ロンドン橋落ちた(不二vs.幸村)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*十四話:もう戻れない*
初めて希々に会ったのは、まだ幼稚園生になる前のこと。お隣さんにも裕太と同い年の子がいる、と聞いて僕も挨拶に行った。
希々はお母さんの後ろに隠れたまま、小さく挨拶してくれたっけ。
人見知りの君は、なかなか距離を縮めてくれなかった。それでも、こっそり僕の後ろをついて回る姿が愛しくて。
君の視界にわざと入って、ゆっくり歩く。気付いた君は、僕に見つからないよう数メートル後ろからついてくる。まるで、雛鳥のように。
可愛くて、時折いじめたくなって、でも守りたくて。幼いながらに僕の心は君でいっぱいだった。
ねぇ、希々。
好きだよ。
好きで好きで仕方ない。
大好きだ。
愛してる。
伝えたくても伝えられないまま、こんなところまで来てしまった。
君の初恋は裕太で、君に初めて告白したのは幸村。だけどこれで――――初めて君とキスをしたのは、僕だ。
「…………っ!? 周ちゃ、…………っ!」
混乱して逃げようとする身体を無理矢理閉じ込めて、愛しい声を唇で塞ぐ。
今、僕は自分が堕ちていくのを自覚している。今まで抑えに抑えてきた衝動が、愛情が、堰を切ったように溢れ出す。
唇の形を確かめるように重ねて、食んで、啄む。初めてのキスに上手く呼吸できなくなったのか、希々は抵抗する力を失っていた。口づけの合間に必死に酸素を求める。その苦しそうな表情も赤い頬も、僕が引き出したものだと思えば欲望が加速した。
守りたい。そう思ってきた。
壊したい。そう思っていた。
――もう、戻れない。
息荒く崩れ落ちる希々を支えて抱き止め、僕は耳元で囁く。
「……希々は僕のことを、ずっと兄のように思ってきたよね。困った時相談できる相手。誰より側にいる相手。幼なじみだけど、……好きな人のお兄ちゃん。そんな風に思ってきたよね」
何の反応も示さない希々の腰を引き寄せ、真っ赤な頬に手を滑らせる。視線を合わせて、僕はようやく15年越しの想いを口にした。
「……だけど僕は、希々のことがずっと好きだった。初めて会った時から、裕太と君が知り合う前から、ずっとずっと…………希々が女の子として好きだった。……愛してた」
大きな瞳が、ゆらりと揺れた。
「……希々、好きだ」
幸村だけが君の頬を染めるなんて、狡いよ。
彼がどんな卑怯な手を使って君に近付いたのかは知らないけど、僕は僕の宝物のためなら何にでもなる。
君が望むなら花のように優しく、鳥のように自由に、風のように情熱的に、月のように穏やかになるよ。
だけど僕は君の保護者じゃない。君の父でも兄でもない。これまでの生温い関係を卒業する時が来たんだ。
「幸村の告白なんか忘れて、僕のことだけを考えて。希々が僕を選ばないなら、僕はもう……」
言葉を区切って、極上の笑みを浮かべる。
「僕はもう、希々とさよならする」
愛しい表情が、みるみるうちに強ばっていく。可哀想な希々。僕と今までの関係を続けたいなら、僕を選ぶしかない。
僕を選ばない、なんて有り得ないとは思うけど、たとえ選ばれなくても僕は君を手放したりしない。何があろうと僕を選ばざるを得ない状況を作り出せばいいだけだからね。でもそんなこと、今の希々にはわからないだろう。……いや、今じゃなくてもわからないかな。君にとって僕は、ずっと“兄”でしかなかっただろうから。
どんな手を使っても、君を手に入れる。そんな僕を、君は……君だけは、知らなかった。知られないように振舞ってきたのは僕だ。想定外だったのは、幸村の存在。ゆっくり希々を僕に依存させる計画の、唯一の誤算。
幸村がもう動いているなら、僕も動く。負けるとは微塵も思っていない。
悪魔、魔王、好きなように言えばいい。
だって希々は、僕のものなんだから。