ジャックとジル(氷立逆ハー)
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*二話:第一印象*
幸村から託された、大事な幼馴染。幸村が散々惚気けた上、手を出すななんて言うからどれだけすごい女が来るのかと思ったら。
「あ。あとべっきんがむだ」
「誰がだ!!」
とんでもないじゃじゃ馬だった。
おかしい。幸村の話では、さり気ない気配りができて笑顔の絶えない太陽のような女の子、だったはずだ。
「氷帝2年になりました藍田希々です。立海との練習試合のためだけにマネージャーを志望します」
「てめぇふざけてんのか。却下だ」
「あとべっきんがむに許可はもらってるって精ちゃん言ってた」
「その呼び方をまず改めろ」
生徒会室でやたら横柄な自己紹介をしたこいつに、俺は大きなため息をついた。
「テニス部員目的のマネージャーも大概だが、お前に至っては目的がおかしい」
「立海との練習試合がスムーズに進むように雑務もこなします」
「お前はどこの学校の生徒だ」
「本日付で不本意ながら氷帝という設定になりました」
「不本意なのはこっちだ!」
親の仕事の都合で神奈川から東京に引っ越すことになったという女は、仏頂面でそれだけ言うと、半ば俺を睨むように黙り込む。
「……」
幸村からは、彼女はテニス部に顔見知りもいるからよろしく頼む、と言われていたものの、既に俺はその頼みを放棄したくなっていた。
確かに、藍田希々の成績は良かった。文句がつけられないほどに。東京で彼女の偏差値に一番近いのが氷帝だということも理解はできる。
しかし、この性格の悪さは何なんだ。
そんな不純な動機でマネージャーなんか任せられるわけがない、と言おうとした時だった。
生徒会室のドアが開いて、忍足とジローが入って来た。
瞬間、
「ユウちゃん、ジロちゃん!」
「おー希々ちゃん! 元気そうやんけ!」
「希々ちゃんが氷帝に来てくれて、俺うれC!」
藍田希々は俺への態度が嘘だったかのように明るい笑顔を浮かべ、二人と話し始めた。
「氷帝には来たけど、私は精ちゃんを応援するからね!」
「むー、じゃあ俺の方を応援してもらえるように、もっともっと頑張るー!」
「ジローのモチベーション上がるだけでも、希々ちゃんがいてくれるのは有難いわ」
…………何だ。これはどういう状況だ。
俺は不満も露に、席を立った。
「おい、藍田」
「何ですか、あとべっきんがむ」
それは敬語か。かろうじて敬語なのか。それとも俺をおちょくってんのか。
俺が頬をひくつかせている間に、続々とレギュラーが生徒会室に集まり始める。
「ガクちゃん、リョーちゃん!」
「おっ、希々ー! 氷帝の制服も似合ってんじゃんか!」
「久しぶりだな、希々。元気してたか?」
「うんっ!」
……おかしい。
「あ、トリちゃんとワカちゃんもいる」
「あはは……そんな呼び方するの、希々ちゃんだけだよ」
「希々……頼むから、ワカちゃんはやめてくれ」
「ワカちゃんはワカちゃんでしょ?」
……おかしい、よな。
これは俺がおかしいんじゃないよな。
自身の常識と記憶を疑いたくなってきた。
俺はもう一度、転入生に声をかける。
「……おい、藍田」
「何ですか、あとべっきんがむ」
………………間。
「おい、転入生」
「何ですか、あとべっきんがむ」
……………………間。
「ぷっ、」
誰が吹き出したのかはわからないが、それをきっかけに生徒会室は爆笑に包まれた。俺と藍田希々以外は腹を抱えて笑っている。
「あはははは! 跡部、自分めっちゃ嫌われてるやん!」
「待て。納得がいかない。そもそもお前らは何処でこいつと知り合ったんだ」
忍足が笑いすぎて滲んだ涙を拭いつつ、答える。
「あーおかし! 俺らが希々ちゃんと知り合ったんはこの間の合宿の帰りや」
「合宿? 一月前の合同遠征合宿か?」
「おん。お前が生徒会長の仕事や言うて抜けたのとほぼ入れ替わりに、俺らの乗ったバスがエンストしてな。そん時立海のバスに空きがある言うて乗せてくれたんが、希々ちゃんや」
「俺らの席とかテキパキ用意してくれて、希々ちゃんすごい優秀だったよー」
ジローに褒められて心なしか得意そうな藍田希々は、笑顔で宣った。
「今日からよろしくお願いします、あとべっきんがむ以外の氷帝のみなさん!」
再び爆笑に包まれた生徒会室で、俺は不条理に唇の端を引き攣らせた。この俺様を特別視するならまだしも、この俺様だけを軽視するだと?
最悪の女だ。
それが俺の第一印象だった。