2章
夢小説設定
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*二十五話:宣戦布告*
俺は今までと変わらない態度で、希々をいつもの甘味処に誘った。希々は若干ぎこちなくも、その誘いを受けてくれた。顔を合わせた瞬間こそ躊躇いが見えたが、今はすっかりくつろいでパフェを口に運んでいる。
それはそうだ。彼女からすれば何も変わらない日常。安心できる場所で、安心できる人間といる時間。
違うのは、俺の方だ。個室という空間。隣に座る距離感。一度触れてしまった唇。もう、止まれない。
「……希々ちゃん、”大事な人“とは仲直りしたん?」
希々は笑顔で頷いたが、直後に視線を落とした。
「……どないしたん?」
「……いえ、仲直りが精一杯で………………恋人が何なのかまでは、相談できなかったんです」
何でもかんでも相談されている、”大事な人“。恋人とは呼んでもらえない、”大事な人“。
「あの…………! っいえ、何でもないです……」
言いかけて俯いた希々の頬に触れる。
「……何か言いたいことあるんなら、教えて? それとも俺には、相談できんこと?」
希々は俺の顔を見上げて、逡巡する。
「……希々ちゃん。俺には遠慮せんといて。何を聞いても希々ちゃんのこと、嫌いになんてならへんから。な?」
ほとんど告白だが気付かない希々は、迷いながらも切り出した。
「…………あの、言いたくないことがあるのは、わかってる、んです。私にも、言えないことが、あります。……でも」
俺の手が振り払われることはない。滑らかな頬を指先で軽く撫でる。
はよ、話して。
はよ、打ち明けて。
全部。俺に。
「…………侑士くん、に、言われたことが、頭を離れなくて……」
その名前に、ぴく、と反応する。
「…………理由も言わないでキスする人を、信じないで、って……」
あの眼鏡のガキ、余計なことを。
「翔吾さんは身体目当ての人なんかじゃない、って知ってます。……だからこそ、どうしてキスなんてしたのか余計にわからなくて。……こう、可愛い子犬にキスしたくなる感じ、ですか?」
「…………」
さて、どう答えるのが正解か。
いっそここで告白してしまうか。お茶を濁し通すか。
他の女相手ならこんなに頭を悩ますこともなかっただろう。俺がこんなにも悩むのは希々が初めてだと思ったら、苦笑するしかなかった。
「翔吾さん……? ごめんなさい、やっぱり答えたくないことなら、」
「――どっちがええ?」
もう、このややこしい娘に落とされた俺には、正解なんてわからなかった。恋愛は惚れた方が負け、その通りだ。
「……え?」
細い身体を抱き寄せて、唇を奪う。
「……っ!?」
僅かな吐息の合間に、告げた。
「言質取った言うたやろ?」
腰と後頭部に手を回し、角度を変えて何度も口づける。怖がらせない程度に、しかしゆっくりと、甘く香る唇を食んで吸って味わう。初めての刺激なのか、時折希々は鼻にかかる声を漏らした。そのたび湧き上がる、劣情。逃げようと俺の胸を押していた小さな両手からも、徐々に力が抜けていく。
「ふ、…………」
蕩けた顔でこちらを見てくる希々に、理性が飛びかけた。
「……好きやから。それとも、子犬より可愛え妹に我慢できんくなったから。……どっちがええ?」
上気した頬を両手で包んで、キスを重ね問いかける。
「希々ちゃん、どっちがええ?」
啄むようなキスには逃げ腰になるが、長く動きを止めるキスには力が抜ける。後者の方が好きなんだろう。希々の反応を確かめながら、数日ぶりの感覚に酔った。酒よりも体温を上げる、柔らかい唇。
「……どっちがええ?」
「ん…………っ」
あまり進みすぎると拒絶される。俺は唇を離して、代わりに指先を彼女のこめかみ、耳、唇へと移動させた。焦らす動きに、希々は微かに喉を逸らす。堪らずその喉にも唇を押し付けた。
「ひゃ、ぁ…………っ」
「……っ」
腰にくる喘ぎ声を、何とか耐えきって。
かく、と力を失った希々を抱き締める。
「……俺、希々ちゃんにキスしたい。でも、希々ちゃんが恋愛感情わからんくて悩んでたこと知っとるよ。だから、選ばせたる」
「翔吾、さ……」
「俺が希々ちゃんにキスしたい理由。”好きやから“と、”可愛えから“、どっちがええ? どっちもやから、俺はどっちでもかまへん」
「………………え……?」
これは俺から”大事な人“への、宣戦布告。
「理由なんて、希々に選ばせたるから――――キスさせて」
答えを聞く前に、その唇を塞いだ。