ピーター・パイパー(跡部vs.忍足)
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*十七話:今後の関係性*
文化祭準備という繁忙期が終わり、週に一度のミーティングだけが生徒会の活動になった。藍田に会える毎週を楽しみにしてしまうのは仕方ないことだろう。
今日も今日とて俺は内心そわそわしながら一日を終え、生徒会室で藍田を待つ。
やがて扉がゆっくりと開き、藍田がひょっこりと顔を覗かせた。
「お疲れ様です、跡部くん。お待たせしちゃったかな?」
俺は椅子から立ち上がり、彼女へと歩み寄る。
「……あぁ。待たされた」
「えぇ!? あの、ごめんね。ホームルームがちょっと長引いて……」
「その分今日はミーティング後も少し付き合え」
待たされたのはミーティングじゃない。お前に会うまでの時間だ。そんな本音は隠して。
俺は藍田を抱き寄せながら、生徒会室の鍵をかけた。以前の忍足のように万が一にも誰かに邪魔されたくはない。
藍田は苦笑した。
「もう、跡部会長はほんとに俺様なんだから……」
「そんな俺様を振り回してるのはお前だけどな」
「!」
藍田の頬が赤くなった。少しは意識、されるようになったのだろうか。
そう思いつつ、流れるように柔らかな唇を塞いだ。
「……っ!」
刹那、藍田の身体が強ばった。拒絶はされないが、いつもと違う反応に俺はそっと離れた。
綺麗な瞳を覗き込んで、問いかける。
「……あんなことをした俺が、…………怖い、か?」
藍田は目を伏せた。
「…………うぅん。忍足くんが…………」
「……? 忍足がどうした?」
「……キスは跡部くんだけ、って決めたのに…………ごめんなさい。忍足くんからのキス、……私、拒絶できなかった」
拒むのが苦手な藍田のことだ。いずれこうなるのはわかっていた。それでもいざ本人から聞くと何やら腹立たしい。俺は藍田の頬に右手を滑らせ、左手で身体の位置を固定した。
「……じゃあ、こっちのキスはあいつにはやるなよ」
「? 何のこ、……っん……っ!?」
答えを聞く前に、口づけた。早々に唇を割って逃げ腰の舌を食む。
くちゅ、という水音にさえ興奮させられた。
「……っぁ……っ」
舌が触れ合うたびに俺の中の熱は燻り、もっと奥へと欲望が加速する。角度を変えながら咥内を深くまさぐると、藍田は何度も肩を跳ねさせた。
「ん……っ!」
そんな反応も俺を煽っていくということを、こいつは自覚しているのだろうか。
「……こっちのキスは、忍足ともまだだろ?」
好き放題していた唇を解放してやると、藍田は涙目で俺をじとっと見やった。肩で息をする様は扇情的で、見ているだけで脳内が欲に侵食されていく。こいつのこんな顔を引き出したのは俺だ、と。もっとそういう顔が見たい、と。
既に独占欲の塊だ。俺も相当重症らしい。
「こ……っんなキス、するの、……っあとべくんだけだよ…………っ!」
俺は喉の奥で笑って、触れるだけのキスを落とした。
「そりゃあよかった」
「な、んにもよくないよっ!」
拗ねたような表情が愛しい。
恐らく俺しか見たことのない、真っ赤な頬。蕩けた眼差し。いつもの透明な瞳を溶かしているのが自分だと思っただけで、堪らない高揚感に満たされた。
あと俺が手に入れていない彼女の場所はどこか。
考えを巡らせていた俺は、ふと思いついて口にした。
「――好きだ、希々」
「――――っ!?」
一瞬で、藍田は耳まで赤くなった。
反射的に俺から距離を取ろうとして後退る。俺はその細い脚の間に自分の足を捩じ込み、華奢な腕を掴んで引き寄せた。
「……お前は男を名前で呼ばない。が、俺がお前の名前を呼ぶ分には問題ねぇよな? ……なぁ、希々」
「……っ!」
客観的に見たら、ぎらついた狼が怯える小動物を追い詰めている絵面だろう。
――悪くない。
「み……っミーティング! ミーティングしよう! 今日のテーマは何なの?」
話題の逸らし方も下手くそで、余計に愛しさが増す。
「定例ミーティングの内容は、俺とお前の今後の関係性についてだ」
「な……っ何それ!? そんなの、生徒会業務に何の関係もないじゃない!」
「仕方ねぇだろ。投書も苦情も先週はなかったんだよ」
藍田は困ったように瞬きを繰り返し、俺の手を振りほどこうとした。が、そう簡単には許さない。
俺は一瞬だけ解放して、油断したところを後ろからきつく抱き締めた。そのまま背面のソファに身を沈める。
「ふ、ぇ……っ!?」
目を白黒させている藍田には悪いが、名前で呼ぶというのは意外に征服欲が満たされると知ってしまった。
「忍足だって名前で呼んでるだろ?」
「そ、れは! 付き合ってたから……!」
「じゃあ俺とも付き合え」
「何を無茶苦茶なこ、……っひゃぅ……っ!」
背後から耳朶を唇でなぞり、骨格を確かめるように歯を立てる。耳の上下左右、硬い骨や軟骨を柔く食み、悪戯に舌を這わせると落ち着いていた声に明らかな変化が生じた。
「ゃ…………っあ、ん…………っ!」
……面白い。
味がしないからこそ、食感を楽しむ具材を前にした気分だった。
かり、とやんわり噛む。
「ふぁ…………っ!」
輪郭を執拗に舌でなぞりながら、ちゅ、とキスを挟む。
「ぁ……っ、あ、ゃん…………っ!」
「…………っ!」
惚れた女の喘ぎ声は腰にくる。しかも今回は初めて、藍田自身にも抑えきれない快感を与えられたらしい。
認識と同時に、俺は理性の匙を投げた。
「は……っ、耳、弱いのかよ? 希々…………」
「ゃあ……っ、跡部、くん……っ!」
じたばた暴れる柔らかな四肢。髪からはいい香りがする。
衝動のままに舌を耳の中にまで差し入れると、藍田は喉を反らした。
「――――っ!」
のけ反ったことですぐ横に藍田の顔がくる。
その表情は切なく歪み、眦に涙が光っていた。熱い吐息が震える唇から漏れ出ていく。
わからないながらに感じてくれているのだと知って、思わず自身に熱が集まってしまった。
「ちっ……くそ」
こんなつもりで今日を楽しみにしていたわけではない。俺は舌打ちして今度こそ本当に彼女を解放した。
「ふぁ……ぁとべ、くん…………っ」
「俺が我慢してるんだから煽るな!」
「ふぇ……?」
「……っああそうだよな、お前はそういう奴だった!」
力が入らないのか俺のブレザーを握って融けた上目遣いを寄越す藍田に、さすがの俺も諸手を挙げた。
少し乱暴に艶やかな髪をがしがし撫でると、ようやく意識が戻ってきたらしい。「髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃうでしょ!」と怒りながら手を払われた。
「……もう、いつも跡部くんは突然なんだから」
「……悪い。今のは俺が悪かった」
深く息を吐き、どうにか頭を冷やす。
一緒にいる時間が少ないからこそ、会えた時しょっちゅうこいつに手を出してしまう。俺は自制心の強い人間だと思っていたが、最近その自負が揺らぎつつある。
このままではまずい。俺はさかりのついたそこらの男子高校生とは違う。断じて違う。
そうだ、俺様の威厳を取り戻せ。
脳内会議が終わり、俺は藍田の目を見据えた。
「今日のミーティング内容は、俺と藍田の今後の関係性についてだ」
藍田が眉をひそめた。
「それ……冗談じゃなくて、本気だったの?」
「当たり前だ」
「えぇえ……。まぁいいけど……跡部会長は、どこに問題があると思ったの?」
俺は腕を組み、藍田を上から下まで眺めた。
「あの、え、何……?」
困惑する藍田に、徐に告げる。
「このままだとまずい。俺の威厳がなくなる。理由は簡単だ。お前と過ごす時間が少ないからだ」
「……?」
小首を傾げる藍田も小動物に似て、つい捕まえたくなる。
そんなことを考えた自分を頭の中で蹴り飛ばし、俺は藍田に尋ねた。
「今週の土日は空いてるか」
「……? うん、空いてるけど……」
訝しげな彼女を抱き寄せたい衝動を堪え、俺は堂々と言い放った。
「なら今週の土曜、俺様とデートをしろ」
「………………………………へ?」
「拒否権はねぇからな。12時に家の前で待ってろ。迎えに行く」
もっと長い時間側にいれば、こいつの引力にも耐性がつくだろう。
俺は余裕のないそこらの男子高校生とは違う。断じて違う。その自信を取り戻す。
何だかんだと喚いている藍田を放置し、俺は我ながらの名案に満足していたのだった。