ジャックとジル(氷立逆ハー)
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*四話:渋い顔つき*
私はトリちゃんと同じクラスになった。トリちゃんは穏やかに笑うから、少し精ちゃんに似ていると思う。でもリョーちゃんにくっ付いて行くところは大きな子犬みたいで、ちょっと可愛いと思っているのは私だけの秘密だ。
クラス委員のトリちゃんはここ数日、私に氷帝の案内をしてくれている。立海も広くて綺麗な校舎だったけれど、氷帝はそれとは比べ物にならないくらい豪華だった。今でも私一人では食堂にたどり着けないくらいだ。
「氷帝ってお金持ちが通う学校だよね。トリちゃんもお父さんが弁護士さんなんでしょ?」
「うん。お金持ち、か……。確かにここは比較的富裕層向けの学校かもね」
「私は一般家庭育ちだけど、浮いたりしないかな?」
「あはは。浮くどころか、成績でここに入った希々ちゃんはみんなに尊敬されてるよ。大丈夫」
昼休み。立海と進度が違っていた数学の教科書を見比べている私に、トリちゃんが声をかけてくれた。
トリちゃんは責任感があるし、優しい。女友達の次に仲良くなれたのはトリちゃんだと思う。
「希々ちゃん、テニス部のマネージャーになりたいって本当?」
「うん! 精ちゃんが話はつけてある、って言ってくれてる、けど……」
私は生徒会長のことを思い出して、思わず眉をひそめた。
テニスは好きだし、テニスに真剣に向き合っている人を応援したい気持ちに変わりはない。ただ、全国でも強豪校と言われるこの氷帝学園のテニス部部長が、あの人だなんて信じたくなかった。
この学園の生徒はみんなあの人に弱みでも握られているのだろうか。
「……あの人がテニス部部長、なんだよね…………」
渋い顔つきの私を見て、トリちゃんは首を傾げた。
「ずっと気になってたんだけど、希々ちゃんはどうして跡部さんのこと、そんなに嫌いなの?」
トリちゃんもあの部長に何か脅されているのかもしれない。優しいから私を不安にさせないよう、触れずにいてくれたのかもしれないし。
私は苦虫を噛み潰したような表情だと自覚したまま、嫌々口を開いた。
「……だって、学園中の女子と付き合ってる変態なんでしょ?」
「……………………え?」
この時のトリちゃんの顔を、私はたぶん忘れないと思う。
「……ちょっと待って、希々ちゃん。君は跡部さんのこと、どんな人って聞いてるの?」
「どんな、って……。トリちゃんも知ってるでしょ? 自分のことを俺様とか言ってる厨二病の癖に、学園中の女生徒に手を出しててしかもその子たちを雌猫とか呼んでる自己中男。財閥の御曹司だかなんだか知らないけど、あんな人が生徒会長でこの学園大丈夫なのかな」
トリちゃんが頭を抱えた。
「あながち間違いじゃない! 間違いじゃない、けど……!」
トリちゃんは私の肩に手を置いて、真剣な顔で問いかける。
「希々ちゃん、その情報、誰から聞いたの?」
「? ニオちゃん」
「やっぱりー! 明らかに悪意のある切り抜きだよ……!」
私が目を白黒させている間に、トリちゃんはどんよりと頭からキノコを生やした。
「むしろトリちゃんみたいに優しくて品行方正な人が生徒会長になった方がいいんじゃない?」
「あぁああ、もう! こんなの俺一人で対処できるわけない……!!」
トリちゃんは髪をぐしゃぐしゃに掻き乱し、死んだ目でスマホを取り出した。
首を傾げる私の前で「頼む、来てくれ……」と誰かに電話する。ただ、その一言で電話は切れてしまった。もはや会話ですらない。
相手は誰なんだろうと思っていたら、10秒も経たないうちにクラスのドアが開いた。
やや乱暴に、ガラッ、と開いたドアの向こうにいたのは。
「ワカちゃん!」
「……その呼び方は相変わらずなんだな」
「日吉……! 助けてくれ!」
隣のクラスのワカちゃんだった。
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