ロンドン橋落ちた(不二vs.幸村)
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*十一話:火花*
昼を幸村と希々が一緒にとっていたあの日。あの日から、希々の態度が変わった。
今まで幸村ばかり追っていた眼差しは、幸村を避けるようになった。幸村と目が合うと、真っ赤になって顔をそらす。僕の後ろに隠れるようにして、まるで幸村から逃げ回っているみたいだった。
「……っ」
何かあったのは明らかなのに、希々は何も言わない。尋ねても、何でもないとしか返さない。
それが余計に僕を苛立たせた。
僕にだけは、何でも打ち明けてくれただろう。相談してくれただろう。頼ってくれただろう。なのにどうして。
「……っ!」
希々が言わないなら、幸村に聞くしかない。僕は昼休みに幸村を呼び出し、無人のサークル室で問い詰めた。
「幸村、希々と何があった?」
幸村は予想していたのか、冷静に答える。
「俺が希々ちゃんとどうなろうと、君には関係ないだろう?」
「僕は、――――!」
幸村が肩に羽織っているジャージが、あの日希々に掛けられていたものだと気付いた瞬間。
ただでさえ限界だった自制心が、あっさり崩れ去るのが自分でわかった。
「……っ幸村!」
すました顔の幸村の襟を掴み、低く告げる。
「……二度は言わない。希々に手を出すな」
幸村は微かに笑った。
「俺も二度は言わない。君は彼女の恋人でもないのに、どうしてそうも偉そうなんだい?」
「希々は僕の幼なじみだ」
「知ってるよ」
僕の手を軽く振り払い、幸村は目を細める。次いで放たれた言葉に、刹那呼吸を忘れた。
「……俺は希々ちゃんが好きだ。彼女に告白した」
「………………は…………?」
意味がわからなかった。意味を理解することを脳が拒絶していた。
これまで、希々に好意を持っている男は皆、彼女から遠ざけてきた。裕太のことしか見ていない希々は、自分に向けられる視線など知りもしない。考えもしない。だから僕は、時に嘘をついて奴等を追い払ってきた。
つまり希々は僕が知る限り、告白されたことがない。免疫がないのだ。
「別に希々ちゃんは君の彼女じゃないんだ。俺が告白したって問題ないだろう?」
「、」
「初めて告白された、って……真っ赤になってたね。希々ちゃん」
「っ幸村!!」
僕が怒りに声を荒げても、幸村は余裕を失わず口を開く。
「俺が嫌がらせやいじめで希々ちゃんに告白したのなら、不二に文句を言われてもいい。でも俺は本気で彼女が好きなんだ」
穏やかに、僕の知らなかった想いが吐き出されていく。
「裕太君のことしか見ていない、あの真っ直ぐな目で…………俺のことだけを見てほしいと思っていた。俺にありがとうと言う彼女に、俺の髪を撫でる彼女に、もっと触れたい。近付きたい」
幸村の感情を、僕はもっと警戒しておくべきだった。希々を傷付けるものとしてではなく、希々と僕の邪魔をする敵として。
「返事は待って欲しいと言われたけど…………俺は遠慮なんかしないよ」
僕は彼を睨んで、拳を握り締める。
「……そうはさせない」
幸村が小さく笑った。
「そうはさせない? 希々は自分のものだ、とさえ言えない君が?」
「……っ、」
「弟に勝てず、彼女に想いを告げる勇気もない、君が? 俺の邪魔をできるなんて本気で思ってるのかい?」
ぎり、と歯を食いしばった。
幸村が正しいと言うつもりはない。しかし僕の大切なものを奪おうとするのなら。
「――――希々は、僕のものだ。何があろうと、渡さない」
幸村は嘲るような笑みを口の端に乗せ、サークル室を後にした。
「やってみなよ。意気地無しの王子様」
バタン、と扉の閉まった部屋の中、僕は目を閉じる。
思い出すのは、希々の笑顔。希々の声。希々の香り。
「…………僕は君のためなら、意気地無しにでも平民にでもなる」
10年以上持ち続けた決意は、あんなちゃちな挑発如きで揺らいだりはしない。
それでも、ほんの少しだけ思った。
僕相手には安心しきった顔を向ける希々。幸村相手には頬を染める希々。
「……そう、だね」
そろそろ僕のことも、男として意識してもらう機会だ、と。