ロンドン橋落ちた(不二vs.幸村)
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*十八話:どの写真よりも大切な写真*
いつかと逆だ。
確かに希々は幸村の提案を受け入れ、僕と距離を置くと言った。しかし僕の代わりに幸村が希々の隣に居座ることになるなんて、あの時の僕は想像していなかった。
幸村のやり方は徹底していた。
希々の家に朝から居て、毎日彼女と一緒に登校する。昼もサークルに行く時も、常に希々の隣には幸村がいた。幸せそうに希々を見つめて甘い笑顔を浮かべる幸村に、ぎり、と歯を食いしばった。
待ち合わせも近い距離も送り迎えも、今まではずっと僕だけの特権だったのに。
『周ちゃん?』
『周ちゃん、ありがとう!』
『大好き!』
「……っ!」
あの笑顔を曇らせたのは、他の誰でもない僕だ。
希々を怯えさせてしまった。自分の感情を抑えきれなかった。その負い目がある僕が自分から彼女に会いに行けるわけもない。
それでも希々が泣いていないか心配で、こうやって遠くから確認してしまう。
希々が笑っていてくれることに安心しながら、愛しい笑顔が向けられる相手が僕でないことに落胆する。
これまでの関係を壊したのは僕だけど、このままでは苦しくて僕自身まで壊れてしまいそうだった。
「希々……」
希々を取り戻したい。
希々に会いたい。触れたい。
いや、触れることすらできなくても構わない。僕に笑いかけて僕の名前を呼んで。もう一度、あの日のように。
失って初めて気付く、今まで隣にあったものの尊さ。
どうして失くしてしまったのか、やっとわかった。
僕はきっと、自分でも気付かない我慢をしてしまっていたんだ。些細なきっかけでこれまでの信頼を崩してしまうほどに、限界だった。
こんなにも打ちのめされたことは、テニスでもなかった。
……いや、本当はずっと、打ちのめされてきた。
裕太のことをきらきらした瞳で見る希々を見るたびに。
僕には甘えてくれるけれど、触れる時微塵も動揺がないと気付くたびに。
幸村に対して頬を染める姿を見るたびに。
『僕が側にいるよ』
『希々の味方だから』
『……希々が好きだよ』
僕は希々を守ることで、不安から目を背けていた。守ってあげているんだから同じくらいの気持ちを返して欲しいだなんて考えてしまう、傲慢な己から目を逸らしていた。
幸村の言う通り、こんなの、愛じゃない。
思わず自嘲の笑みが浮かぶ。
僕は希々のことが好きだったけど、愛せてはいなかった。僕が愛していたのは僕だった。僕が守っていたのは僕だったと、この状況になってようやく理解できた。
僕は彼女の本心を聞くのも怖かったけど、僕自身の心を曝け出すことが一番怖かったんだ。
――幸村の言う通り、僕は意気地なしだった。
もう一度希々と話がしたい。
今度こそ本音を曝け出して、本音を受け止めて。
今まで逃げてきた全てに向き合うと誓うよ。言葉を交わした結果、もう一緒に居られなくなったとしても構わない。僕が選ばれなくてもいい。
ただ、知りたい。知って欲しい。
君の思いを知りたい。僕の想いを知って欲しい。
二度と無理矢理迫ったりしないから。
二度と怖がらせないから。
僕の命より大切な宝物。
どうかもう一度、僕のことを見て。
今なら初めて言える言葉があるから。
僕は君のことを――――……。
***
――――――――…………。
――――……。
――……。
二週間ほどが過ぎただろうか。
僕は自分からは希々に連絡せず、じっと待っていた。急かすようなことはしたくなかったし、もう心は決まっていた。
ようやく覚悟できた。
この先別れを告げられても、選ばれない未来が訪れても、何が起きても。
僕は僕を守ってくれたあの子を、ずっと想っていく。僕に守られていてくれたあの子を、幸せにする。
「希々……」
幼い頃のアルバムを見返し、希々のいろいろな表情を眺める。
幼い僕と幼い希々が手を繋いでいる写真。
裕太と三人でピースをしている写真。
小学校の入学式で緊張している希々。
僕の卒業式で泣いている希々。
中学校の運動会で裕太を応援している希々。
試合で裕太を応援している希々。
裕太の隣で笑う希々。
「……」
僕はこんなにも希々ばかり見ていたのかと思うと、苦笑するしかなかった。裕太のことも大事だから、大切な二人が写っている写真はどれも宝物だ。
だけど。
「……僕は馬鹿だなぁ」
アルバムのどの写真より大切な最後の写真が、僕の目に入った。
少しピントがボケているその写真に写っているのは、試合後の僕。もちろん撮ったのは僕じゃない。
普段カメラなんて持たないくせに、僕が負けた試合の写真を撮る女の子。
誕生日でも記念日でもないのに、その写真を僕に押し付けた女の子。
それだけ聞いたらただの嫌がらせなのに、写真の裏に『今までで一番カッコよかった不二周助』と書いてくれた女の子。
「……っ」
――ピコン、
目頭が熱くなったとほぼ同時に、スマホが通知を告げた。
メッセージのアイコンは希々。
深呼吸して画面を見ると、
『周ちゃんと、ちゃんと話したい』と書いてあった。