もう俺にとっては、跡部の家より希々の方が大切だ」
「っ!!」
全ての言葉に嘘偽りはない。僅かな狂信さえ孕んで、俺の全ては彼女のものになった。そしてそれを希々は理解してくれている。
どうしたらいいのかわからない、と顔に書いてある。それでも俺の衝動は止まらない。ずっとわだかまっていた願いを口にせずにはいられなかった。
希々の香りを胸いっぱいに吸い込んで、温かい首筋に鼻先を擦り付ける。そのまま唇で首筋を辿ると、希々が小さく震えた。
「なぁ……頼みがある」
「、なに……?」
「付けて欲しい。……希々のキスマーク」
「!!」
希々が赤くなって俺から離れようとするが、そう簡単に離すわけがない。
押し返そうとする手を掴んで、両手とも繋ぐ。指を絡めて恋人繋ぎをすると、希々は身体を強ばらせた。
「あの日希々が帰ってから気付いた。他の女の印があるのに希々のがねぇ」
「……っそんなこと、言われても……!」
「付け方……知ってるよな?」
希々は俯いて数瞬躊躇う様子を見せたが、小さく頷いた。
そもそも抱かれる覚悟をしてきたのだから、ある程度の知識は身につけてきたのだろうという予測はできていた。
まぁ、知らないなら俺が教えてやるまでだが。
「付けて欲しい。……俺は希々のものだって印」
絡め合った希々の指先が冷たい。俺は体温を分けるつもりで唇を寄せた。
「……っ!」
俺の一挙一動に希々は困惑している。何度も揺れる細い肩がいじらしい。
「……最近の希々は、俺の知らねぇ顔ばかり見せる」
「、」
「それは嬉しいが、俺はもっと希々の声を聞きたい」
「!」
不意打ちで唇を奪うと、希々の目が見開かれた。
そっと離れて、指を解く。右手で希々の頬に触れて、もう一度唇を重ねた。
「景吾、……っだめ、」
「駄目じゃない」
「けぃ、……んっ」
希々は戸惑いながら俺の胸を押し返す。しかし触れるだけのキスを何度も繰り返すと、彼女の腕がぱたりと床に落ちた。
「け……ぃ、ご…………」
頬を染めて見上げる瞳は潤み、物言いたげな唇からは熱い吐息が漏れる。
女の顔をする希々を見ることが出来て、胸の奥が熱くなった。
「……もっと希々の声が聞きたい。もっと希々の顔が見たい。……もっと希々に、俺を見て欲しい」
「ふ、……っ」
抱き寄せて口づけて、初めての熱に酔う。
「……け、ご…………っ」
柔らかな唇の感覚、とろんとした眼差し、小さく漏れ聞こえる声、全てが俺を誘っているようだった。
「ぁ……っ」
「希々……っ!」
結局我慢できず、希々を押し倒していた。ふわりとした髪に指を差し入れ掻き乱す。
「ん……っ!」
唇が離れるたび、火照った吐息が鼻先を掠める。唇が重なるたび、快感が脳髄を溶かす。深いキスではないのに触れ合う場所はどこも熱い。こんな感覚は初めてだと、そう思うのは何度目だろう。
キスだけで満たされる。ずっとこうしていたい。
「好きだ……っ、希々……っ!」
「は、ぁ…………っ、」
真っ赤な頬で俺を見上げる希々。愛情とほんの少しの劣情が湧いて、俺は希々の首筋に吸い付いた。
「ぁ……っ!」
「希々も……ほら、な……?」
「……っ、ん、」
「ここに……付けてくれ」
息荒く瞳を滲ませて、希々は流されるまま俺の首元に口づけた。慣れない仕草で吸い上げられる肌に、快感が疼く。
「もっと…………付けてくれ」
「……っこう…………?」
「っあぁ……。……もう少し、できるか……?」
「ん……」
何ヶ所か付けさせて、俺は身体を起こした。部屋の姿見を確認すると、首にいくつかの所有印があった。俺が、希々のものだという証。言葉にならない喜びが込み上げた。
「希々……ありがとな」
「景……ちゃん、満足、した…………?」
希々は身体を起こす力もないらしく、押し倒された格好のまま俺を見上げた。
……少しばかり、やりすぎたかもしれない。
「……悪い」
なるべくそっと希々を抱き起こしてやると、へにゃりとした笑みが返された。
「……景吾、うれしそう……」
「そりゃあ嬉しいに決まってるだろ」
希々の左首筋にも俺の印があって、より一層俺を嬉しくさせた。
俺は希々のものだ。希々に害なすものは、たとえ法に触れてでも排除する。
忍足と希々の関係などどうでもいい。希々が誰とどうなろうと、俺の守るべき存在……信じてやまない存在は希々だけだ。
「……希々…………愛してる」
「、ん……」
誓いのようなキスに、抵抗はなかった。