ジャックとジル(氷立逆ハー)
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*七話:先輩で居続ける*
俺は幸村君のことを尊敬してる。大切な友人だと思ってる。
大抵のことなら幸村君の支えになりたいし、幸村君に勝とうなんて思ったことはそもそもない。
ただそんな俺にも、一つだけ譲れないものがある。
それは――――…………。
「希々、最近どうだよ?」
『ブンちゃん! 久しぶり!』
以前は毎日聞けていた声が聞けなくなって、俺はあの頃がいかに恵まれていたのかを実感していた。
毎日連絡する権利があるのは幸村君だけ。
仁王はどうだか知らないが、さすがに俺だって希々のスケジュールくらい考える。毎日氷帝でのマネージャー業をこなした後幸村君とも連絡を取っているのなら、希々が自由に使える時間は限られているだろう。その隙間に俺の我儘を捩じ込むわけにはいかない。
さりげなくいつなら通話できるか聞いていたところ、ようやく見つけられたのが今日だった。
『話したいなんてどうしたの? ブンちゃん、何かあった?』
「……希々の声が聞きたかっただけだろい」
『何それー!』
希々の笑い声が耳に届く。
柔らかい声。聞きやすい話し方。俺を気遣ってくれているとわかる。
『ほんとに何かあったの? ブンちゃん、ちょっと元気ない?』
「、それは、……」
希々がいないからだ。
なんて、言えるわけない。
俺はベッドの上で左耳から聞こえてくる希々の声に全神経を集中させた。
「……おてんばの希々が氷帝に馴染めてるか、心配なだけだっつーの」
『私っておてんば!? めちゃくちゃ頼りがいのあるマネージャーでしょ!』
「……あぁ。ほんとにな」
希々は優秀なマネージャーだった。俺達の宝物だった。離れてしまった今、余計にそれを自覚させられる。
もしも好きだと告げられていたなら。
恋人になれていたなら。
この声もあの優しさも俺が独り占めできていたのだろうか、と考えては切なくなる。
『……氷帝の人達、優しいよ。私は心配ないから大丈夫。ブンちゃんの方は? お菓子食べた後ちゃんと歯磨きしてる?』
「ぷっ、……希々は俺の母ちゃんかよ」
『だってよくニオちゃんと二人して部室のお菓子箱から盗んでたでしょ?』
「げっ……バレてたのかよ」
希々はくすくす笑う。
『バレてたよ。きっと精ちゃんも知ってるよ』
「マジかよ。でも俺幸村君に怒られたことねぇな」
『減ったお菓子、私が足してたから。ふふん、どう? この気の利く有能ぶりに、今頃気付いた気分は』
「マジさすが希々。……さすが、だよな……」
『ブンちゃん……?』
情けない本音が出そうになった。
会いたい。
戻ってきてほしい。
……寂しい。
一人で知らない学校へ転校した希々は、既に様々なストレスと戦っているだろう。そんな希々に俺の些細な不安まで背負わせるわけにはいかない。
わかっているのに、ふとした時に希々の面影を探してしまう。希々の声を探してしまう。
「……希々」
『なぁに?』
「今度さ、スイーツ巡り付き合ってくんね?」
『うん! いつ?』
「……次の、氷帝との練習試合の後とか……空いてね?」
希々は電話の向こうで何かをごそごそ探し、『あ!』と口にした。
『その日精ちゃんと会う約束してるから、どうせならニオちゃんとか立海のみんなで一緒に行かない?』
「…………」
ここで、二人きりで会いたいと言えば。
希々は俺の気持ちを察してくれるのかもしれない。
俺はその時間だけでも希々を独り占めできるのかもしれない。
可能性があるなら賭けたい。
でも。
「……仕方ねーなぁ。仁王も真田も希々に会いてーだろうし、みんなで行くか!」
『うんっ! 楽しみー!』
「幸村君と二人じゃなくていいのかよ?」
『え? みんなの方が私は嬉しいし、絶対精ちゃんも喜ぶよ!』
俺はお前に笑っていて欲しいんだ。
「……そっか! じゃあ場所は俺らでリサーチしとくから、希々は腹いっぱいスイーツ食えるよう、昼飯の食い過ぎにだけは注意しとけよ!」
『うっ! 氷帝のご飯美味しいからなぁ……。腹八分目にしておきますっ!』
「ははっ。その意気だろい!」
『うん! みんなに早く会いたいー!』
いつかは伝えたい。
だけどそれは今じゃない。
わかっているから俺は、今日も希々の先輩で居続ける。
ただ希々のために。