2章
夢小説設定
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*十九話:通話終了*
希々が屋敷を駆け出して数分後、俺はようやく働き出した頭で彼女に電話をかけた。
嫌いと言われたことが衝撃的すぎて何も手につかなかった。とは言え、こんな時間に一人で出歩かせるわけにはいかない。
しかし何度かけても繋がらない。意図して無視しているのか、事件に巻き込まれて連絡できない状況下にあるのか。時間が経てば経つほど心配は募って。
「……っくそ……!! なんで出ねぇんだよ……っ!!」
GPSというものに思考が及ばず、もう何十回目かわからない通話ボタンを祈るように押した時だった。
『……もしもし、景吾くん?』
「っ!!」
予期せぬ榊翔吾の声に、俺は身体を強ばらせた。
『連絡遅なってすまんな。姉さんは無事や』
「い、ま…………どこにいるんですか?」
『あー、それなんやけど…………とりあえず、今夜はどうしても家に帰りたない言うから、希々ちゃん俺ん家で預かるわ。このままやと何しでかすかわからんし……あ、変なことはせんから安心してな。女性に世話させる。朝には帰すわ』
背筋を冷や汗が流れた。
何を言った。
この男は今何を。
家に帰りたくない。希々がそう言ったのは理解できる。俺に会いたくないんだろう。俺が言葉を選び間違えたから。
しかし、何だって?
俺ん家で預かる?
何の冗談だ?
『あんなに仲良かったのに、自分ら喧嘩でもしたん? ……ほら、希々。景吾くん心配してんねん。出てやり』
しばらくの沈黙の後、申し訳なさそうな声が返された。
『……ほんま、ごめんな。今日は希々ちゃん、まともに会話できそうにあらへん。明日朝には送ってくから、景吾くんも頭冷やしときぃや』
切れた通話。通話終了を告げる電子音を聞きながら、俺は呆然と立ち尽くした。
希々はあいつを頼ってあいつを選んだ。その事実を受け止めることができない。
どうしてこんなにも突然。
なんで、どうして。
俺はただ、希々に触れられる奇跡を当たり前だと思ってしまうことのないよう、一回一回の触れ合いを大事にしていただけなのに。
希々の笑顔を少しでも覚えていたくて、海馬に刻みたくて。その笑顔を見られる幸せを、夢なんかじゃないと確認したかっただけなのに。
俺の名前を呼んでくれる喜びを、いつも抱きしめていただけなのに。
「…………っ希々……っ!」
喉の奥がひりひりと痛んだ。誰かによってではなく、自分によって傷口が抉られていく痛み。
机に置かれたチョコレートのラッピングを見て、胸が詰まった。
『今年はラッピング何色にしようかなー。景ちゃん、何色がいい?』
『今までにない色なら何でもいい』
『えぇー! そんなの覚えてないよ! 具体的な色を言ってくださいー』
『……じゃあ、白』
「……っ希々…………っ」
白いリボンを見たら、涙が溢れた。情けない嗚咽と共に、握ったままのリボンの束が指から落ちていく。
嫌だ。
行かないでくれ。
嫌いだなんて言わないでくれ。
俺じゃない奴を選ぶなんて、言わないでくれ。
「…………っ」
どうして俺は、希々の望む言葉をやれなかったんだろう。どうして俺は、希々を泣かせてしまったんだろう。どうして俺は、希々を幸せにしてやると決めたのに自分の欲ばかり優先してしまっていたんだろう。
希々を笑顔にできないなら、希々に必要とされないなら、俺が存在する意味なんてない。
「…………っ!」
人生の中で己の無力さに絶望した、二度目の夜だった。