2章
夢小説設定
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*二十四話:渡さない*
俺の腕の中でいつの間にか寝落ちた希々のブラウスに、手を伸ばす。さらに2、3個ボタンを外して、白い首筋や鎖骨、肩を確認した。俺以外の所有印はあの一ヶ所だけだったことに、ほっと胸を撫で下ろす。
「……危機感、持てって言ってるのにな」
本当に、この姉は隙だらけだ。
何も知らないから、何もわからないから、他の男の家に泊まったりできる。あの夜何もなかったのだろう、という確信はある。榊翔吾とそういう関係になったなら、希々は必ず俺に言うはずだからだ。
キスをされるくらいは想定していた。跡を付けられるとまでは思わなかったが、一つしかないということは、希々はそれ以上を拒絶してくれたのかもしれない。
「…………馬鹿希々」
二日間触れられなかった肌に、手を滑らせた。細い肩に、新しくキスマークを付ける。柔く食んで、軽く歯を立てて、吸い上げて。色付く白い肩を見ているうちに、一ヶ所では我慢できなくなってきた。
小さい華をいくつか散らし、もう一度抱き締め直す。
『私…………他の人にキスされて、景ちゃんのキスが一番好きって思ったの。景ちゃんにキスしたく、なったの。でも、景ちゃんのことが“好き”かは、わからないの』
他の男のキスを知っても、上書きなんかできないほどキスをしよう。元々俺としかしていなかったのだから、問題はない。希々自身が、俺のキスを一番好きだと口にしてくれたことも十分な収穫だった。
「これからも…………気持ちいいキスは全部姉貴のもんだ」
昔は、寝ている間に毎日していた。今はもう、起きている時にもほぼ毎日している。
……そして、俺の腕の中で眠る希々には、いつだって口づけてきた。
俺のキスじゃなきゃ嫌だと思わせる。言わせる。求めさせる。そして選ばせる。今は言わせるところまで来たのかと思うと、口角が上がった。
希々を諦めることを諦めた日から、この唇に触れなかった日はほとんどない。どんな触れ方が好きなのか、どこが弱いのか、どんな攻め方でどんな呼吸になるのか。知り尽くしているのは俺だけだ。一度や二度他の男と触れ合おうと、6年間の積み重ねは易々とは崩せまい。
大人になって、より確実に希々を深みへ落とす方法を考えるようになった。嫉妬はするが、この際希々が流されて誰かのキスを知ってしまっても構わない。その間も俺はキスを続けるからだ。そうすればいずれ、希々は俺のところに戻ってくる。より気持ちいいキスを求めて。より依存を強めて。
俺の生涯を懸けた愛より重い愛を持つ人間。俺よりも希々のことを知っている人間。そんなもの、存在しない。甘く濃い、禁忌の泥沼。俺は出来る限り希々を甘やかしてきた。希々の願いを叶え、希々の相談に乗り、希々にとって居心地いい場所を作り続けた。榊翔吾という年上の男が出て来たことには焦ったが、所詮はキスマーク一つしか許されない存在だった。そんな男にこの想いが負けるわけがない。
「……渡さねぇ」
誰にも。
何にも。
絶対に。