ソロモン・グランディ(跡部vs.不二)
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*五話*
最近、希々の態度がおかしい。
今まで俺に許可も取らず触れてきたのに、意図して距離を置いているようだった。当然、部屋にも来ない。家に帰ると二日に一度は勝手に俺のベッドでくつろいでいて『あ、景ちゃんおかえり!』なんて笑っていたのに。
おかげで俺は毎日希々がいないか期待して帰宅しては失望する、という不毛なことを繰り返していた。
希々の様子が変わったのは、二週間程前。彼女の誕生日の話をした翌日からだ。
何があったのか聞こうにも、希々の方から避けられている今、できることなど限られていた。
今日も涼しい顔でギャラリーを背負う不二が、隣のコートで勝利を収めてベンチに座っている。
「…………」
こいつに訊くのは癪だが、もし希々がいじめでも受けていたら同じ部のこいつに相談しているかもしれない。
そう思って、俺は嫌々ながらベンチに歩み寄った。
「……不二」
「やあ、跡部」
「……あぁ」
「何か用かな?」
不二は穏やかに返す。
俺は気が進まないながらに口を開いた。
「…………お前の写真部に、俺の従妹が所属してるのは知ってるだろ?」
「希々のことだろう?」
不二は女子を名前で呼ばない。ちくりとした違和感に、目を細めた。
「……お前が名前で呼ぶなんて、珍しいな。そんなに希々と親しいのか?」
「親しい、か…………。そうだね」
不二は感情の読めない瞳を開いて、俺を見据えた。
「これからもっと親しくなる予定だよ。僕は彼女に好きだと告げたから」
「………………は…………?」
喉から、間抜けな声が漏れた。
「回りくどいのは跡部も嫌いだろ? 僕は希々がずっと好きだったから、恋人になってほしいと伝えた。明日返事をもらうことになってる」
「何、で、そんなこと、」
「今まで自分にべったりだった従妹が離れて行くのが寂しいのかい? ……残念だけど希々はもう、君という保護者の手を離れたんだ」
頭が、働かない。
言葉を理解する前に、感情がそれを拒絶する。
「……兄の君には、わからないかもしれないけれど」
不二はそれだけ言い残し、ベンチから立ち上がった。
悠々と去って行く背中を見て、ようやく思考が動き出す。
兄。
またその単語だ。
苛立ちに、ぎり、と歯を食いしばった。
今日のパーティーは希々の20歳の記念パーティーだ。さすがに親戚一堂が集まるのに、俺を理由に来ないなんてことはないだろう。
「……希々…………」
今日という日を待ち続けてきた。どれだけ心に残る一日にできるか、念入りに準備してきた。もっと落ち着いて、余裕すら滲ませて伝えるつもりだった。
しかし今の俺には余裕を取り繕うことができない。
希々が、俺の元から離れて行こうとしている?
考えただけでラケットを握る手に力が入った。爪が手のひらにくい込んで、痛みを呼ぶ。
ふざけるな。
ぽっと出の不二なんかに大事な希々を渡せるか。不二だけじゃない。他の誰かになんて、渡すつもりはない。
俺はその場で帰りの車を呼んだ。
「今から帰る。希々も必ず連れて来い」
逃げるなんて、許さない。
譲るなんて、有り得ない。
20年間の俺の我慢を、募る想いを。
今すぐに伝えたい。