リジー・ボーデン(跡部vs.幸村)
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*二十三話:奪いに行く*
自業自得で希々さんを失った。そう思っていた俺に告げられたのは、全くもって予想外の答えだった。
俺にしては珍しく、混乱、という状況下で彼女の言葉を聞く。
「精市くんとは……お別れ、するしかないの。……今までありがとう……ね」
「っ!」
壊れそうな笑みを向けられて、反射的にその身体を強く抱き寄せていた。だって俺は今でも希々さんのことが好きだから。
「事実を確認させてほしい」
「……うん」
「希々さんは、俺のことが好きなんだよね?」
「、……うん」
抱き締めたままだと、彼女の些細な動揺までが感じ取れた。彼女は俺に嘘をついていない。
「でも、跡部のことも好きになってしまった」
「…………うん」
「どっちつかずの気持ちのままで俺と付き合うわけにはいかないから別れたい、ってことだよね?」
「……う、ん。……本当に、ごめんなさい…………」
俺は納得がいかなかった。少し前に希々さんは、跡部から好きだと告げられたものの断った、と言ってくれた。俺のことが好きだ、とも。
ならばいったい何故、彼女の気持ちは跡部に傾いてしまったのか。
彼女は嘘をついていない。それは確かだ。しかし、隠し事なら?
俺は平静を装って尋ねる。
「ねぇ、希々さん。……俺に嘘はついていなくても、隠してることはあるよね?」
「!」
腕の中の細い肩が震えた。
「きっとそれが……跡部に気持ちが傾いた理由だよね」
「……っ!」
彼女の右首筋に消えかけた跡を見つけて、その疑念は確信に変わった。
「跡部と何があったのか、全部教えてくれるかい……?」
そもそも別れるつもりで来た彼女には、隠し通す理由がない。希々さんはしばらく気まずそうにしていたものの、やがて重い口を開いて教えてくれた。
「実は――――……」
――――――――…………。
――――…………。
――……。
***
そうか。
跡部、君はどんな手段を使っても希々さんを手に入れようとしているんだね。
ずっと……ずっと。俺が望んでも手に入らない毎日をいとも容易く手にしていたわけだ。
だけど、まだ一線を越えてないってことは俺と同じ立ち位置じゃないか。
君が今までどれだけ卑怯なことをしてきたか……今度は俺が、君に教えてあげるよ。
結婚の約束をするくらい愛した人を、易々と渡せるほど俺は温くない。
「……顔を上げて、希々さん」
「……っ」
涙を浮かべてこれまでのことを話してくれた希々さんに、俺はなるべく優しく声をかけた。
「俺は貴女が好きなままだから別れたくないけど、貴女がそうしたいのなら、一度別れよう」
希々さんはこくりと頷いた。拍子に頬を伝う涙は綺麗で美味しそうで、思わずその雫に唇を寄せる。
「せ、いいち……くん……?」
俺は微笑んで彼女の顎を掬い、口づけた。
「、…………精市、くん?」
「俺は希々さんのことが好きだから、……これからは片想いすることにするよ」
「……へ!?」
希々さんは目を丸くした。
俺はくすくす笑いながら告げる。
「だって、跡部の時も貴女は言った。諦めきれない跡部の片想いを許すって。なら、俺の片想いだって許してくれるだろう?」
「え、でも、私は本当に最低な二股女で……!」
「本当に最低な二股女はこんな風に素直に恋人に打ち明けたりしない。黙って二人と付き合うのが二股、なんじゃないかな?」
「で、でも……!」
希々さんは本気で戸惑っているようだった。恐らく彼女には俺との関係が終わる未来しか見えていなかったのだろう。
でも、これまで築いてきた絆と信頼はそんなに簡単には崩れない。1年付き合ってきたんだ。俺は貴女がどういう人か知っている。
「初めて好きになった人が俺だって、言ってくれたよね」
希々さんは眉をハの字に寄せて頷く。
「初めて別の人にも惹かれた……それくらいのことで、俺が希々さんを嫌いになると思ってたの?」
「え……?」
何もかも初めてなんだから、何が起きても不思議じゃない。俺にとって彼女が跡部に絆されることは想定内だ。
「俺は跡部に負けるつもりはないよ。希々さんにもう一度俺を選んでもらう」
跡部とそんなにしょっちゅうキスしていたなんて妬けるけど、裏を返せば俺ももう遠慮しなくていいってことだろう?
「精市くんは! ……っ同い年の子とか、家のしがらみのない子を選べる。今からでも遅くないから、そうした方が、――」
希々さんの頬を包み、口づけで台詞を塞ぐ。流れるように後頭部と腰を引き寄せ、唇を重ねた。
「ん……っ!?」
早々に甘い咥内に侵入し、舌を絡め取る。今まで我慢していた分を取り戻すように、俺は深いキスに夢中になった。
やがて希々さんの膝が力を失い、かくっ、とくずれる。頬を上気させ薄く唇を開いたその表情はひどく扇情的で色っぽい。
俺は小さく笑って彼女を抱きしめ、耳元で囁いた。
「これからは――俺が貴女を奪いに行くよ。覚悟しておいて、希々さん」