彼女は貝を売る(跡部vs.宍戸)
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*三十一話:誘惑*
俺達は兄妹だ。人に見つかる場所でいちゃつくことはできない。
その点家は最高のデートスポットだった。お家デート、という単語があるのも頷ける。
俺はサークルが休みの度――時にはサークルをサボって、希々を家に呼んだ。
希々は俺からの誘いを断らない。欲を言えば毎日呼びたいところだったが、さすがにそこは自重した。今も名目上希々は跡部の婚約者であり、両親も納得しているのだ。あまりこちらに連れ帰って俺達の仲を両親に気付かれるわけにはいかない。しかし俺は懲りずに、今日も今日とて妹を誘惑する。
「……やっぱり帰って来いよ、希々。そうしたら毎日一緒にいられる。毎日こうやってお前を抱きしめられる」
「…………できないよ……」
俺の部屋。ベッドで後ろから希々を抱きしめる。この姿勢が俺のお気に入りだ。項や耳に口づけると一瞬息を止める様子が堪らない。感じて反応してしまうのを隠そうとしているらしい。健気な態度は俺の庇護欲と加虐心を同時に擽る。
耳の輪郭を唇で辿りながら耳孔に息を吹きかければ、耐えきれなくなった喘ぎ声が小さく響く。
「ぁ…………っ」
「いいじゃねぇか、跡部とは喧嘩でもしたことにして帰って来いよ……。俺、お前が好きで仕方ねぇんだよ……希々……」
希々は精一杯の抵抗とばかりに首を左右に振る。
「だめ……! 景ちゃん先輩のところに、戻るって約束したもん……っ」
「……もう、いいだろ? 俺は覚悟できてんだ。希々と生涯を歩みたい……禁忌でも何でもいい。俺はお前さえいれば怖いものなんてねぇ」
「……っ!」
そっと腕を解き、優しく希々を押し倒す。潤んだ瞳に映る俺は、完全に欲情した男の顔つきだった。
「希々もずっと考えてくれてたんだろ……? 偏見に晒されても勘当されても、何が来ても俺がお前を守る。孤独だって二人で分け合えばいい」
「お兄、ちゃん……」
「――俺のとこに、堕ちて来いよ……」
はじめは触れ合うだけだったキスも、俺が好きだと繰り返しているうち熱を帯びた。両手の指を絡めてぎゅっと握り、互いの咥内を貪り合う。
「ふ……、は、ぁ…………っ」
蕩けた眼差しで俺を見上げる希々は、すぐに力を失ってされるがまま深い口づけを受け入れた。
「跡部とこんなキス、してんのか……?」
希々はとろんとした目つきで首を横に振る。
「せんぱいのキスは、やさしくてあったかいの……」
「……へぇ?」
自然とあの日から、俺のターンと跡部のターンのようなものが発生していた。
自分から言い出した癖に、俺と希々だけの空間で跡部の名前を聞くと嫉妬してしまう。
「……俺のキスは、嫌いか?」
「え……?」
俺はこの機にたたみかける。
「俺、お前が欲しくて頭がおかしくなりそうなんだ。お前が帰って来る日は、ついがっついちまう。……けど、それが怖いとか嫌なんだったら教えてくれ」
「おに……ちゃん……」
小さな唇を親指の腹で何度もなぞり、流れるようにブラウスのボタンを外した。
外気に触れる柔らかな素肌は僅かに熱を帯び、薄紅に色づいている。
「……好きだ、希々。まだ初めての経験がねぇなら、……相手は俺じゃ駄目か……?」
「……っ!!」
希々は目を見開いた。
「は、じ、めて…………?」
「あぁ」
ややあって希々は身体を強ばらせ、顔を背けた。
「……っだめ」
「怖いからか?」
「そ、れも、あるけど…………」
希々は何かを見つめている。その視線を追った俺に、一瞬で嫉妬の炎が燃え上がった。
希々が見ていたのは、跡部がやったといううさぎのぬいぐるみと同じキャラクターのキーホルダーだったからだ。
「初めて好きになったのはお兄ちゃんだけど…………初めてキスしてくれたのは、景ちゃん先輩だもん…………。そんな簡単に言わな、」
「――希々」
彼女の言葉を遮る。
「俺のこと、好きか?」
「……っ好き、だよ…………」
「跡部とどっちが好きだ?」
「っ!」
希々は唇を引き結んだ。
「…………わからないよ、そんなの…………。わからないから、悩んでるの……。わからないから、考えてるのに……」
「希々、」
「……もう門限だ。私、帰るね」
俺の手をすり抜けて、希々は逃げるように帰ってしまった。
「激ダサかよ……」
思わず額に手の甲をあてる。
どうして俺はこんなにも余裕がないのか。
希々の気持ちを考えるなら待ってやるべきだとわかっていながら、俺の本能が急かしているのだ。跡部に時間を与えてはいけない、と。
手に入れたい柔らかな温もりが、思い出すだけで全身を熱くする。俺は希々の香りが残るベッドに寝転んだ。
「……好きだ、希々」
お前の心も未来も……身体も欲しい。欲張りな俺を許してくれるか?
希々……。