ピーター・パイパー(跡部vs.忍足)
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*二十五話:笑ってほしい*
私の中で気持ちがごちゃごちゃになる。
忍足くんからもらったピンをつけて登校した月曜日。忍足くんはすごく嬉しそうに笑ってくれた。それを見た私も嬉しくなった。忍足くんには助けられてばかりだ。こんなことがお返しになるとは思えないけれど、喜んでくれるなら嬉しい。
なのにそれを見た跡部くんからもう何度目かわからない告白をされて、……少しだけドキドキしてしまった。
いつも突然キスをしてくる迷惑な生徒会長。最初は困惑しか感じなかったのに、最近の私は彼に振り回されている気がする。
跡部くんにばかり心を乱されている場合ではない。私は忍足くんに何かしてあげたいのだ。
何も感じられなくなっていた私に手を差し伸べてくれた。傍にいてくれた。同じ歩幅で進んでくれた。忍足くんの優しさにかまけて、私は彼に寂しいと感じさせてしまった。
どうしたら忍足くんは笑ってくれるだろう。
「……“好き”って……何だろう…………」
「いきなりどないしたん? やたら哲学的な独り言やね」
「!」
口に出ていたらしい。
私は思わず赤くなって俯いた。
「や、あの…………その、えっと……」
私が恥ずかしさのあまり唸っていても、忍足くんは微笑んで私を見ている。
「……っ」
いつもの理科棟。お昼を一緒に過ごしてほしいと言われてから、私達はまたここでお弁当を食べるようになった。
忍足くんの優しい笑みが余計に頬を紅潮させた。いつも隣で見守ってくれたその心の大きさに包まれて、ほんのり胸が温かくなる。
気付けば私は素直に思いを口にしていた。
「私…………忍足くんといて、胸がどきどきする。跡部くんといて、胸がドキドキする。違う感覚だけど、どっちが“好き”なんだろうって思って」
どちらも“好き”ではない可能性だってある。ただ、両者に違いがあるのは確かだった。
「ねぇ忍足くん。“好き”って、どんな気持ち?」
忍足くんは少し目を見張って、私の髪をそっと撫でた。
「俺は希々のこと、どんな時も考えてまう。部活中も、授業中も、夢ん中にも希々が出てくんねん」
しなやかな指が何度も髪を梳いては耳朶に触れる。くすぐったいような心地好いような不思議な感覚に、私は目を細めた。
「会いたい。声が聞きたい。何もできんくてええから、ただぎゅってくっついてたい。…………俺は時間があればいつもそう思っとる」
「忍足くん…………」
愛しいものを見る視線に、せつなくなる。
私は両手を広げて言った。
「ぎゅってして……いいよ?」
忍足くんはびっくりしたように瞬きしてから、ふっと大人びた顔で息を吐いた。
「……おおきに」
背中に大きな手が回されて、視界が忍足くんでいっぱいになる。
忍足くんの香りが鼻先を掠めて、意図せず吐息が漏れた。いい匂い。やさしい匂い。
「……希々はいつもええ香りすんなぁ。シャンプーとかの匂い?」
「えぇ? 自分の匂いなんてわからないよ。シャンプーも普通のだし、制服だってみんなと同じだし……」
「ほんならこれは、希々の香りなんやね。……俺、この香り大好きや」
耳元で囁いた忍足くんの声に、心臓が音を立てた。ただ抱きしめているだけ。女友達ともじゃれてくっつくことはある。それと変わらないはずなのに。
「香り……だけやない。俺…………希々のこと大好きや」
僅かに腕の力が強くなる。苦しくはないように、でも心音は近付くように抱き締められて、私の鼓動も速くなる。
「……希々が失恋したって聞いた時、俺は既に希々のこと好きやった。けど、それからいろんな話して隣にいる時間も増えて、今では……前よりもっと、希々のこと好きになっとる」
「、忍足くん…………私も、だよ」
私も彼の背中に回した腕に力を込めた。
「忍足くんのこと知るたびに素敵なところが見つかって、忍足くんがどんなに優しい人か知れて、嬉しい。前まではモテるクラスメイトだってことしか知らなかったけど……今は忍足くんのこと、えっと……すごく、すき、だよ。その、友達として、だけど……」
忍足くんは消えそうな声で、「ありがとう、な」と言った。
私は小さく頷いて、もう少しだけ腕に力を込めた。