1章
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*七話:絶望*
昼に見た光景が頭から離れず、半ばヤケになって親父の部屋からワインとガウンを取ってきた。酒を飲んだことはなかったから、どうなるかはわからない。死んでしまってもいいと思っていた。
だってそうだろ?
希々が今まで誰とも付き合わなかったのは、希々が恋愛感情というものを知らなかったからだ。でも、忍足はそれをわかってる。わかった上で希々のペースに合わせて、ゆっくり愛情を伝えるんだろう。希々が忍足を好きになったって何の不思議もない。
俺が耐えられたのは、希々が誰とも付き合っていなかったからだと、今日知った。これからは違う。俺は希々が誰かに惚れて付き合って結婚して、そんな未来を見させられるんだ。
これからずっと。
すぐ隣で、弟として。
これを絶望と呼ばず、何と呼ぶ?
死んだ方がましだなんて、この俺が考えていると知っている奴はいない。打ち明けられる奴もいない。俺に見せつけるように希々を抱き寄せた忍足は、俺の気持ちに気付いたんだろう。あいつは俺の相談相手どころか俺の恋敵だ。
相談しろ相談しろとうるさいあの姉に、何度言ってしまおうと思ったか。
……でも、言えなかった。
希々を困らせたくなかったから。
初めて飲んだワインは美味くはなかった。が、とにかく喉に流し込んだ。
親父達はこれの何がいいんだ、なんて考えているうちに頭がふわふわしてきた。訳もなく愉快になって、…………その辺りから記憶が曖昧だ。
希々が来た気がした。久しぶりにすぐ隣で温もりを感じた気がした。髪を撫でてくれる手つきが心地よかった。俺は幸せな夢の中にいるような気分だった。
なのに、忍足の名前なんて呼ぼうとするから。
ふざけんな、とその唇を塞いで。
「――――」
ここが、夢でないことをようやく自覚した。
***
希々は、動かなかった。
俺は初めて触れ合った柔らかな感触に青ざめて、すぐさま離れた。
「……っ!」
酔いなんて吹き飛んだ。
頭の中をぐるぐる回る、後悔、謝罪、後悔、快感、後悔。
「わ……っ悪い! 悪かった、…………っごめん、」
髪をぐしゃぐしゃに掻き乱し、俯いて謝ることしかできない。
「……っその、…………っくそ! ……っ悪い、」
取り乱す俺を前に、希々は困ったように微笑んだ。
「彼女と間違えちゃった?」
「――――――」
そうだ。初めての酒で酔って間違えたことにするのが、一番いい。
頭ではわかっていた。
だから、そうすることにした。
「……あぁ。悪かっ………………」
「…………景吾…………?」
そうすることにした俺の目から、一筋涙が溢れた。
「…………景吾、私なら大丈夫だから。気にしないで?」
「……っ」
「…………もう、お酒なんて飲んじゃダメだよ?」
姉の顔で俺を心配する希々を、これ以上見ていられなかった。胸はナイフでも刺されたんじゃないかというくらい、痛みを訴える。
「景吾……っ!?」
逃げるようにその場を離れて、俺は自室に籠った。
「…………っ!」
この日は一睡も、出来なかった。