禁断集
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幸村精市/妹
***
「希々……」
しなやかな指先が何度も頬を撫でる。焦らしながらゆっくりと耳朶を擽り、制服の隙間から弱い首筋を辿る。
「……っ」
次いで顎を愛撫したと思えば唇をなぞる手つきに、つい反応してしまう。
「せぃ、ちゃん…………」
は、と熱い吐息が漏れた。
「ほら、希々も俺にちゃんと触れて……?」
「うん……」
私も頷き、精ちゃんに手を伸ばした。
綺麗な藍色の髪を梳いて耳にかけながら、陶器のように美しい頬に指を滑らせる。
身長差で私は彼の脚の上に跨る形になってしまう。片脚で私一人分の体重を支えてしまうこの王子様は、今日も誰より美しく、誰より私を熱くする。
「おいで、希々……」
いつものように唇を重ねる。長く、永遠にさえ感じられる瞬間。舌先を悪戯に擦り合わせ、二人してくすりと微笑んだ。
お互いの咥内を確かめ合うキス。届かない場所は体勢を変え、舌を伸ばす。頬の内側、歯列、上顎、下顎、喉を潤す唾液の温度。毎日の習慣だから、私は彼の全てを知っている。彼は私以上に私の全てを知っているのだろうけれど。
うっとりするほど甘い時間。
「希々…………」
「ぁ……」
舌をやんわりと吸われながら、制服のリボンが外された。
「……っ学校でこんなこと、していいの……?」
「中学の時だってしていたのに……希々は俺以外に好きな男でもできたのかい?」
「できるわけ、ないでしょ……」
精市の手は大きくて男らしい。指先はしなやかなのに、関節はごつごつしている。すっかり精市のせいで敏感になってしまった私は、素肌に彼の関節が当たるたび声を押し殺す。
声は出せない。
かと言って精ちゃんは我慢しきれるような手加減なんてしてくれない。
背中と腰をなぞる動きがいやらしい。そのうち脚まで手を下ろしてくるものだから、私は精市の首筋に噛み付いた。
肌を吸って声を抑える。
精ちゃんも恍惚としたため息を漏らした。
「……見える所に付けるなんて、随分積極的じゃないか」
「ど……、せ、……っん……っ、精ちゃんは、ジャージ羽織ったまま、でしょ……っ」
「そうだけどね……」
いつもと同じ昼休み。
私が高校生になっただけで、何も変わることはないと思っていた。
……否、本当は薄々気付いていたのかもしれない。
「やだ、……っも、やめて。おかしく、なっちゃう……っ」
「俺はおかしくなってほしいんだけど?」
「……っ散々っ、私をおかしくした、んだから……っ、責任、取ってよね……っ」
「勿論。希々のことは死ぬまで……死んでからも離さない」
***
私の好きな人は幸村精市という。
私の人生はこの人に狂わされた。
この人に支配されていた。今更修正するなんて不可能な程、奥深くまで。
甘い致死性の毒に侵されていたと知らなかった、あの頃。
***
『おにいちゃん! おとなになったらききとけっこんして!』
『もちろんだよ、おれのおひめさま』
『おにいちゃん、みてー! おひめさまのドレスみたい!』
『……ねぇ希々。俺のこと……“精市”って呼んでくれないかな』
『せいいち? おにいちゃん……せいちゃん!』
『精ちゃん……? ふに、って……これ、なぁに?』
『唇で大事な人に触れることを……キス、って言うんだよ』
『きす? ふわふわしてきもちいーね!』
『ねぇ、精ちゃん……小学校の友達がね、家族とキスするのはおかしいって言うの』
『何もおかしくないよ。みんな言わないだけだ。……でも、俺達もこれからは秘密にしようか。母さんと父さんだけじゃなく……友達にも』
『うん、わかった!』
***
私は兄に、人生を狂わされている。
本当はわかっていた。
戻れないこの関係を終わらせるべきなのか続けるべきなのか。百人に聞いたら百人が止めろと言うだろう。
しかし私はもう、精ちゃん無しでは生きていけない。
この身体が、心が、精市無しでは満足できないようになってしまっている。
「精ちゃん…………ずるいね」
「うん。……俺は譲れないたった一つのもののためなら、悪魔に魂を売っても構わないから」
私は兄に、人生を狂わされている。
誰か私を奪って。
否応なく惹かれてしまう心を。
逃げられない鳥籠の鍵を。
逃げたい、逃げたくない、逃げられない。全部が絡まって前に進めない。
この歪な関係に、きっと名前は存在しない。
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