リジー・ボーデン(跡部vs.幸村)
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*二十話:だめだよ*
私、どうしちゃったんだろう。
自分で自分のことがわからない。
以前は精市くん以外の人とするキスなんて嫌だった。景吾くんからのキスが嫌だった。なのにいつからか心地良いと感じるようになっていた。安心できるようになっていた。気付けば今では、景吾くんからされる毎晩のキスが嫌ではなくなっていた。
一方精市くんは、あれから触れるだけのキスしかしなくなった。彼は自分に厳しいから、きっと私との約束を破りかけたことをまだ悔いているのだろう。精市くんとはお互いにキスの話題を避けるようになっていた。
景吾くんのキスは予測できない。触れるだけだったり、小鳥が啄むようなもので終わる日もあれば、それこそ深く官能的な口づけで腰砕けにされる日もある。
強引になったり優しくなったり、景吾くんの考えていることが私には全くわからない。ただ一つわかるのは、認めたくないけれど私の中で景吾くんの存在が大きくなっていることだった。
頭の中がぐしゃぐしゃの今日も今日とて、景吾くんは私に手を伸ばす。
「希々」
乾かしたての艶めいた髪が、シャンデリアの細かな光を受けて虹色に透ける。
どこかの国の王子様みたいに景吾くんは微笑んで、私を引き寄せた。
景吾くんのベッドに乗せられて、耳の裏や首筋にちゅ、と口づけられる。
「、……っ」
ぴくり、と震えたのは反射だ。くすぐったい、だけでなく感じてしまったことを悟られないよう唇を引き結ぶ。
景吾くんは私の首筋を指先ですっと撫でた。
「……ここ、弱いんだろ?」
「っ!」
私の些細な抵抗など無意味だった。景吾くんは全部お見通しだ。
「べ、別に弱くないから!」
くつり、と喉の奥で笑って、景吾くんは私の頬を両手で包んだ。
「そういうことにしといてやるよ」
「、――――」
唇が重なった。今日はゆっくり数回、角度を変えて口づけられる。ふわりとした感覚に夢見心地になった。
ふ、と離れる唇が物足りない。
もっとして欲しい、と思ってしまったことに罪悪感が湧いた。だって私は精市くんの彼女、なのに。
最早このキスは脅しではなく合意だ。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
頭の中は混乱の極みで、心の中は揺れ動く。
もう、考えないようにしよう。早く寝てしまおう。精市くんのことだけ考えて眠ればきっと、この不安は夢へと消えてくれる。
何とか自分に言い聞かせる私を知ってか知らずか、景吾くんは僅かに目を細めて問うた。
「俺とのキス……まだ嫌か?」
「……っ!!」
私は視線を落として答える。
「い……っ嫌、…………ではない、けど……」
「……けど?」
景吾くんの声が甘い。ずるい。私の拒絶が薄れてしまったことをわかっていて、言わせようとしている。低くて少し掠れた声が、耳の奥から侵食して私の理性を揺さぶる。
私は精一杯の足掻きで、景吾くんの目を真っ直ぐ見つめ返した。
「……だめ、だよ」
「何でだ?」
「私は……精市くんの彼女だから」
「知ってる」
あぁ、だめだ。
そんな熱い眼差しを向けられたら、もう何も言えなくなってしまう。
どうしよう。ごめんなさい、精市くん。
「“嫌だ”なら止まるが……“駄目だ”なら止まらねぇぞ、俺は」
「……っ、だ、だめ、だよ……」
ごめんなさい、精市くん。
「……好きだ、希々。……俺のことも好きになれ」
「だめ、――――」
言い訳のように紡ぎ出した言葉は、くらくらするほど熱いキスに飲み込まれた。
精市くんにではなく景吾くんに覚えさせられたキスに、身体は否応なく反応してしまう。だって、教えられてしまった。一方的にされるキスよりも、求め合うキスの方が心地好いと。
「……っん、ぁ…………っ」
「ふ、…………もっと舌出せ」
「ん、こ……う…………?」
「あぁ。……やればできるじゃねぇの」
舌先を擦り合わせ、絡ませ、唾液を飲み込む。上顎と歯列の裏を刺激し合い、貪るように激しく求め合う。景吾くんの手が私の後頭部と腰に回され、口づけはより深まっていく。まだ慣れない私は景吾くんの背中にしがみつくだけで精一杯だ。
お互いの熱い吐息が間近で感じられて、頭がぼんやりしてくる。舌を軽く噛まれ吸われると、じん、と背筋に快感が走った。腰が浮く感覚。
「ん、ん……っ! ふ、ぁ…………」
「……っあんまり煽るな、馬鹿希々」
「らって、も、……ぁ…………」
ごめんなさい、精市くん。
私、…………景吾くんにも惹かれてる。