ピーター・パイパー(跡部vs.忍足)
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*三十話:もう待てない*
放課後生徒会室で、俺は会長席に座ったまま藍田と対峙していた。いつもと違って藍田は扉の近くから動かず、硬い表情を向けてくる。
数メートルの距離がやけに遠く感じた。
「……藍田から呼び出すなんて珍しいじゃねぇの」
藍田は混乱したように視線を落とした。
「……ここ以外だと、みんなにいろいろ言われて話できないから……」
「俺は別に誰に見られても構わねぇけどな」
「……っ」
藍田の目に動揺が走った。
「……跡部くん、……何であんなこと、したの……?」
俺は立ち上がり、ゆっくり藍田に歩み寄った。いつでも逃げられるようにか、藍田はドアノブの位置を確認して後ろ手に握った。
逃亡を俺が許すと本気で思っているのだろうか。こいつの危機管理能力にだけは不安を覚える。
そんなことを考えながら、彼女の目の前で足を止めた。
「キスならいつもしてるじゃねぇか」
「っそう、じゃなくて……!」
わかった上で言わせようとする俺は、自分の中のストッパーが外れたことを自覚している。キスをしていると認めさせたい。言葉にさせたい。意識させたい。
藍田は言い辛そうに目を逸らし、震える唇を開く。
「前、に……キスは、ここでしかしないって言ってた、のに…………あんな公共の場で、みんなが見てる前で……」
「…………」
「……っこうなること、わかってたでしょ……? どうして……」
どうしても何もない。俺は藍田の顔の横に右手をついた。一歩間違えば扉が開きかねない。
「っ!」
藍田は瞬時に身体を強ばらせた。俺は喉の奥で軽く笑う。
「『待てる間は』、……そう言ったことは忘れたのか?」
「……っ!」
藍田の綺麗な瞳が見開かれた。もう隠すつもりのない俺は、空いた左手でドアノブを握る彼女の手を包んだ。
「!」
小さな手を絡め取り、扉に押し付ける。ついでに鍵をかけて、物言いたげな唇を奪った。
「……っ!」
カチャ、と鍵がかかる音と共に、藍田が後退りして扉にぶつかる音が響く。
「……いつまでも後手に回ると思うなよ?」
「な、んの、話……っ」
「――俺は忍足みてぇに温くねぇってことだ」
今更逃げようとしてももう遅い。俺を押しのけようとした右手も指を絡めて繋ぎ、扉に縫い付ける。
後は昨日ぶりの唇を堪能するだけだった。
解放された想いをぶつけるように口づける。
「ん……っぅ!? ……っ、ぁ…………っ!」
数回唇を食み、反射で開いた咥内へ舌を這わせる。歯列をなぞり、頬の内側から上顎まで執拗に往復させた。
「ゃ、あ……っ!」
慣れない体勢に、苦しげに頬を染める藍田を見ているだけで劣情は加速する。
縮こまった舌に無理矢理自身の舌を擦り合わせ、細い両脚の間に膝を割り込ませる。
藍田は抵抗しようにも身体を動かせない。
「……噛まねぇとやめねぇぞ」
「っゃめ、…………んんっ!」
拒絶が苦手な藍田は涙を浮かべ、真っ赤な顔で身を捩った。おっかなびっくり俺の舌に歯を立てようとするも、結局失敗して無駄に俺を煽っている。
「ぁ、……っと、……べ、く…………っん…………っ!」
藍田の膝が力を失う。しかし扉に押し付けた両手がくずおれることすら許さない。荒い呼吸に眦から零れた涙を啜って、深いキスに沈んだ。
「……っは、ぁ………………っ、も、待っ、」
「待てねぇよ」
「ぁ、とべく、んん…………っ」
意地の悪いキスに、藍田は段々と蝕まれていく。最早抗う力すら失い、されるまま強引な口づけを受け入れ始めている。
彼女から抵抗の意思が完全に消え去った頃、ようやく俺は唇を離した。
「……っふ、ぁ…………っ」
倒れ込む藍田を抱きとめ、くつり、と喉を鳴らす。
剥き出しの白い首筋に口づけ、小さな華をいくつか散らした。その度ぴくりと肩が跳ねる様がいじらしい。
最終下校時刻を告げる鐘の音を聴きながら、随分長い間触れ合った唇を再び塞いだ。藍田は息も絶え絶えに喘ぐ。
「…………もぅ、……立て…………ない………………」
「……だろうな、その顔じゃ」
頬を染め、瞳を潤ませてこちらを見る藍田はいつになく扇情的だ。首筋に見える跡が色っぽく、気だるげな呼吸すら俺から理性を奪おうとしているように錯覚させる。
「……こういうキスは、此処だけにしてやるよ」
元より惚れた女のこんな蕩けた顔を他の男に見せるつもりなどさらさらない。
「だが、もう待てねぇ。失恋の傷が癒えたなら……そこは次は俺の場所だ。……とっとと俺を選べ」
俺は動けない彼女の膝裏に手を回して抱き上げた。普段ならお姫様抱っこなんてやめろと喚くだろう藍田も、体力が底をついたからか俺を恨めしそうに見やるのが精一杯のようだった。
「責任持って、車で送ってやるよ」
「…………」
生徒会室から出た俺達を見た生徒が黄色い声を上げたのは言うまでもない。