2章
夢小説設定
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*一話:人生の指針*
景ちゃんは、高校卒業と同時に跡部グループの副代表になった。大学に通いながら仕事もこなす。こんなことができるのは日本中探しても景ちゃんだけだと思うけれど、仕事も課題もあるなんて、休む暇がない。
「景ちゃん、何もこんなに早く会社に関わらなくてもよかったんじゃない? 大学だけでも大変でしょ?」
執務室で、景ちゃんは仕事の書類と大学のレポートをまとめている。
目線を動かさず、景ちゃんは言った。
「希々の就職先を俺の秘書にするには、これが一番手っ取り早かった」
「、…………そんなことのために……?」
「そんなこと? 大学卒業するまで4年あるんだぞ。跡部グループだろうが違う会社だろうが、姉貴が知らねぇ男と親しくなるには十分な時間だ」
景吾は肩を回して天井を仰いだ。肩が凝ったのだろうか。
「俺がのほほんと大学にいる間、希々はどこぞに就職して知らねぇ上司や同期と四六時中一緒にいるわけだ。付き合いって名目で飲み会にも顔を出さなきゃならねぇよな」
違う。これは景吾が呆れている時の仕草だ。現に綺麗なアイスブルーが、半眼だ。
「次の年には後輩もできて、世話焼きなあんたはどうせ慕われる。放って置いても恋愛沙汰に巻き込まれる。……俺に、それを端から見てろって?」
私は景吾のデスクの前で、しゃがみ込んだ。机の向こうの副代表を上目遣いに見つめる。
「……景ちゃんの青春がもったいないって思わないの? 景吾には楽しいキャンパスライフが待ってたかもしれないのに」
景吾は目を細めて、徐に立ち上がった。
「楽しいキャンパスライフ……か。ミスターコンテストのことか? サークルやらコンパやらのことか?」
机を迂回して私の隣にしゃがむ。目線が合って、そこに燻る熱に言葉を失った。
「そこに希々がいねぇなら、何の意味もねぇよ」
「、」
「……言ったろ? 一生かけて信じさせてやる、って。…………俺の人生は俺が決める。俺の人生の基準は、いつだって希々だ」
景吾の大きな手が髪を撫でる。
「……でも、こんなスケジュールじゃあ景ちゃん疲れちゃうよ」
景吾の進路に驚く間もなく秘書に任命された私は、秘書になってから秘書検定を受けた。何やら色々と順番が逆である。
「私にできることなんて、景ちゃんの傍にいることくらいしかない……」
正直景吾が秘書を必要としているとは思えなかった。仕事は速いし、大学の課題は私の知らない分野だし、お茶汲み機でも置いておけばいいのでは、と時々思う。私にできることなんて、景吾のスケジュールの把握と景吾のオーバーワークを止めることくらい。
本気で景吾は私のために人生を捨ててしまいそうで、心配になる。
不安げな私に、景吾はふっと笑った。
同時に唇を塞がれる。
「、」
「……希々がいるからやれるんだよ。姉貴が傍にいること以上にやる気が出るご褒美なんかねぇ」
啄むように繰り返される優しいキスに、目を閉じる。
「……訂正する。ご褒美はこっちの方がやる気が出るかもな」
「もう、景ちゃ、」
言葉が飲み込まれる。
慣れ親しんだキスに、身体から力が抜けていく。私がバランスを崩すことも想定内、とばかりに後頭部と腰に景吾の手が回された。
ふかふかの絨毯の上で、秘密のキスをする。
心地良くて、どこか背徳感の滲むそれは私の心を確かに侵食していた。