リジー・ボーデン(跡部vs.幸村)
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*二十一話:あんたの全部を知りたい*
ようやく希々の心が俺へも傾き始めた。いや、傾く可能性はむしろ低かったくらいなのだから、ようやくという表現は語弊がある。
それでも俺にとって合意のキスは、これ以上ない褒美と言えた。
押し倒したままの希々を見下ろして、小さく呟く。
「……俺のことも、ちっとは好きになったかよ」
希々は眉を寄せて困ったように瞬きする。これは彼女の、言葉にできない肯定の態度だ。ここ数ヶ月で俺は希々の様々な癖を知った。
もっと知りたい。もっと距離を縮めたい。あんたの全部を俺は知りたいんだ。
「少なくとも親戚の弟……ではなくなっただろ?」
今度は微かだが確かに首が縦に動いた。
希々の髪がベッドに広がって波紋を描く。大きな鳶色の瞳は戸惑っているようだった。
「俺のことも好きになれよ」
「、そ……んなこと、」
「いや……最初あれだけ抵抗したあんたのことだ。本気で嫌なら俺を突き飛ばしてるよな。…………俺のことも、好きになりかけてるんだろ?」
「……っ!」
見開かれた目はすぐに伏せられた。
「ち、……がう、から。私は精市くんが好き、なんだから……」
自分に言い聞かせるようにそう告げた希々の頬に手を滑らせ、柔らかく唇を重ねながら囁く。
「……別に幸村のことを嫌いになれっつってるわけじゃねぇ。俺のことも好きになれ、っつってんだよ」
希々は俺からのキスに、溶けた眼差しで言を継いだ。
「だって、そんなの……二股、だよ……」
俺は喉の奥で笑う。
「言わなきゃバレねぇよ。……俺のことも意識してるよな。そうじゃなきゃこんなに蕩けた顔……見せねぇだろ?」
「ぁ…………」
そっとブラウスの釦を外していく。希々は身体を硬直させ、胸の前でぎゅっと手を握った。俺は鎖骨辺りまでで一度動きを止め、邪魔な両腕を彼女の顔の左右に縫い付けた。
「け……ご、くん…………?」
最初は耳朶に何度もキスを落とし、リップノイズを鼓膜に送った。次は耳の輪郭に軽く歯を立てる。
「……んっ……!」
最近気付いたが、希々は感じやすい。これからの初めての感覚は全部俺が教えてやりたかった。
耳輪を愛撫し、耳孔に舌をねじ込む。
「あ……っ」
熱に浮かされたように、希々は喘いだ。きつく目を閉じ、首を左右に動かそうとするも俺の両手で阻止されている。
「ゃ、け……ごく、」
「もっと俺を感じろ……」
希々の両手に両手を重ね、指を絡めた。耳朶の形を舌でなぞり、骨格に歯を立てる。
囁くと同時にわざと息を吹き込むと、希々は喉を反らしてぴくっと震えた。俺の指を強く握り、快感から逃れようと熱い呼吸を繰り返す。
「ん……っ、ぁ、ゃ…………っ!」
耳の奥まで舌を差し入れる。
「ゃ、けぃごく、それ、やぁ……っ!」
ちゅ、と耳孔ごと吸い上げれば、希々の喉から一際甲高い嬌声が漏れた。
「嫌、じゃねぇだろ? 気持ち良さそうな顔しやがって」
「ゃ……、だめ、きもちよくて……おかしくなっちゃう……!」
「!」
予想の斜め上を行く反応に、うっかり俺もスイッチが入ってしまった。
少しかさついた唇に噛み付き、割り入って早々に舌を絡め取る。希々は慣れないながらに、キスに応えようとしてくれた。その健気さに胸の奥が熱を持つ。
「ん…………っ、ぅ、…………は、ぁ……っ、けぃご、く、ん、」
「……ん?」
「け、ご、くん」
「……あぁ」
眦に涙を滲ませて、希々は弱々しく俺の指を握り返した。
「……希々……」
曖昧な立場にいる彼女からの精一杯の同意に、どうしようもなく溢れてくる想い。愛情と色欲がせめぎあい、体温を上げていく。
「……っけ……ごく、――」
歯列の裏から下顎へ、頬の内側から上顎へと咥内を確かめ、味わい尽くす。遠慮がちな舌を吸う度上がる甘い声に、頭がおかしくなりそうだった。
希々はこの感覚が好きなのだろう。絡め合った指先からどんどん力が抜けていく。湿った吐息で二人の間が満たされ、ずくんとした快感が腰から湧き上がる。俺は希々の好きなキスを執拗に繰り返して情欲を煽った。
「ふ、…………ぁ、ん…………」
何分そうしていただろうか。
既に希々の頭は機能していないらしく、抵抗の気配すらなくなっていた。どころか、もっとと俺を求めるかのように扇情的に見上げてくる。
濡れた唇から小さな舌が覗き、溢れかけた唾液をゆっくり舐め取る。そんな動き一つさえやけに官能的に見えて、俺の思考もだいぶぐずぐずに融けていると自覚した。
怖がらせるつもりはない。
しかしこのまま終われるほど俺は我慢強くない。
「希々……」
ほんのり色づいた首筋に舌を這わせ、鎖骨まで行き来させる。
希々は必死に声を抑えようとしているようだった。何度もびくりと身体を痙攣させ、無意識だろうか膝を擦り合わせる。
弱い首筋から鎖骨まで触れるか触れないかのキスを往復させると、希々は俺の指を握りしめたまま何度も首を左右に振った。
「ゃ……っも、らめぇ……っ」
「……何がだ?」
希々は涙を浮かべて訴えた。
「お、おかしく、なっちゃうから……! も、はなして……っ!」
「…………」
このままじっくり快感を教え込むつもりだったが、何の覚悟もできていない希々はもう限界だとばかりに俺を見上げてくる。
そこで俺は名案を思いついた。
「希々が俺のことも好きだと認めたら、今日のところは退いてやるよ」
「……っ!」
希々が躊躇う間もキスを続けた。
恋人にするように優しく舌を捕まえて、絡めて、吸う。
それだけで希々の眼差しは再び溶け出した。力の抜けた両脚が無防備に投げ出され、心地良さそうに目が細められる。
「……俺のこと、好きだろ? 希々」
「……ぅん…………」
判断力の鈍った唇は何も考えず俺の言葉を反芻する。
「……誰のキスが好きなんだ?」
「け……ご、くん……」
弱い右首筋に舌を這わせ、緩やかな刺激を与えつつ強く吸い上げた。
「ぁ……っ、ん…………ぅ」
その付近に数ヶ所濃い跡を付け、俺は片方の口角を持ち上げる。
「……誰が好きなんだ?」
希々は吐息を震わせ微睡みの中、呟いた。
「けい、ご、くん…………けぃごくんが、すき…………」
「言質、取ったからな」
――――――――…………。
―――――…………。
――……。
唇が痛みを覚えるほどキスを重ね、気付いた頃には希々は寝落ちていた。
「……どんだけ気持ち良かったんだよ」
眠る希々をぎゅっと抱きしめて、首筋の印にそっと口づけた。
「……早く俺様だけのものになれ、馬鹿希々」