ソロモン・グランディ(跡部vs.不二)
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*最終話*
写真部はそれから、少し賑やかになった。
賑やか、というか。
「……うん。だから希々のファーストキスの相手は僕だって言ってるだろう?」
「ふざけんな。俺は保育園で希々とのファーストキスは済ませてる」
「そんなこと、希々は覚えてるの?」
写真部は、景ちゃんと不二先輩の戦いの場所になった。私は景ちゃんと付き合うことにした、と告げた時の不二先輩の顔を忘れたい。
不二先輩は、不敵に笑った。私に向けてくれた王子様スマイルは何処へやら、
『他人のもの、だからって僕は遠慮なんてしないよ』
なんて言うものから、景ちゃんが写真部に居着いた。
そして毎日繰り広げられる、謎の舌戦。
「……私、そんな昔のことまでは覚えてない」
「聞いたかい? 本人が覚えてないんだからそれはカウントすべきじゃないよ」
「覚えてなくても事実は変わらねぇ。希々のファーストキスは俺だ」
今日の争いの火種は、私のファーストキスの相手はどちらか、というものらしい。よくもまぁこんなに毎日火種が思いつくものだと、私は半ば呆れている。
「……ここは希々に決めてもらえばいいんじゃないかな?」
「……っ不二てめぇ、その台詞自信がある勝負でしか言わねぇだろ! つーか俺の知らないところでどんだけ希々に手ぇ出してたんだよ!」
本気なのかからかって遊んでいるのかよくわからない不二先輩は、心なしか楽しそうだ。
一方の景ちゃんは以前より子供っぽくて、でも私はそれに安心している。
「……うーん、私の感覚では、ファーストキスは不二先輩です」
「ほら、僕の勝ち」
「……っ希々! 今すぐキスさせ、」
「そもそも景ちゃんは写真部員じゃないでしょ?」
私が冷静に言うと、場が静まった。
「ぷ、」
顔を背けて肩を震わせていた不二先輩が、堪えきれず吹き出した。
景ちゃんは机を叩いて、そんな不二先輩を指さす。
「この狼とお前を二人きりになんてさせられるか!」
「……不二先輩は、狼じゃないと思うけど……」
…………たぶん。
「お前も今一瞬不安になっただろ! 希々、退部しろ!」
「嫌だよ。そしたら私、どこにも所属できなくなっちゃう」
「……っじゃあ俺を入部させろ、不二!」
「絶対に、嫌だ」
なんだかんだで、この二人は仲が良いのではないかと考えた私は、あながち間違っていないと思う。
「……不二先輩」
「ん?」
「今度は不二先輩の悩みも、教えてくださいね。……私には、救う、なんてことはできないけど…………先輩と一緒に悩むことは、できるから」
不二先輩は、微かに目を見開いて切なく微笑む。
「――君は、もう僕とは違うんだね」
私は先輩の艶やかな髪を撫でる。
「……変わる、きっかけさえあれば。変わりたいのなら。……きっと私たちに、遅いなんてないから」
不二先輩の儚い笑顔が、やけに心に残った。
「……今度は、僕が君を追いかける番だ」
景ちゃんは何の話かわからない、とばかりに焦れて、私の腕を掴んだ。
「俺がいるのに二人の世界に入るな! ったく、油断も隙もねぇな」
そんな景ちゃんが可愛くて、思わず笑ってしまう。
「何笑ってやが、」
拗ねた声をキスで宥めれば、景ちゃんは大人しくなる。まぁ家に帰ってから、散々キスの雨を降らされて腰砕けになるのは私なのだけれど。
部室では景ちゃんは、左手の薬指に光る指輪に、キスを落とすだけに止めてくれた。
「……希々。いつでも僕のところに戻っておいで」
「希々は誰にもやらねぇよ」
「……ごめんなさい、不二先輩。…………ありがとう」
誰かを選ぶということは、誰かを選ばないということ。
この選択がどんな未来をむかえても、私は後悔なんてしない。私が私の意思で選んだ未来だから。
私が私の意思で選んだひとの手だから。
「希々……愛してる」
「私もだよ。景ちゃん」
Fin.
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