ジャックとジル(氷立逆ハー)
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*八話:狂おしいほど*
コート上の詐欺師、なんて言われている俺は――全てを知っている。
『ニオちゃん』
『ん?』
『大好き!』
『……知っとうよ』
詐欺を働くのがコート上だけじゃないこと。
『俺は仁王が羨ましい』
『……またいきなりどうした? 俺からすればお前さんの方が余程羨ましいんじゃが』
『……そう、かな。……そう、だね』
『…………』
幸村の想いと希々の思いが、通じているようでその実すれ違っていること。
『ニオちゃん……精ちゃんのこと、よろしくね』
『……あぁ』
『私がいなくても、…………うぅん、なんでもない』
『――……』
欺く相手が自分自身でもあること。
好きだ、なんて言葉では足りない。
俺にとって希々は全てだ。
この世の何よりも優先すべきものだ。
無邪気な笑い声も、ふとした時に見せる不安そうな横顔も、包み込むような微笑みも、凛とした眼差しも、慈愛に満ちた手つきも。
それら全てを俺に向けて欲しかった。
それら全てを俺が守りたかった。
それら全てを俺だけに向けて欲しかった。
「希々……」
何度壊したいと思っただろう。
腕と足の自由を奪って、聡い思考も回らないように鳥籠の中に閉じ込めて。
……そうしたら希々は、もう抱え込まなくて済む。幸村の体調も、立海テニス部の均衡も、自分に向けられる女子生徒の目線も、……そんなこと全部忘れて俺のことだけを見ていればいい。俺だけなら、希々を守ってやれる。誰に何を言われても、俺の彼女だと言って四六時中傍で守れる。
なのに。
「くそ……」
俺の好きな希々は、気を回しすぎていろんなものを抱え込む希々なんじゃ。
そんなおまんだから守りたいんじゃ。
面倒くさいしがらみを全部切り捨てたら、それはもう希々じゃない。
俺の愛する希々じゃない。
……俺は矛盾だらけだ。
「……希々…………」
誰にも聞かれない声が、夜の空にひっそりと消えていった。
***
「ニオちゃーんっ!」
「希々!」
抱きついてきた希々をぎゅっと抱き締め、その頭を撫でてやる。
昨日――土曜は氷帝との練習試合だった。もちろん立海が勝利を収めた。希々が見ている前で情けないプレーをするメンバーは、生憎レギュラーの中にいない。
試合の後は立海レギュラー陣皆でスイーツ巡りをした。希々は楽しそうに嬉しそうに、俺達と話してくれた。
だが、俺がそれだけで終わるなんて有り得ない。
希々の休日を潰してしまうとわかっていても、俺は日曜に希々をデートに誘っていた。
ただ、俺が私利私欲のためだけに希々を誘ったとは思わないで欲しい。俺は希々が助けを求めているとわかって誘ったのだから。
「……っニオちゃん、会いたかった……っ」
俺の背に回された手が、微かに震えている。俺は小さい身体が壊れてしまわぬよう、そっと腕に力を込めた。
「……やっぱり、無理しとったんじゃな」
希々は俺の胸に押し付けた顔を左右に振る。
「無理、なんかしてない。みんなの方が、頑張ってる。昨日の練習試合も勝ってて、さすがだなって思ったよ」
「そりゃあ氷帝には負けられんからのう」
「……私、ちゃんとニオちゃん応援したよ」
「聞こえとったよ。……ありがとな」
希々は大きな声で俺を応援してくれていた。そのせいで氷帝側のベンチが騒がしかったが、俺の知ったことではない。
「希々……よく、頑張ったな」
「……っ!」
希々は俺にしがみついて、少しだけ動きを止めた。そして顔を上げると、いつもみたいに笑った。
「……えへへ、頑張ったよー。もっと褒めて!」
「……まったく。希々は甘え上手じゃな」
幸村に向けるものと同じ笑顔。
俺の好きな笑顔。
……俺の嫌いな笑顔。
「……希々、無理して笑わんくていいぜよ」
「? 無理なんてしてないよ?」
希々は気付いていない。だから俺はこれ以上踏み込めない。
もし希々を傷つけてしまったら、俺は俺を許せないから。
「ニオちゃん、今日はどこ行くの?」
「水族館じゃ。一人で行くのは格好つかんき、今まで行かんかったんじゃが」
「今になっていきなり?」
「参謀に魚の有益性を小一時間説明されての」
「レンちゃんパワーかー!」
俺の腕に腕を絡めて、嬉しそうに笑う。
「行こ行こ!」
「まったく……」
思わずため息がこぼれた。意識しないでこういうことをするのは、さすがにどうにかしてほしい。いや、俺だけにならいくらでもしてほしいが、誰彼構わずこんな距離で接するのは勘弁してほしい。
とは言え希々が人目を憚らず密着するのは俺と幸村だけなので、無意識下で甘える相手を選んでいるのだろう。
「……おまんはほんに…………」
「ニオちゃん、大好き!」
俺もだ。
俺も希々が好きだ。
大好きだ。
愛してる。
――狂おしいほど。