ピーター・パイパー(跡部vs.忍足)
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*二十四話:嫉妬*
休み明け、火曜まで待てずに放課後藍田を呼び出した俺は、彼女の髪に見慣れないピンを見つけて眉をひそめた。俺が選んだものではない。普段髪留めをしない藍田だからこそ、それは何かしら特別なものなのだとわかる。
俺と藍田しかいない生徒会室は心地好いはずなのに、その異物感が空気をざらつかせた。
何も気付かない藍田は小首を傾げていつものように口を開く。
「お疲れ様、跡部くん。定例ミーティングは明日だと思うんだけど、何かあったの?」
俺は席を立って藍田に歩み寄った。艶やかな髪を梳き、光を反射する藍色のピンに触れる。
「…………昨日は、忍足と出掛けたのか?」
藍田は目を丸くした。
「え、どうしてわかったの?」
「……どうせこのピンも、あいつが選んだやつだろ?」
あいつの瞳の色。
藍田は頬を染めてふわりと笑んだ。
「……うん! 忍足くんがプレゼントしてくれたの。仲直りに、って」
今俺の胸を焦がすのは、藍田に関わったせいで知ることになった“嫉妬”という感情だ。
俺が選んだアイスブルーのピンをして来たところなど一度も見ていない。なのに忍足からもらったものは学校につけてくるのか。
「……随分気に入ったみたいじゃねぇの」
藍田は微笑む。
「すごく綺麗な色だから。それに、せっかくのプレゼントだから」
「――俺もお前に贈っていたら、つけてきてくれたのか?」
思わず本音が漏れた。
「……?」
「っ!」
不思議そうな藍田の表情を見て、自分がどれだけ脈絡のない質問をしたのかと恥ずかしくなった。
「……っくそ、何でもねぇよっ」
咄嗟に顔を背けたが、藍田は俺の顔を覗き込む。
「い、いきなりどうしたの? 跡部くんに選んでもらったピンなら、家で大事に使ってるよ?」
「……っ!」
違う。学校にしてきて欲しかったんだ。
こっそり俺の瞳の色が入ったピンを選んだ。藍田が俺のものになるわけではないが、俺は彼女の髪にあるその色を見たかった。俺の一部を身に纏う彼女を見たかった。
「……忍足のは学校にしてくるくせに、俺のは先週一度もしてこなかったじゃねぇか」
不満を隠さずそう告げると、藍田の顔色が曇った。
「……本当は先週の月曜日、跡部くんに選んでもらったピン、つけてきたの」
「火曜にはなかった」
「何でそんなよく見てるの!」
藍田は俯く。
「……月曜日、忍足くんと…………ちょっと喧嘩、しちゃって…………」
「喧嘩? どうせ俺と出掛けたことへの僻みだろ?」
「…………あの、まぁそんな感じ、なんだけど…………」
いつになく煮え切らない藍田の様子に、俺は片方の眉を上げた。
「……何があった」
藍田は瞬時に赤くなって、首を左右にぶんぶん振った。
「と、とにかく! あのピンは家で使うって決めたの! 私が自分で買ったんだから、私の自由にしていいでしょ!」
「…………」
その態度からおおよそを察した。家で使うということは、忍足から直接つけないでくれと頼まれたか奴に壊されかけたかのどちらかだ。
どちらの状況にせよ恐らく藍田は忍足に手を出されていて。俺はそれを知らずに先週の定例ミーティングを済ませていたことになる。気付けなかった先週の自分に舌打ちしたい気分だ。
しかし過ぎてしまったことは仕方ない。
やられたことは倍にしてやり返す。
俺は藍田の腕を引き寄せ、わざと強引に口づけた。
「……っ!?」
ついでに髪を掻き乱すようにしてピンを外す。文句を言おうとするものだから、咥内に舌を捩じ込んで言葉ごと封じた。
最初は暴れていた四肢から徐々に力が抜けて、躊躇いがちな喘ぎ声が上がり始める。
「…………っゃ、……っん、ぁ…………っ!」
俺との身長差で苦しそうな様子は、何故か加虐心を唆る。震える両手は俺のシャツを掴んで必死に身体を支えている。いつもと違って俺が腰を支えてやるでもなくソファに押し倒すでもないため、藍田は爪先立ちで耐えるしかない。上気した頬と熱い吐息にどことなく満足感が生まれた。
「ん……っ、あ……!」
さすがに呼吸が辛そうに見えて唇を解放してやると、華奢な身体がくずおれた。
「……俺様以外に唇を許したりするからだ、馬鹿」
その身体を抱きとめ、濡れた唇を親指で拭ってやれば恨めしそうな視線が返される。
俺は藍色のヘアピンを彼女のポケットに入れて言い放った。
「いいか、俺様はお前に惚れてるんだ。他の野郎のキスじゃ満足できねぇくらい腰砕けにしてやるから覚悟しておけ。お前の頭の中もいずれ俺様のことしか考えられねぇようにしてやるよ」
藍田は息を整えつつ苦笑した。
「……そんな上から目線な告白、初めて聞いたよ」
それはそうだろう、と思った俺は欲望に素直に、再び彼女の唇を奪ったのだった。