6ペンスの唄(跡部vs.忍足)
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*二十話:俺の人生予定*
「…………なぁ、希々せんせ」
「な、何?」
「………………跡部と何があったん?」
「な、何もないよ?」
俺は半眼で希々を見やる。
最近の俺は機嫌が悪い。頗る悪い。
理由はいくつもある。
例えば。
「……何でそないびくびくしとるん?」
「し……っしてない! 怖いことなんてないもん!」
触れていなくても、距離が近くなるとすぐ肩を震わせることとか。
「……跡部の奴、立ち直ったんよ。誰のおかげなんかなぁ?」
「し……っ知らない……」
いやに色気を増した恋敵に、余裕が生まれたこととか。
「……おかしいなぁ。跡部の奴、もう希々のことなんか好きじゃねぇとか言うとった癖に、希々せんせの家にしょっちゅう入り浸ってるらしいやん?」
「え……えぇ!? 何で侑士くんが知ってるの!?」
「お袋経由や」
「う……うぅう…………」
その恋敵が諦めた素振りを全く見せないこととか。
「まったく……隠し通せると思っとったんか」
荒れた跡部を心配した執事さんから希々に連絡が行って、希々から俺に連絡が来た。俺もチームメイトとしてはやつれた跡部を心配していたから、何とはなしに学校でのあいつの様子を希々に教えた。それがいけなかった。
一月ほどで跡部は精神的な安定を取り戻した。
……希々の安定と引き換えに、だ。
何一つとして面白くない。
せっかく俺がゆっくり男を意識させて落とそうとしていたのに、希々は跡部を救うためにと何らかの犠牲を払ったらしい。
跡部は学校で言った。
『……一つだけ謝りたい。自暴自棄になっていた俺を救ってくれたのは希々だった。……俺はやっぱり希々が好きだ。お前と希々の邪魔をする気はねぇけど、……悪かった』
『…………さよか』
普段の俺様節はどこへやら、大人びた返答に内心戸惑ってしまった。
おかげで俺の機嫌は降下を続けている。
「……せんせ、答えて」
希々は俺と目を合わせない。
「……希々せんせ」
「……っ」
――あぁ、苛つく。
「……謝らへんからな」
「――っ!?」
隙だらけの希々を抱き寄せ、唇を重ねた。強ばる背を宥めるように撫でてやりながらも、柔らかい唇を堪能する。
「ん……っ!」
「……せんせ、跡部と何があったん……?」
希々はじたばた暴れていたが、顔を離してやると上目遣いで見上げてきた。
「い……っ、言いたくない……」
「……教えてくれるまで、キス止めへんで?」
「……っそんなことしたら、侑士くんのこと……っ!」
続く言葉に思わず唖然とした。
「き、嫌いになっちゃうよ!?」
「………………」
本当にこの家庭教師は、俺の想像の斜め上を行く。
「……………………」
こんなん無視一択やろ。
ちっさい娘に言われたらおとんが困るやつやろ。
俺には一切関係あらへんやろ。
「………………………………」
……なのに、何でやろ。
身体が動かん。
「……侑、士くん…………」
希々は硬直した俺の腕から抜け出し、僅かに距離を取った。
「……はー…………。ほんま、跡部が何したんか知らんけど、男との距離感は勉強することになったんやね」
「、……」
希々は目を伏せた。
「……わかった。跡部とのことはもうええ。…………希々せんせに嫌われたないし」
「え……?」
「俺かて自分でもびっくりや。『嫌いになっちゃうよ』なんちゅう阿呆らしい台詞にここまでビビる日が来るとは、想像すらせんかったわ」
「ゆ、うし、くん…………」
俺は苦笑するしかなかった。
「細かいこと聞かへんから、1個だけ教えて」
希々は頷いた。
「跡部と最後まで、した?」
希々ははっきり首を横に振った。
俺は眼鏡を外して、小首を傾げた。
「……もう1個だけ、聞いてええ?」
頷く希々に、一番聞きたいことを尋ねる。
「……恋愛感情の好き、わかったん?」
希々は俺の目をしっかり見つめて、首を横に振った。
俺は安堵の息を吐く。
「……なら、ええ。希々せんせの初めての彼氏は俺の予定やからな」
「えぇ!?」
「そりゃあそうやろ。俺、希々せんせのこと好きやもん」
「!!」
瞬時に希々の頬が赤くなる。
「受験終わるまでに、せんせは俺に惚れる。そんで受験合格と同時に交際スタートが俺の人生予定や」
「な、何その勝手な予定!」
正直に言えば跡部と何があったのか気になるし、他の男と距離を置くのはいいが俺とはもっと近付いてほしい。しかし希々のファーストキスはそもそも跡部に取られているし、遊んでいた俺に口を出す権利はない。俺が死に物狂いで守ることを許されるのは、彼女の処女くらいだ。
俺がすべきことは変わらない。
俺で希々を慣らし、俺に希々を惚れさせる。
「……希々せんせ、好き」
「!」
「好きや。ほんまに……好きや」
「……っ!」
希々は困ったように眉を下げ、俺を見る。
「……せやから、許可もらうわ」
「……?」
「せんせ……ぎゅってしても、ええ?」
希々は視線をさまよわせた後、強く目を閉じて頷いた。久しぶりに細い肩を抱き寄せ、好きな香りを胸いっぱいに吸い込む。
好きやから。
我慢はするけど、ちっとはご褒美くれてもええやろ……?
「……せんせ、…………キス、してもええ……?」
「!」
希々の身体が強ばった。その背中を宥めるように撫でながら、もう一度繰り返す。
「怖いこと、せんから。ほんとにちょっと触れるだけのキス…………許してくれへん…………?」
「……っ」
希々は躊躇っているようだった。以前なら拒絶されていた。今は俺とのキスをそこまで嫌だと思っていないという情報に、口角が上がる。
「好きや……希々せんせ……」
「っ、」
「1秒だけ……な……?」
抵抗のない身体をそっと離し、潤んだ瞳を見つめる。
震える唇を、できる限り優しく塞いだ。