ジャックとジル(氷立逆ハー)
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*十話:カリギュラ*
夜のいつもの電話。精ちゃんは変わらず優しかった。
『希々、元気にやってるかい?』
「うん! 私は元気だよ。声の感じだと、精ちゃんも元気そうでよかった」
『俺はもう大丈夫だよ。ちゃんとお医者さんにもそう言われただろう?』
「だって、100%じゃないんでしょ?」
精ちゃんは苦笑した。
『そんなこと言ったら、誰も安心できないじゃないか』
私ははっとして謝る。
「ごめんね、精ちゃん……」
精ちゃんは穏やかに続ける。
『俺は本当に、幼馴染に苦労ばかりかける。……ごめんね、希々』
私は少し考えて、話題を変えることにした。
「ねぇねぇ精ちゃん、立海のみんなは元気? 変わりない?」
『……皆、希々がいなくなって寂しいとは思うけどね。ちゃんと元気にやってるよ』
なら、よかった。
そう安心した、直後。
『……あ。そう言えば今日、赤也が珍しく落ち込んでたんだ』
「……そう」
『何でも、好きな子に告白してフラれたらしくてね。練習であまりにも覇気がないものだから、真田の鉄拳をくらっていたよ』
「……」
『それでも元気がなくて、どれだけすごい失恋だったのかって皆で話していた』
精ちゃんはくすくす笑っている。
私も深くは聞かず「そんなことがあったんだね!」と返す。
『希々も部活にいたら、もっといろいろ話せるのに――……』
話の内容が、半分くらいしか頭に入らなかった。
***
キミを傷つける
そんなモノはいらない
『なぁ希々! 俺、本気で希々のことが好きなんだ!』
キミの邪魔をする
そんなモノはいらない
『そんなんじゃお前……っいつか壊れちまう! 俺が支えるから……っ!』
幸せに出口
そんなモノはいらない
『俺が希々を守るから……っ!!』
幸せに痛み
そんなモノはいらない
『だから、』
『もういい。もう、いらない』
『希々、』
『私の邪魔をするなら、あなたももういらない』
残酷な日常
全部ぜんぶゼンブいらない
『私、あなたのこと嫌い。……ばいばい、赤也』
***
『……少し話しすぎちゃったね。明日も朝練だろう?』
「うん。精ちゃんもでしょ?」
『あぁ。お互い頑張ろう。……おやすみ、希々』
「うん! おやすみ、精ちゃん」
切れた通話。
スマホを眺めてから、しばらくLINEのトーク一覧画面をスクロールした。
どれも見知った名前。やり取りも残っている。
そこに最近新しく加わった名前を見て、私は動きを止めた。
「……」
数瞬迷ってから、そっとアイコンをタップする。
プルル、プルル、プル、
『どうした、藍田』
「――――跡部、ぶちょう……」
『俺以外の誰だと思ってやがる。……で? 用件は何だ?』
「あとべ、ぶちょう」
『藍田?』
私は自分の行動の理由に戸惑い、口からこぼれかけた言葉を喉の奥に押し込んだ。
かわりにどうでもいい質問をする。
「明日の朝練、雨の場合の場所どこでしたっけ?」
跡部ぶちょうはため息をついて、それでも丁寧に教えてくれた。
『明日の予報は晴れだ。まぁ、予報外れの場合を想定しておくことは悪くねぇが……場所くらい覚えろ。トレーニングルーム1だ』
「すみません。体育館もトレーニングルームも1とかAとかαとかあって迷いました。最近晴れ続きだったので」
『αってなんだ。んな場所ウチにはねぇぞ。寝ぼけてんのか?』
時計を見たら日付を越えていた。
こんな時間まで起きているのは跡部ぶちょうも同じだ。
いや、跡部ぶちょうはもう寝ていたのかもしれない。それでも誰かから着信があったらすぐ起きてしまうのかもしれない。
少しだけ申し訳なくなった。
「……跡部ぶちょう、もう寝てましたか?」
画面の向こうでぶちょうが少し笑った。
『安心しろ。ちょうど寝ようとしてたところだ』
「跡部ぶちょうは寝てても誰かから着信があったら起きちゃうかと思いました」
『……変なことに気を回すな。お前こそ明日寝坊しないよう、早く寝ろ』
跡部ぶちょうはどちらとも言わなかった。
でも、そんなところがぶちょうらしいと思った。
「遅くにすみませんでした。ありがとうございます。……おやすみなさい」
『……あぁ、おやすみ』
ツー、ツー、ツー
切れてしまった通話画面をしばらく見つめて、私もベッドに潜り込んだ。