ロンドン橋落ちた(不二vs.幸村)
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*最終話:初めての両想い*
精市先輩はずっとそばにいてくれた。周ちゃんみたいにそばにいて、周ちゃんみたいに手を引いて、周ちゃんみたいに守ってくれた。周ちゃんと同じことをしてくれた。
私は孤独ではなかった。ひとりじゃなかった。寂しくないはずだった。
恵まれている環境なのに、どうしてそう思ってしまうんだろう。自分で自分を責めたりもした。
だけど、心にぽっかり空いた穴は塞がらなかった。
裕太に偶然会った時訊かれて、私は初めて気付いた。
『希々、なんかつらいの我慢してね? 俺で良ければ話聞こうか?』
私、我慢してたんだ。
私、精市先輩じゃだめなんだ。
――私、周ちゃんじゃなきゃだめなんだ。
私――――……。
***
突然呼び出したのに、周ちゃんは怒らなかった。いつもより少しだけ寂しそうに、でも微笑んでくれていた。
「周ちゃん……久しぶりだね」
「うん……。連絡ありがとう」
懐かしい周ちゃんの部屋で、私たちはガラステーブルを挟んで向かい合う。
周ちゃんは深々と頭を下げた。
「まず、謝らせてほしい。本当に……本当に、ごめん」
「……」
私は周ちゃんの話を遮らないよう、柔らかい声に耳を傾けた。
「僕は君のことを大切だと言っておきながら、君を傷付けた。怖がらせた。キスだって無理矢理した。……最低だ」
周ちゃんは顔を上げない。
「希々がずっと好きだった。愛してた。だけど僕の愛は独りよがりで、僕のための愛だった。……君のための愛じゃ、なかった」
綺麗な髪。風に揺れるこの髪をずっと見てきた。
「……ずっと、どうして裕太なんだろうって思ってきたよ。僕の方が希々と先に知り合ったのに、希々はいつも裕太のことしか見ていなくて…………大好きな弟なのに、嫉妬してた」
爽やかな匂い。いつも隣にあった、周ちゃんの香り。
「裕太のことを吹っ切ったら、僕のことを見てくれると思っていた。でも実際は幸村が出て来て……予想外の展開に、頭が追いつかなかった」
周ちゃんはゆっくり顔を上げた。青い瞳が真っ直ぐ私を見つめる。
「希々を幸村に取られたくなかった。言い訳にしかならないけど…………本当に、ごめん。希々の気持ちを無視した行動は二度と取らないって誓うよ」
「……何に、誓うの?」
周ちゃんは「何にでも」と言った。
「神にでも、裕太にでも、裕太のことを想い続けてきた希々にでも……希々のことを想い続けてきた僕自身にでも」
一瞬、喉の奥が熱くなった。
周ちゃんは優しく微笑む。
「……ごめん。でも、君と離れてわかった気持ちもあるんだ。……それだけでいいから、聞いてほしい」
私は頷いた。
「僕は希々を愛してる。君が他の誰を選ぼうと、他の誰を愛していようと、それだけは変わらない」
「――……」
「希々が好きだよ。大好きだよ。たとえ世界中が君の敵でも、僕だけは君の味方でいる。君が愛した人と二人歩いて行くとしても、僕はその人ごと希々を愛し続ける」
声が、出なかった。
「傍にいられなくても、どんなに時が経っても……僕は希々を愛してる」
「、……」
「……聞いてくれて、ありがとう。僕と会うのも怖いはずなのに……。……僕は本当に、希々に甘えてばかりだったね」
周ちゃんは、困ったように笑った。
「……さよならの時間をくれて、ありがとう。僕からはもう、何も言うことはないよ」
「――――……」
なんで。どうして。
言葉にできない思いが、涙になってこぼれ落ちた。
「っ希々……!?」
心配した周ちゃんが立ち上がって、私の隣に膝をつく。私は周ちゃんに抱きついた。
「周ちゃんのバカ……っ!!」
「希々……?」
「バカバカバカぁ……っ!」
周ちゃんの胸を叩く。何に遠慮しているのか、抱きしめてくれない両腕に寂しさが込み上げて余計に涙が溢れた。
「なんで、返事くれって言わないの……っ!? なんで離れる前提なの!? なんで……っ!!」
こんなの、あいしてるを盾にしたさよならだ。
涙に濡れた瞳で周ちゃんを見上げる。
「周ちゃんは……っ、もう、私のこと、好きじゃないの……っ?」
周ちゃんは珍しく困惑した表情を浮かべていた。
「僕の話、本当に聞いてた……? 僕は希々が好きだって、」
「嘘つき!!」
「、嘘じゃない」
「嘘だ!!」
駄々っ子のように嘘だと繰り返して、周ちゃんのシャツを握りしめた。
ぽたぽたと涙が落ちて染みていく。
「、…………希々が嘘にしたいなら…………」
「しゅ……ちゃんの、ばか……っ! なんで、わたしのきもち、きいて、くれないの…………っ?」
「……!」
周ちゃんが硬直した。
「さよならしたいの、周ちゃんじゃん……! 私が邪魔なら、そう、言ってよ……っ!」
「……希々……」
「わたし、もう、好きって言えないまま諦めるの、嫌だよ……っ!」
「希々……!」
そっと抱きしめてくれる周ちゃんの背中を、痛いほど抱き返す。
「……希々、」
「周ちゃん……すき、」
「希々、」
「周ちゃんが、好きだよ……っ!」
私の名前を繰り返す周ちゃんの声も涙混じりだった。
「さよならなんて、嫌だよ……っ! 好きなら、そばに、いてよ……っ!」
「希々……っ! ごめん、泣かないで……」
「周ちゃんの、ばか、周ちゃんが、すき、周ちゃんの、」
縋り付くような抱擁に、言葉が遮られる。
だけどそれも、どこか幸せだった。
――――――…………。
――――……。
――……。
二人して赤い目で、笑い合う。
「えへへ……初めて、両想い」
「……うん。僕もだ」
「私……ちゃんと、周ちゃんのこと、好きだよ?」
「……っうん…………」
同じ力で抱きしめ合って、心が震えた。
「周ちゃん……いつも守ってくれてありがとう。そばにいてくれてありがとう。……これからも、ずっと一緒にいてくれる……?」
周ちゃんは壊れ物に触れるような手つきで私を包んで、言ってくれた。
「希々…………僕も希々が好きだよ。これからも、ずっと傍にいるよ。……もう、離さない」
「うん……っ」
初めての両想いは、どんなお菓子よりも甘かった。
Fin.
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