ロンドン橋落ちた(不二vs.幸村)
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*四話:辛い時の優しさ*
周ちゃんは私の肩を抱いて、滅多に使われない視聴覚室に入った。
ジャージを私の肩にかけたまま、私の頭を優しく撫でる。
一度は引っ込んだはずの涙が、また滲んできた。
「…………どうしたの? 希々」
「……っ裕太に、彼女ができたって…………!」
周ちゃんは、困ったように微笑んで私の涙を拭う。
「……知ってたよ」
「!」
「裕太の彼女、僕のサークルの一年生なんだ。だから、話は聞いてた。嬉しそうに僕にも報告してくれたよ。裕太と付き合うことになった、って」
私は愕然とした。裕太の隣にいられることがうれしくて、裕太のことしか見ていなくて。
私一人。何も知らなかった。
「その子は裕太と一緒にいたいから、うちのサークルを辞めて希々と裕太のいるサークルに入るそうだよ」
「え……」
目の前が真っ暗になる。
私は失恋しただけでは飽き足らず、これから目の前で好きな人と彼女が笑い合う姿を見なければならないのか。
嫌だ。
裕太のあの笑顔を見るのが私だけじゃないなんて。
いや、それはもう仕方ない。だって私は選ばれなかったのだから。選ばれた子がいるのだから。
だけど、私の知らない裕太の顔が別の女の子に向けられる。照れたり男らしかったり、彼女にしか見せない愛しい笑顔だったり。それを間近で見るなんて、私には耐えられない。
「やだ…………周ちゃん、私どうしたらいいの…………? やだよ、裕太と離れたくない、けど…………っ、裕太と彼女がいる所を見るのなんて、嫌だよ…………っ!」
混乱する私を抱きしめて、周ちゃんは言った。
「希々が、うちのサークルに来ればいい」
「……え…………?」
「僕は希々がずっと裕太のことを好きだったって知ってる。君をずっと見てきたから、断言出来る。裕太の側にいたら希々はいずれ、辛くて耐えられなくなる」
そっと耳元で囁かれる、記憶の波。
「裕太の声も、優しさも、笑顔も、太陽みたいな明るさも、…………全部別の子のものになるんだよ?」
「……っ!」
「今のうちに、離れた方がいい。僕はこれ以上、泣いてる希々を見たくない」
離れたく、ない。できるならこのまま、裕太の側にいたい。朝起こして、一緒に勉強をして、テニスを教えてもらって。
――ただ、側にいたいだけなのに。
私がいれば、彼女さんはいい気分にはならない。いずれ私は裕太から、距離を置いてくれと言われるんだろう。
……裕太から言われるくらいなら。裕太を困らせて、謝らせて、言わせるくらいなら。
「…………わかった。私、サークルやめる。……もう、どこのサークルにも入らない……」
私が俯いた拍子に、涙がぽろりと落ちる。
その涙を拭う、しなやかな指先。
「……すぐには、忘れられないだろう?」
「…………でも、私が近くにいたら迷惑かけちゃう……」
「だから、言ったじゃないか」
顔を上げると、周ちゃんが苦笑していた。
「僕のサークルにおいで。僕を応援に来るなら、裕太と鉢合わせしても何の問題もないだろう?」
「、」
「裕太と話していて何か勘違いされそうなら、僕と付き合っているとでも言えばいい。そうすれば彼女も納得してくれるよ。……すぐにじゃなくていいんだ。そうやって、ゆっくり少しずつ……裕太との距離を掴んで行こう?」
本当に辛い時、優しさというのはどうしてこんなにも痛いんだろう。周ちゃんの優しさに、また涙が溢れた。
「周、ちゃん……っ!」
「……うん」
「あ、りがと…………っ」
「……うん」
抱きついて、私は子供みたいにわんわん泣いた。痛くて痛くて、周ちゃんの腕の温かさが心の傷に染みた気がした。