2章
夢小説設定
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*十四話:対面*
まさか、翔吾さんたちとパーティーを開くことになるなんて思わなかった。しかもこのパーティーは、翔吾さんが提案したのだとか。
跡部の家とは競合相手だけれど、敵対するのではなくあくまで友好的に関わっていきたい、という考えからだという。関連企業にとどまらず多くの人が参加するこのパーティーは、榊先生の別邸で開かれる。
私は車の中で、わくわくして鼻歌を歌っていたくらいだ。大人数のパーティーなんて行ったことがないから、どんななのか楽しみで仕方ない。
リムジンから降りる時、私の右手を取った景ちゃんが心配そうに見下ろしてきた。
「……いいか、本当に気をつけろよ? …………忍足、頼んだ」
私の左手を取った侑士くんが頷く。
「今回ばかりは全面協力するで」
私は両手に花、どころか両手に騎士のキスを受けて、初めての地に足を下ろす。ドレスの裾をなびかせて、お城みたいな榊先生の別邸を見上げた。
「ねぇねぇ、ディズニーランドのシンデレラ城みたいだね!」
灰色のスーツに身を包んだ景ちゃんが、風に拐われる私の髪を撫でた。
「…………酒、飲みすぎんなよ」
「大丈夫だよ。景ちゃんのいる所だもん!」
藍色のスーツに身を包んだ侑士くんが、呆れたように苦笑した。
「……これは責任重大やな」
「?」
私が首を傾げている間にも、あちこちで車から人が降りて集まり始める。みんなドレスやスーツで、ここだけ中世のお城になったみたいだ。それだけでも心が踊るのに、少し離れた所に翔吾さんを見付けて、私は目を輝かせた。
景ちゃんと侑士くんが手を放してくれたので、翔吾さんに駆け寄る。
「翔吾さん!」
「希々ちゃん! いやぁ……あまりに綺麗で、ほんまにどっかの国の姫さんが来たのかと思ったわ」
「翔吾さんもすっごくカッコいいです! 白いスーツ、王子様みたい!」
さすがに仕事の関係者がいる前で抱き着いたりはしない。でも、翔吾さんに綺麗だと褒めてもらえたのはうれしかった。
翔吾さんは私の頭を軽く撫でてから、私の向こうへ視線をずらした。
「……はじめまして。いつも姉がお世話になっております」
景ちゃんの声が硬いのは、ヤキモチを妬いているからなのだろうか。
まさかそんなわけ、いやでも翔吾さんから教わった男心によると、好意がない異性でも近寄るのは嫌、らしいし。景ちゃんは私のことが好き、らしいし。などと考え込む私を他所に、男性陣が挨拶を交わしていく。
「はじめまして、景吾くん。いやぁほんまに写真の数倍ええ男やね」
「……ありがとうございます」
「――で、こっちの眼鏡の子は誰なん? 親戚かなんか?」
「はじめまして、俺は忍足侑士言います」
「……あぁ、キミが“侑士くん”か」
その翔吾さんの声がどことなく棘を含んでいて、私は二人に目を向けた。
侑士くんは翔吾さんを睨むように見据えている。翔吾さんも見たことのない笑みを唇に乗せていて、何やらただならない雰囲気だ。
間に入ろうかと思った時、翔吾さんが会社の人と思しき人に話しかけられた。そのまま来客対応に移るらしく、「堪忍な!」と言い残して彼は人混みに飲まれていく。
私は振り返り、侑士くんに尋ねた。
「……侑士くん、翔吾さんと知り合いなの?」
途端、ひくついた笑顔が返された。
「全然。初対面です」
「そ、そうなんだ」
温度のない声は、初対面なのにあまり良い印象を抱かなかったということだろうか。同じ関西出身の人同士、東京では仲良くできればいいのに。なんて、余計なお世話かな。
横を見ると、景ちゃんも別の会社の人に声をかけられている。
私の背中をぽんぽん、と叩いて、侑士くんは微笑んだ。
「希々さんは気にせんといてください。それよりほら、中入りましょ」
「……うん」
「スイーツ、絶対美味いですよ」
「! うん、楽しみ!」
自他共に認める甘党の私は侑士くんの腕にエスコートされて、建物の中へと足を踏み入れたのだった。