6ペンスの唄
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*十二話:騎士*
俺が告白してから希々は俺を避けるようになった。避けられて当然のことをした。だがそれでも意識して欲しかった俺に悔いはない。
最初は希々に考える時間をやるつもりだった。毎日のように触れていた温もりを失って、早々に俺は希々不足に悩まされることになったが、耐えに耐えた。
あれから2週間待った。俺にしては輪廻転生が3回できるほどの忍耐だと自負している。
今日は忍足の家庭教師の日だ。俺はいつかのように許可を得た上で希々の部屋にあがっていた。
希々の母は『あら景吾くん、何だか久しぶりねぇ』と紅茶をいれてくれた。家族ぐるみの付き合いなので、俺の母親と希々の母親も仲が良い。自由に出入りができるのは有難いが、思えば希々が俺の家に来たことは数えるほどしかない。会いたいのも傍にいたいのも、全部俺だけ。いつも俺の一人相撲だ。
「…………」
2週間ぶりの希々の部屋は俺の大好きな“希々の香り”がして、思わず膝を抱えた。
「…………早く帰って来いよ……馬鹿希々…………」
いつもなら帰る時刻になっても希々が帰る気配はない。むしろこんなに遅くまで女一人で外に居るのは危険ではないか。
希々の身を案じた俺は、彼女の母に断りを入れて家の外に出た。肌寒い空気に秋を感じた、刹那。
「景、吾……?」
道路からかけられた声に、弾かれたように振り向く。聞きたくて仕方なかった声。
「っ希々!!」
俺は目を丸くしている彼女を思い切り引き寄せ、強く抱きしめた。
「ちょ、どうしたの景吾?」
「帰りが遅ぇんだよ……! 何かあったんじゃねぇかって気が気じゃなかったんだからな……!」
「……ご、めん」
希々の手を引いて元来た道を戻る。希々の家に入れば、彼女の母から「遅かったわねー。早くお風呂入っちゃいなさいよー」という言葉を背に頂いた。俺がいるのはいつものことなので何の警戒もされないのは好都合だ。
希々の手を引いたまま彼女の部屋に入る。
バタン、
ドアが閉まると同時に俺は希々を掻き抱いていた。
「……、景ちゃん…………」
「…………」
久しぶりの温もり、久しぶりの香り、全てが俺の心臓を締め付けた。訳もなく視界が滲む。
「なんで、こんな帰り、遅かった……?」
希々は俯いた。
「………………景吾と鉢合わせしたら気まずいかなって思って、時間……つぶしてたの」
「何で気まずいんだよ。俺が男として意識してくれっつったからか?」
「……っ!」
希々は肩をぴくりと跳ねさせた。
俺は希々の頬を両手で包むようにして視線を合わせる。
「……俺は希々が欲しい。ただの幼なじみじゃなく、希々の彼氏になりたい。……だが一番大事なのは希々の気持ちだってことは、分かってる」
不安げに揺れる茶色の瞳に映る自身を見ながら、そっと滑らかな頬を撫でた。
「……小せぇ頃から姉弟みたいに過ごしてきたんだ。すぐには俺を異性として意識するなんて難しいと思う」
躊躇う視線が頷く。俺がどれだけ長い時間共に過ごしてきたと思ってるんだ。希々の欲しい言葉も言うことを聞かせるやり方も、嫌という程知っている。忍足は知るはずのないそれらを思うと、僅かながらに独占欲が満たされた。
「だっ、て、…………景吾は私にとって、弟みたいな存在で…………」
「それでも俺と気まずくなるのが嫌だから、こうやって話してくれるんだろ?」
無言の肯定が返ってくる。俺に甘い希々は、俺を避けることはできても俺を拒絶することはできない。
「……中3のあの日、俺は本気で希々に告白した。だが希々は笑ってとり合わなかった」
「それは……っ!」
俺は自嘲の笑みを唇の端に乗せた。
「わかってる。希々は何も悪くねぇ。一度希々を試そうとして嘘の告白をした俺のせいだ」
柔らかな髪を指で梳き、俺は意地悪く笑う。
「希々、彼氏できたことねぇよな」
「………………ない、けど……」
「好きな奴は?」
「…………いない、けど…………」
そんなこと知っている。知っているからこそ仕掛けられる。
「なら、これからは俺が希々を守ってやる。俺は王様だが……希々の前でだけは、騎士になってやるよ」
希々が首を傾けた。
「……どういうこと?」
「意識できねぇなら、意識させてやるってことだよ。俺は――」
言葉を区切って、希々の唇に己のそれを重ねた。
「もう、遠慮しねぇから」
「……っ!!」
いつ俺を男として意識するかはわからないが、少なくともその赤い顔は弟に向けるもんじゃねぇよな?
希々。