ライオンとユニコーン(跡部vs.幸村)
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*三話*
立海の奴等の話を聞いても、納得なんかできるわけがなかった。だって幸村は、あいつの恋人じゃない。そんな奴、もうこの世の何処にもいないんだ。
希々は嬉しそうに幸村の名前を口にする。俺は内心に蟠るものをどうしたらいいのかわからず、唇を噛み締めた。
どうしてもっと早く見舞いに来なかったんだ。希々は俺のことを覚えているかとか、俺も少しは大人に近付けただろうかとか、そんなことを考えている間、幸村は毎日希々と言葉を交わしていた。一日でも一時間でも早く、この事実を知るべきだった。この、歪んだ関係を。
「……希々、俺…………あんたのことが心配だから、教えてほしい」
立海レギュラーが立ち去った病室で、俺は希々の隣に椅子を持って来て腰掛ける。
「交通事故に遭ったことは、わかってるか?」
「うん。精市さんとドライブしていた時、対向車線からすごい勢いでトラックが突っ込んで来て………………」
希々の声が、途切れた。
「…………そこから、記憶が曖昧なの」
希々はガーゼ越しに目に触れる。
「気付いたら目が痛くて、何も見えなくて、血……? が手に付いて」
希々は自分の腕で自分を抱きしめた。
「……精市さんが死んじゃったんじゃないかって思ったら、意識が消えちゃった」
ぽつり、零された本音に胸が痛む。
「……ほんとに死んでたら、どうするつもりだった?」
希々は俯く。
「…………景吾くんには、たぶんまだわからない。命を懸けて、誰かを愛する気持ち。自分よりも大切な人を想う気持ち」
俺は何も言えなかった。俺が知っていたのは、あの頃から希々には恋人がいたことと、そいつの名前だけ。
まさか幸村と声まで似ているなんて、思うわけないだろ。
「精市さんが亡くなってたら…………私、一人で生きていくって……言えない。ごめんね。子供相手には綺麗事を言わなきゃいけないってわかってるけど……景吾くんは、本気で私を心配してくれてるってわかるから」
細い指を組んで、希々は祈るように口にする。
「私は…………精市さんのいるところに、いる」
「――――」
俺は希々にとって子供、なんだ。でも、ただの子供相手になら本音を言ったりしない。
俺はきっと、ただの子供よりは希々に近い位置にいるんだろう。
それでも俺には何もできないのか。
俺にできることは本当にないのか。
――いや、ある。
希々が俺を好きになればいい。恋人のことなんか忘れるくらい、俺に夢中になればいい。
そうすれば、全部解決する。
そうしなければ、いけない。
そうでもしなければこいつは、ふわふわと俺の手をすり抜けて往ってしまうから。
俺の決意を知ってか知らずか、希々が僅かに背中を丸めた。
「……景吾くん」
「ん?」
「ごめんね、久しぶりに会うのにこんな格好で……何も見えないから何もできなくて。きっと私、髪もぼさぼさで服もだらしないでしょ?」
怪我人に何を求めていると思ってるんだ、こいつは。
少々呆れながら、変わらず綺麗な髪を指で梳いてやった。
「……希々は綺麗だぜ? あの頃と変わらねぇ」
「もう、お世辞が上手くなったね」
希々はくすくす笑う。
「景吾くん……手も、大きくなった?」
「そりゃあな」
「なんだか……精市さんに撫でてもらう時と似てる」
痛む胸に知らんぷりを決め込んで。
「……俺といる時に別の男の名前を呼ぶなんて、いい度胸してんじゃねーか」
「ふふ、ごめんなさい。ヤキモチ?」
「調子に乗るな」
おかしそうに、希々は笑う。
「そう言えば景吾くん、意外とヤキモチやきだったね。小学生の時も――……」
ガキの頃の話をされるのは恥ずかしい。
でも、希々の頭から一時でも恋人のことが消えるなら、それでいい。
俺のことをもっと考えてくれればいいのに、と思って。
「……」
切ない、という感情を、初めて知った。