彼女は貝を売る(跡部vs.宍戸)
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*プロローグ*
『……悪いことは言わねぇ。その感情は捨てろ』
会ってから数年。ようやく切り出した俺の発言に返されたのは、今にも壊れそうな微笑みだった。
『……眼力ってすごいんだね。誰にも気付かれたことなかったのに』
薄ら眦に涙を浮かべ、希々は言った。
『……ねぇ、教えて? 景ちゃん先輩。どうやったらこの気持ちを捨てられるの?』
『私、何回も頑張って試したよ。忘れようって、気のせいだって思い込もうとして、他の人を好きになろうとして……』
『でも、できないの』
『どうやったらこの気持ちを捨てられるのか、一番知りたいのは私なのに』
『もう、どうしたらいいのかわかんない』
『わかんないよ、景ちゃん先輩……』
『私が死ねばいいの? そしたら解放されるの?』
『ねぇ、教えて? 苦しい……苦しいよ。私、どうすればいい?』
『……辛いよ、苦しいよ、……もう、限界だよ……』
『……っ助けて、景ちゃん先輩…………っ』
心が震えた。
気付けば口をついて出ていた言葉。
『――――わかった』
希々は僅かに目を見張った後、笑った。
『……ありがとう』
笑みと共に彼女の頬を流れた一筋の涙を、俺は今も忘れられない。
……いや、きっと生涯忘れられないだろう。
俺はあんなに脆く儚く美しいものを見たことがなかった。
いつかこのアメジストに映る自分を願っていた。
そんな自分から目を逸らした、あの日。
――俺を、好きになればいいのに。そう思いながら。