ジャックとジル(氷立逆ハー)
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*五話:誤解*
珍しく鳳から着信があった。
何かと思い駆けつけるとそこにはげっそりした鳳と、
「ワカちゃん!」
「……その呼び方は相変わらずなんだな」
俺を妙な呼び方で呼ぶ希々がいた。
満面の笑みで手を振ってくるところは、認めたくないが……可愛い。
いつも笑顔で誰かのために頑張る女子。
……俺が初めて名前で呼んだ女子。
「日吉……! 助けてくれ!」
死にかけの鳳が俺に手を伸ばす。
どうせ大したことはないんだろうと予測しつつ、俺は口を開いた。
「……で、どうしたんだ?」
「……希々ちゃんが跡部さんを嫌ってる理由を聞いたんだ。そうしたら……どうやら立海の仁王さんから……その、……何というか…………悪意ある伝え方をされてたみたいで……」
鳳が言葉を濁した。希々は小首を傾げ、俺を見上げてくる。
「えーと……希々ちゃん。跡部部長のこと、どういう人って聞いてたかもう一回教えてもらえるかな……?」
「うん!」
にこっと笑って、希々は宣った。
「自分のことを俺様とか言ってる厨二病で、学園中の女生徒に手を出してて、女の子を雌猫って呼んでる変態自己中男って聞いた! 財閥の御曹司らしいけど、そんな人が生徒会長な上にテニス部部長だなんて不安しかないよね、ってトリちゃんに話したよ!」
「ぶふっ!」
俺は思わず吹き出した。
あながち間違いでないところに、仁王さんからの牽制を感じる。
それはそうだ。合同遠征合宿で立海のバスに乗せてもらった時も、幸村さんをはじめレギュラー陣からはかなりの圧を感じた。希々の手前笑顔は崩さないが、俺たちと彼女を近付けないよう動いているのは明白だった。
希々がどれだけ立海の中で大事にされているのかが、あの時間だけで伝わった。
「そ、そうか……。っそ、それは、仁王さんから聞いたんだな……?」
「うん」
俺は込み上げる笑いを必死に堪えながら、努めて冷静に会話を繋げようとした。
しかし希々はそんな俺の努力を一瞬でかち割りにきた。
「いくらテニスが強くたって、変態が部長だなんてワカちゃんは嫌じゃないの?」
「ぶっ!」
我慢できなかった。
俺は顔を背け、震える手で口元を覆う。
仁王さんにとって跡部部長は、見過ごせない脅威だと思われたのだろう。それにしてもひどい言われようだ。
まぁ確かに、跡部部長は目立つし女子に人気があるし、俺が立海側の人間だったら一番警戒しておきたい相手だと思う。それは嫌という程よくわかる。
ただ、事実は少し違う。跡部部長はそもそも、男女問わず生徒教師問わず慕われているのだ。そうでなければ伝統ある氷帝学園の生徒会長も、部員数200名を超えるテニス部の部長も務まらない。そんなことはこの学園の生徒なら誰でもわかっている。
「……」
俺は立海の人達と同じく跡部部長から希々を遠ざけたい気持ちと、尊敬する部長の名誉を取り戻したい気持ちとの間で悶々としていた。
部長に懐かれても困る。しかし部長を含めこの学園を悪く思われたくはない。
「……なるほど、わかった。俺が説明してやろう」
「! ありがとう、日吉……!」
目を輝かせて俺を見る鳳は、希々に好意を寄せてはいないらしい。
敵は少ないに越したことはない。
ひとまずそれを確認できて満足した俺は、腕を組んで彼女の誤解を解くことにした。
「確かに跡部部長は派手好きだ。テニスの時にも“俺様の美技に酔いな”等と素で宣う」
「日吉!?」
慌てる鳳を手で制し、続ける。
「だが、その実力は確かだ。“俺様”と言うのも、自分や部員を鼓舞する一面があるんだろう」
「……そっか……。あとべっきんがむも精ちゃんと同い年だし、人知れずいろんなプレッシャーと戦ってるんだね……」
「ぶっ! ……っいや、そ、そう、だな……っ」
俺は鋼の意思で笑いを堪える。“プレッシャー”ほど跡部部長に似合わない単語も珍しい。あの人はたとえそれを感じたとしても、他者に見せることなどない。
「そ、それから……っ。……跡部部長は、単純に忙しい。女遊びをしているというのは、跡部部長の人気への僻みから生まれた噂だ。…………多分」
「……そっか……。ワカちゃんもわからないことはあるよね……」
「あぁ。跡部部長に一方的に好意を抱く女生徒は確かに雌猫と呼ばれているが、跡部部長が彼女達を軽んじているわけではない。…………多分」
「ふむ……。つまり、あとべっきんがむは…………」
希々は笑顔で人差し指を立てた。
「思ってたより悪い人じゃなくて、プレッシャーのあまり厨二病を拗らせてるだけなんだね!」
「ぶふっ! ……い、いや、……概ねその通りだ……っ」
「えぇえ……日吉、それでいいの……?」
俺はもっともらしい真顔で頷いた。
あの人の美しさも泥臭い魅力も努力を惜しまないストイックさも、俺が教えてやる筋合いはない。多少残念なイメージに落ち着くくらいがちょうどいい。
この学園最大のライバルを自ら作るような真似は御免こうむる。
「まぁ、無理に跡部部長と関わる必要はない。何かあったら俺を頼れ」
「ワカちゃん優しい……! ありがとう!!」
跡部部長ではなく俺に心を開く希々を見て、俺は内心すっとしていたのだった。