リジー・ボーデン(跡部vs.幸村)
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*十九話:変化*
幸村と何もなかったことを確かめたあの日から、明らかに希々の態度が変わった。これまではどこか俺を警戒していたような節があったが、その壁が一気になくなったのだ。無邪気な笑みが向けられるようになり、彼女から触れられる機会も格段に増えた。
「景吾くん! 今日は私が景吾くんの髪、乾かしてあげるよ」
「……おう。じゃあ、遠慮なく」
「こっちこっち!」
いつかと逆で、希々のドレッサーに俺が座らされる。背後では希々がドライヤーを手に俺の髪をそっととかしていく。
「熱くない?」
「あぁ」
「痛くない?」
「あぁ」
同じようなやり取りを繰り返し、俺は鏡の向こうの希々を見つめた。真剣な表情で俺の髪を乾かす希々は、自分が見られていることに気付いていない。
時に眉間にしわを寄せ、時に満足げに頷く彼女はどこか微笑ましかった。
「はい、こんな感じでどうかな? 乾かし足りないところある?」
「いや、十分だ」
鏡越しの希々と目が合うと、彼女は嬉しそうに笑ってくれた。
「景吾くんの髪、ほんとに綺麗だね」
「……今は同じシャンプー使ってんだろうが。希々の髪だって綺麗だ」
俺が勧めた薔薇の香りのシャンプーとコンディショナーを、希々は大人しく使っている。俺と希々の匂いが同じ。夫婦感が増す気がしてにやけそうになった頬を慌てて引き締めたのは記憶に新しい。
希々は俺の髪に手を滑らせながら唇を尖らせる。
「んー。使ってるものは同じなんだけど、何か違うんだよね。景吾くんの髪はつやつやしてるっていうか、ダメージがないっていうか」
「俺は染めてねぇからじゃねぇの?」
「やっぱり? 染めるとどうしても髪痛むよね……。景吾くんは地毛の色も綺麗で羨ましいなぁ……私、びっくりするくらい黒髪が似合わないんだよ」
正直、希々の髪は十分美しい。ダメージなど微塵も感じさせない。
しかし今の問題はそこではなかった。
「っ、」
俺は動揺を気取られないよう、腹に力を入れた。
さっきから希々の細い指先が、俺の髪を梳くたび首筋を掠める。香りを確認するためなのか、彼女が顔を寄せるたび俺の耳朶に吐息がかかる。
何だこの幸せな拷問は。
いや幸せだが拷問だろう。
うっかり頭の中がその色に染まりかけた。
「……っもう触るな」
冷静な思考に戻ろうと俺から手を振り払ってやったのに、希々は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「えー、もしかしてくすぐり弱いの? 景吾くん」
「んなわけねぇだろ」
「え、ほんと? ねぇほんと?」
「……っ」
これはまずい。俺は立ち上がって離れようとしたが、希々の方が一歩速かった。
「こちょこちょー!」
希々は抱きつくようにして俺の脇腹をくすぐりだした。
「っ!」
俺と同じで風呂上がりの高い体温。薄いパジャマ越しに柔らかい身体が触れる。距離感が変わったのは希々であって、俺ではない。
混ざり合う香りがまるで媚薬のように理性を遠ざけた。
「あれ? 景吾くん、脇は平気なのかな? 弱いのは首だけ、――」
隙をついて、見当違いなことを囀る唇を塞ぐ。
「んっ……」
距離が近いのをいいことにそのまま抱きすくめてキスへと雪崩込んだ。毎晩しているからか、希々は一瞬だけ肩を震わせたものの、抵抗せず俺に身体を預けている。
後はその唇を貪るだけだった。鼻にかかった小さな喘ぎ声も、啄むと震える華奢な腕も、俺の熱情を煽る。
――好きだ。
幸村だけじゃなく俺にも触れてくれるあんたが。
馬鹿みたいに笑うあんたが。
子供じみた悪戯を楽しそうに仕掛けてくるあんたが。
……なぁ、希々。
希々の中で俺の立ち位置は何処なんだ?
今もまだ弟なのか?
それとも少しは違う何かになれたのか?
教えてくれよ。
「ふ、ぁ…………」
唇を離すと、溶けた瞳が向けられる。
「……少なくとも“それ”は……弟に向ける顔じゃねぇよな」
再び唇を重ねる素振りを見せてから寸前で止めれば、ねだるように見上げられて。
「……希々」
「け、ご……く、」
「あんたは弟とこんなことをするのか?」
しばし躊躇った後、「、……しない……」と呟いた唇に今度こそ食らいついた。