ロンドン橋落ちた(不二vs.幸村)
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*九話:大事なこと*
俺は希々ちゃんを学食に誘った。希々ちゃんは少し考えてから、「周ちゃんのいない時でよければ」と答えた。思わず笑ってしまった俺に、彼女は不思議そうな表情を向ける。
「”優しい時の俺“がいいからだろう?」
俺がそう言うと、希々ちゃんは目を丸くして頬を膨らませた。
「幸村先輩、わざと周ちゃんがいる時意地悪なこと言ってたんですか!?」
まさか馬鹿正直にそうだ、なんて言うわけがない。俺は素知らぬふりで小首を傾げる。
「そんなつもりはないんだけど、前に希々ちゃんが『優しい幸村さんの時に言いたいことを伝えたい』って言っていたから、そうなのかなと思って」
希々ちゃんは、納得したように頷いた。
「幸村先輩、こんなに優しいのに、周ちゃんがいる時は意地悪なんです。私、嫌われてるのかなって思ったけど、優しい幸村先輩がいるのも事実だから……」
希々ちゃんは食べ終えた昼食を前に、俺の目を見つめた。
「幸村先輩、私のこと、嫌いなんですか?」
「…………ぷっ」
我慢できず、小さく吹き出してしまう。
「えっ? 今、笑うところありました? 私は至って真面目に質問してるんですけど……」
本当に、ころころと表情が変わる。それが愛らしくて、俺は彼女の頬に手を伸ばしていた。
触れた瞬間、ぴくりと肩が跳ねる。
俺はわざと顔を寄せ、耳元で囁いた。
「……俺は、嫌いな子と二人で食事するほど変わり者じゃないよ」
「!」
耳を押さえた希々ちゃんが、頬を染めて椅子ごと後退った。
「ゆ…………っ幸村先輩、女たらしだ……っ!」
俺はさらに距離を詰め、希々ちゃんの顎に指をかける。
「女たらしだなんて、人聞きの悪い。俺は――……」
唇が触れそうな程近付いて、……でも、あまりに真っ赤な希々ちゃんが可哀想になってそっと離れた。
「……俺は、希々ちゃんに女たらしだと思われてるのかな」
「こ、こんな所で、そんな慣れた感じで……っ!」
「此処じゃなければいいの?」
「!」
自覚したのは君のせいだ。
君の視線を追って、求めて。
君の優しい手のひらに焦がれて。
気付くことさえできないくらい自然に、君は俺の日常に入り込んでいた。
「君に触れるには、不二の許可が必要なの?」
「幸村……せん、ぱい…………?」
本当はわかっていた。泣いている君を見付けた時じゃない。もっとずっと前からだった。
不二裕太を真っ直ぐ見つめる、君の横顔を見た時から。ただ一途に彼を見て、彼に頬を染めて、彼に笑う君を何度も見かけていたあの頃から。
そのひたむきな想いを俺だけに向けて欲しいと思っていた。
「……俺は希々ちゃんが嫌いなわけじゃない。俺以外の男と話している君が嫌いなんだ」
「…………?」
不二の傍にいる君に意地悪なことを言うのも、俺の隣にいる君に優しくしたくなるのも、理由なんて一つしかない。君は言わないとわからないんだろうけど。
「どういう意味ですか?」
「…………知りたいかい?」
「はい。私に悪いところがあるなら直します!」
横目に不二が映る。人波を掻き分け、怒りも露に俺達の方に歩いてくる。
俺は希々ちゃんを抱き寄せ、再び耳元で告げた。
「今日の四限が終わったら、サークル棟の裏口に来て。不二には秘密で。……そこで、二人きりで話したい」
希々ちゃんは俺の背に手を回し、真剣な声で言う。
「わかりました。大事なこと、なんですね」
俺は苦笑しつつ、頷く。
「……あぁ。すごく大事なことだから、他の人間に聞かれたくないんだ」
「はい! ちょっと怖いけど……心しておきます」
約束を交わした瞬間、俺の腕から希々ちゃんが取り上げられた。
「――幸村、僕の幼なじみに手を出さないでくれるかな」
「周ちゃん!」
驚く希々ちゃんを抱き寄せて、不二は細い目に敵意を宿す。
「希々ちゃんは確かに君の幼なじみだけど、君の恋人ではないよね。なのにそんな物言いをするなんて、君は一体どんな立場で物を言ってるんだい?」
「……っ行こう、希々」
希々ちゃんは俺と不二とを見比べて、困ったように縮こまっている。そんな彼女を半ば引きずるように連れて行く不二は、いつになく余裕がない様子だった。俺を振り向きもせず、希々ちゃんの腕を掴んでいる。
俺は唇の端を僅か持ち上げ、口の形だけで希々ちゃんに告げた。
『あとでね』
希々ちゃんは俺にしっかり頷いてから、不二と連れ立って歩いて行った。