彼女は貝を売る(跡部vs.宍戸)
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*三十四話:友人A*
「ねぇジロちゃん。好きって、どんな気持ち?」
久しぶりに遊びに誘われたと思ったら、出会い頭にこの質問。
さすがの俺も面食らった。
「いきなりすぎだC~。……え、希々ってば跡部と上手くいってないの?」
「ちが、違う! えっと、その…………っいろいろあって、相談したいの!」
「俺、いい答えあげられるかわかんないよ? そーいうの、跡部の方が得意そうだけど」
あ、でもその跡部のことが相談内容なら仕方ないか。
俺は丸井くんオススメの喫茶店を希々にスマホで見せて、「ここに付き合ってくれるなら、話だけでも聞くよ」と告げた。
希々は取れそうなくらい首をぶんぶん縦に振った。
「お願いジロちゃん! ジロちゃんが最後の頼みの綱なの……!」
「? おっけー」
自分で言うのも何だけど、こんなふわふわした俺に相談なんて変なの。
まぁ宍戸もだけど、小さい頃からの付き合いだかんね。俺からしても希々は妹みたいな存在だし、頼られて悪い気はしない。
丸井くんオススメ喫茶店の中で、丸井くんオススメパフェを食べながら希々を見つめる。希々は紅茶を一口飲んでから唇を開いた。
「……あの、ね」
「うん」
「私…………小さい頃から、ずっと好きな人がいたの。初恋の人」
「うん」
「……え?」
俺は「聞くって言ったじゃん。とりあえずぜんぶ話してみてよ」と続けた。
希々は戸惑いつつ、拳を握って小さく息を吐く。
「……それは叶わない恋で、忘れなきゃいけないって思ってて、……つらくて抱えきれなかった私を、先輩が助けてくれたの。だから私は…………景ちゃん先輩のこと、好きになったの」
「うん」
え、跡部ってば片想いの状態で婚約まで持ってったの?
めちゃくちゃ希々のこと好きじゃん。べた惚れじゃん。
「景ちゃん先輩と一緒にいて、その人のことをようやく忘れられたって思ったのに、…………つい最近、その初恋の人に……告白、されて……」
「うん」
え、跡部ピンチじゃん!
どーすんだろ。俺としては顔も知らない初恋の人よりは、跡部の方が応援したくなるんだけどねー。
「私……景ちゃん先輩のこと、好きだよ。大好き。私の悩みを聞いてくれて、忘れられない人がいるって知ってても婚約者にしてくれた。ずっと傍にいてくれた」
「うん」
うわー、健気な跡部とか面白い。
でも中学の頃から跡部は希々に甘かったCー。
ま、それを言ったらレギュラーはみんな希々に甘かったけどさ。
「でも、初恋の人に好きって言われると、……私の中の気持ちが、戻ってきちゃうの。ずっと言えなかった好きが、溢れてきて……」
「……うん」
好き、か……。
俺にも初恋の人とかいたなー。
「……景ちゃん先輩も、知ってるの。私が……初恋の人と景ちゃん先輩の間で揺れてること」
「……うん」
……はつこい、って確かにおっきいけどさ。
「……だけど先輩は、怒らない。その人ともちゃんと話し合えって言ってくれる。……つらくないわけ、ないのに……」
「…………」
跡部……。
「……らしくないC」
「え……?」
「跡部、らしくない。希々もそう思わないの?」
「、」
俺はパフェをつつきながら頬を膨らませた。
「だって跡部は何様俺様跡部様でしょ? 片想いの希々を婚約者にしちゃうくらいめちゃくちゃなんでしょ? その跡部がなんでそんなに弱気なの? 初恋の人って、そんなに強いの?」
「そ、れは……」
俺の知ってる跡部なら、高笑いしながら欲しいもの全部掻っ攫っていく。
横恋慕してても婚約者にしちゃうくらい強引で、片想いを両想いにしちゃうくらい魅力的。
跡部は厳しいけど優しい。そんなの俺だけじゃなくてみんな知ってる。
「……跡部、我慢してるんだよ。ほんとに希々のこと大事だから、強がってるんだよ。わかんないの?」
「……っ」
希々が苦しそうに目を逸らすけど、俺は跡部みたいに甘やかしたりしない。跡部が言わないなら、俺が言う。
「希々が悩んでるのはわかった。でも……跡部はきっと、希々より痛い」
「!」
跡部は痛くても見せない。一人で努力して一人で解決しちゃうから。
跡部は人を頼らない。昔から自分だけでどうにかしようとしちゃう。
それを悪いことだとは思わない。だってそれが跡部だから。跡部の選ぶ生き方だから。みんなの好きな跡部だから。
だけど俺は跡部の友達だから、跡部が一人で抱えて痛がってるのは嫌だ。
「俺、希々のこと好きだよ。ちゃんと話、聞くよ。だけど俺、跡部の味方しかできないと思う」
「、……」
跡部が希々のことになると弱気になるのはわかった。だったら俺が、跡部の背中押してあげる。
「希々は最初、“好きってどんな気持ち”って聞いたよね。なんで?」
希々が俯いて、ぽつりと呟いた。
「……先輩への好きと、初恋の人への好き、どっちが本物の“好き”なのか知りたくて……」
「……ふーん」
希々は希々なりに悩んでる。
真面目だから、本物の好きじゃないなら別れた方がいいとか考えてるのかもしれない。いやきっと考えてる。宍戸といい希々といい、なんでこの兄妹は視野が狭いのかな。猪突猛進っていうか。
「……ごめんねジロちゃん。私、ジロちゃんに不快な思いさせてる……」
泣きそうな希々を見て、仕方ない、と息を吐く。
「希々」
俺にはわからない葛藤とかもあったと思う。
跡部が何も考えないで希々を甘やかしてるとは考えづらい。きっと俺の知らない事情がある。
だけどさ。
もっとシンプルに考えよーよ。
「……跡部とその初恋の人、どっちとさよならするのが嫌?」
瞬間、希々は弾かれたように顔を上げた。アメジストの瞳が俺とかち合う。
「希々の好きは、希々にしかわかんないよ。そーいう恋愛感情? って、定義できるものじゃないし、人によっても違うでしょ? だからさ、どっちが希々にとって“失くしたくない存在”なのか考えて」
「ジロ、ちゃん……」
「本物の“好き”がある相手を選ぶんじゃないよ。希々が選んだ人が、ほんとに好きな人なんだよ」
「……っ!」
希々の大きな瞳が、湖みたいに涙を湛え始める。
「ずっと傍にいてずっと守ってくれて、ずっと希々のために傷付いてくれた跡部? それとも、一番はじめに好きになった人への気持ち? ……希々が失くしたくないのはどっちかなんて…………もう、わかってるじゃん」
俺の言葉の途中から、希々は泣き始めてた。
ちょっと意地悪しちゃったかな、と思いつつ、その頭を撫でる。
「ごめん……っ、ごめんねジロちゃん、私ばかで……っごめんね……っ!」
「んーん、お役に立てたならよかったC~」
「ごめんねジロちゃん……っ!」
希々を泣かせやがって、とか後で怒られるかな。
ま、言いたいこと言えたから、お叱りは後で受けるCー。
そんな、俺の初めての恋愛相談だった。