ソロモン・グランディ(跡部vs.不二)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*一話*
綺麗でカッコよくて優しくて、いつもみんなの中心にいる。
私の初恋は、景ちゃんだった。
『けいちゃん、おっきくなったらおよめさんにしてくれる?』
『……しかたねぇな。おまえみたいなおてんば、ほかにもらってくれるやついねぇだろうしな』
『きいたからね! やくそくだよ! えへへ、けいちゃんだいすき!!』
『……あたりまえだ、ばか』
成長して、私の中で景ちゃんの存在は少しだけ変わっていった。景ちゃんのお母さんと私のお母さんは仲良し姉妹だから、私はくっつくようにしてしょっちゅう景ちゃんに会いに行った。
兄弟姉妹のいない私にとって、景ちゃんは兄みたいな存在になっていた。
会うたび抱きついて、頭を撫でてもらって、甘やかしてもらう。勉強でわからないところを教えてもらったり、試合の応援に行ったり、家族ぐるみで旅行に行ったり。
大好きな自慢のお兄ちゃん。
こんな関係がずっと続くと思っていたわけじゃない。わかってはいた。少しずつ私と景ちゃんの距離は遠くなって、今では少し近寄り難い。景ちゃんが態度を変えたわけではない。私が勝手に、そろそろ兄離れしなければと思っているだけなのだけれど。
でもやっぱり、景ちゃんにお見合いの話が来たって聞いた時は寂しかった。
だから私は今日も今日とて不二先輩に愚痴をこぼしている。
「不二先輩、大学生でお見合いっておかしいですよね」
「はいはい。今日の跡部の愚痴はお見合いかな?」
「今日の、って……私がいつも景ちゃんの愚痴ばっかり言ってるみたいじゃないですか!」
「実際そうだよ。希々はだいたい僕に愚痴りたくてここに入り浸っているじゃないか」
その通りなので私はむくれた。
私は写真部員である。そしてここは、写真部の部室である。本当は景ちゃんと同じテニスサークルに入りたかったが、典型的文化系人間の私にコートを走り回る体力はない。それでもどこかのサークルないし部活に所属しないと、先輩と呼ばれる人たちと関わる機会がなくなってしまう。
そこでなんとなく入ったのが写真部だった。写真部は表立った活動をしているわけではなかったけれど、部室前に飾られていた写真がなんとなく心に残った。
海に夕陽が沈んでいく直前の写真。
綺麗なのにどこか寂しくて、なんだか景ちゃんに似ていると思ったのがきっかけだった。
『はじめまして。入学おめでとう』
不二先輩は、穏やかに微笑んでそう言った。まるで絵本に出てくる王子様みたいだった。景ちゃんを見慣れていなかったら、私は入部初日から鼻血による失血死をむかえていたかもしれない。
写真部で部室を使っているのは不二先輩だけだった。というか他の部員は幽霊部員らしい。私はこの部室で不二先輩以外と会ったことがない。必然的に単位の話や学校の話をする相手が不二先輩になり、話の流れで先輩が写真部とテニスサークルの両方に所属していることを知った。いくつかあるテニスサークルの中でもまさか景ちゃんと同じサークルだなんて知らなかったから、その事実を知った当初は驚いた。
「違うんです、景ちゃんの愚痴じゃないんです。兄離れしなきゃいけないのに、構ってほしい私の……ただの自己嫌悪です」
あまり人気がない写真部は、愚痴にも相談にもうってつけだった。机に突っ伏す私を見て、不二先輩は困ったように微笑む。
「……確かに大学生でお見合いは些か早い、とは思うけどね。あの跡部なら納得するよ」
「…………景ちゃん、お見合い断ったんですよ」
「ならよかったね」
「でも……」
深い深いため息をついて、私は目を閉じた。
不意に、不二先輩が口を開く。
「今まで跡部に恋人ができた時、君は誰に相談していたんだい?」
「え? 景ちゃんに彼女がいたこと、あったんですか?」
「…………いや、いいんだ。何でもない。…………でも、そうか。あの跡部が、ね…………」
私は机に伏せたまま、顔だけ不二先輩に向けた。
「彼女、ならまだいいですよ。でも結婚ってなったら…………もう、本当に私だけのお兄ちゃんじゃなくなっちゃうから……」
不二先輩が、微かに眉を動かした。
「前から聞きたかったんだけど……希々が跡部を気にかけるのは、跡部を兄として慕っているから? それとも男として好きだから?」
私はその場で力尽きた。
「わかんないから困って愚痴ってるんですよー! 不二先輩の鈍感王子ー!」
「何だい、その変なあだ名は」
苦笑する不二先輩を見て、ふと思う。
「……不二先輩も、お兄ちゃんみたい」
「…………」
「……変なこと言ってすみません」
「いや、…………そうか」
何か納得したように頷くと、私の頭を撫でて先輩は言った。
「僕が、跡部の代わりに希々の兄になってあげようか?」
1/10ページ