短編
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*不安を消す温もり*
俺の恋人は隣のクラスにいる。
藍田希々。
本当にいい子で優しくて可愛くて、周りにめちゃくちゃ自慢したくなる。ただ、少しばかりミーハーなのが俺の懸念材料だった。
顔がいい人間は男も女も目を引く。そんなことはわかっているが、彼氏としては気になってしまう。
俺は別にモテたいわけではない。希々に好きだと思ってもらえればそれだけでいい。が、彼女にカッコいいと思ってもらうためにはモテた方がいいのだろうか、などと考えては無駄な思考ループに陥ってしまう。
そんな俺が密かに勝手にライバル視しているヤツがいる。希々のクラスで一番モテると噂の男子生徒、名取だ。サッカー部主将の名取は、跡部の顔を見慣れている俺から見ても確かにイケメンだ。今は彼女募集中らしい。
……俺と名取なら、どっちがええんやろ。
きっかけはそんな、些細な対抗心だった。
***
「藍田ー! 忍足が呼んでるー!」
「え!?」
昼休みに友達と話していた私は、びっくりして席を立った。
私を呼んでいるのは、同じクラスの名取くん。氷帝の中でもイケメンと噂される彼と私に繋がりはない。話すこともほとんどなかったため、名前を呼ばれるのは新鮮だった。
「は、はーい、今行きます! ありがとう!」
お礼を言って教室の外へ出る。すれ違いざま目に入った名取くんの横顔はアイドルみたいに綺麗で、目の保養だなぁなんて思っていた。
でも、廊下で待っていた侑士くんを見たらそれどころではなくなってしまった。
「ゆ、うしくん……?」
「……あいつ、イケメンやな」
私の腕を引いて、すぐ耳元で侑士くんが囁く。
「……あいつに呼ばれてドキドキした?」
「えっ……?」
「俺と名取、どっちの顔が好き?」
不貞腐れたみたいな侑士くんの顔を見たら、頭の中が侑士くんでいっぱいになるに決まっている。
「侑士くんだよ」
「……ほんまに?」
普段感情の変化を見せない侑士くん。
モテる彼氏を持って不安なのは私だけだと思っていた。私なんて別にモテないのに侑士くんは不安になっていると思うと、少し可愛かった。
「侑士くんだよ。私が好きなのは侑士くんだもん」
「……」
無言で抱きしめられて、慌てて離れる。
「ちょ、侑士くん!」
ここは学校の廊下で皆の目がある。嬉しいけれどさすがに恥ずかしい。
「名取くんは確かにイケメンだなぁって思うけど、それだけだよ。別にドキドキなんてしないし……」
「……せやけどあいつにこうされたらドキドキするやろ?」
「えぇえ、どうしたの侑士くん……?」
ホワイトデーが近いから男子の間でそんな話題になったのだろうか。
いつも大人びているだけに、どこか子供じみた侑士くんの態度は私の心拍数を上げた。
「そ、そりゃあ緊張するとは思うけど、ドキドキするわけじゃないよ」
「ほんまに……?」
「そうだよ! むしろ今……ドキドキしてるよ」
侑士くんだっていつもは周囲の目をきちんと気にして、あまり接触しない。手を繋ぐことも学校を出てからだった。
その侑士くんが衆目より優先したい気持ち。
私はそれを聞いてあげたかった。
「……ね、侑士くん。ちょっとこっち来て」
「?」
私は侑士くんの手を引いて、こっそり廊下端の給湯室に潜り込んだ。昼とは言え電気をつけないと薄暗い。特に校則に書いてはいないが、基本的に生徒の立ち入りは禁止という暗黙の場所だ。
教師が来る可能性はあったものの、運良く誰もいないようだった。
「誰もいなくてよかった。……ね、侑士くん」
「?」
「しゃがんで?」
「……おん」
私も膝をつき、しゃがんでくれた侑士くんを抱きしめた。私の胸の位置に侑士くんの耳をあてる。
「ほら……わかる? ドキドキしてるの」
「……!」
立ったままでは侑士くんの方が背が高いから、私の鼓動を聞いてもらうことができない。
理解したらしい侑士くんが、そっと目を閉じた。
「…………ほんまや。ドキドキしとる」
「でしょ? ……こんな風になるの、名取くんじゃないよ。侑士くんだけだもん」
「……逆に俺以外にこうなられたら困るわ」
私の心拍数は伝わったみたいだ。侑士くんの肩から力が抜けていくのがわかって、私も嬉しくなった。
「何か不安だったの?」
侑士くんは私の背中に手を回し、ぽつりぽつりと呟いた。
「……クラスでホワイトデーのお返し、どないしよって話になったんや。俺は希々からしかもらってへんから関係ない思たんやけど、『名取とかどうやって選んでんだろうな』とか『今彼女募集中らしいから、彼氏捨ててアタックした子がいるってマジ?』とか、そんな話が耳に入ってもうて……」
何をしているんだ名取くん。
まぁ跡部会長みたいに、背びれ尾ひれがついた噂だとは思う。
でも、それを聞いて不安になってくれたことが少しだけ嬉しい。
「侑士くん、私が名取くんのこと好きにならないか心配してくれたの?」
「……俺はクラスちゃうし、名取の方が希々に近いやん。イケメン好きになるなんて普通のことやし、希々かて名取の顔見てたら好きになってもおかしない……とか考えてたら不安になってしもた……」
か、可愛すぎる侑士くん……!
私は腕の中の侑士くんをぎゅうっと抱き締めた。
「希々っ?」
「侑士くん大好きー!」
侑士くんの方がカッコいい。それに可愛い。こんなカッコ可愛い彼氏がいて、他の人を見ている暇なんてない。
「侑士くんが好きだよ。他の人じゃないの。侑士くんなの」
「希々……」
「何回でも言うから安心してね。ふふ。ホワイトデーのお返し、用意してくれたの?」
「そりゃあもちろん」
私は笑って侑士くんの香りに頬擦りした。
「楽しみにしてるね!」
「せやけど……」
「?」
侑士くんが私の腕から抜け出して、私の目を見つめた。
「ゆ、――」
唇を優しく塞がれて、言葉が途切れた。
校内でこっそりキスをするなんて初めてで、私の頬が熱くなる。
薄暗がりでもわかるほど赤くなった私を見て、侑士くんは少し悪戯っぽく笑った。
「物のプレゼントは放課後、思い出のプレゼントは今……っちゅうことで」
「……っ侑士くんー!」
私の彼氏はカッコ可愛い、最強の恋人だ。
Fin.