1章
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*十三話:狡猾な告白*
忍足が嫉妬で理性を失えばいいと思って、昨夜はわざと濃い跡を付けておいた。もう少し計画的な奴かと思っていたが、希々に無理矢理キスまでしてくれるとは予想以上の結果だ。
俺は内心ほくそ笑む。
「景、ちゃ…………」
30秒ほど唇を重ねて、そっと離す。本当に触れるだけのいつものキスを繰り返すうち、希々の瞳からは涙が溢れなくなった。膝の力が抜けて体勢が崩れた彼女の腰に手を回し、近くのソファに座らせてまた口づける。
「ふ…………」
薄く目を開いた希々の髪をやんわり掻き乱しながら、昨夜ぶりの唇を堪能する。
混乱している希々には、これが異常かどうかを判断する力がない。俺にされるがまま、心地良さそうな吐息を漏らす。
「……希々、俺が怖いか?」
薄く色付いた頬で、希々は微睡むように口を開く。
「……うぅん、怖くない……」
「……俺が、気持ち悪いか?」
「……うぅん、気持ちいい…………」
毎日してるんだから、俺のキスがしっくりくるのは当然だ。本人も忍足もそれを知らないだけで。
俺は当初、希々に対し忍足を女たらしのように印象操作しようかと考えていた。しかし俺自身が似たようなことをしていた上、忍足本人から否定されれば俺の株が下がるだけだとすぐ理解し、やめた。かわりに教えてやった、単なる“事実”。あいつはモテる。デートだって何回もしたことがある。
それらは見事、希々の中に“経験豊富な忍足像”を作り出してくれた。後はあいつが自滅するタイミングを待つだけだった。
「…………俺は、希々が好きだ」
「え……?」
いつでも逃げられる。いつでも俺を突き飛ばせる。自由を与えた上で、滑らかな頬に手を添えて口づける。
「俺が酔った日…………希々にキスしたのは、彼女と間違えたからじゃない」
「……そう、なの…………?」
「……あぁ。ずっと名前で呼びたかった。俺にとって希々は姉じゃない。ずっと誰より好きだったのに…………告白すら出来ない存在だった」
忍足の失態に便乗して、俺はようやく思いの丈を口にした。
「……好きだ。ずっとずっと、希々のことが……一人の女として好きだった」
「けい、ちゃん…………」
濡れた髪を撫で、吐息をさらって告げる。
「弟、なのに…………ごめんな」
「、…………」
俺の体温を分けるように抱き寄せて、腫れた瞼に口づける。
「希々が忍足と上手くいくなら、それでいいと思ってた。……なのに、あいつにひどいことされたなんて言われてみろ。俺は…………希々をあいつに任せるなんて、もうできねぇよ」
思ってもいないこと半分、思っていること半分。伝えるたび、涙を唇で拭うたび、希々は微かに瞼を震わせて吐息を漏らした。見たことのなかった女の顔に、集まる熱を隠せない。
「……希々、俺のキスと忍足のキス、どっちがいい?」
「景、ちゃん……」
「俺は希々に、何一つ強要しない。だから…………こうやってキスすることは、許してくれねぇか……? もう、無理に彼女なんか作らねぇから……」
少しずつ、押し付ける唇に力を込める。すっかり力の抜けた指先に自分の指を絡めて繋ぐ。希々は非力ながらに、指を握り返してくれた。
「……っ!」
拒絶されない歓喜に、心臓が音を立てる。
「他の男となんか、付き合うなよ……。希々には、俺がいるから……ずっと俺が、いるから…………」
希々の目が、俺の目を見つめる。
答えに戸惑い、揺れる瞳。
誰かを選んで俺を映さなくなるくらいなら、流されて戸惑って悩んで、俺を映してくれ。
「わた、し…………私…………」
まともな思考回路にない希々が、眉を寄せて瞬きする。俺と同じアイスブルーが伏せられる前に、キスを落とした。
「俺の全部、希々にやる。…………希々をくれとは言わねぇから、キスだけは…………許してくれよ…………」
角度を変えて、意識のある希々の唇に酔いしれる。
「、…………」
希々は躊躇いつつも抵抗せず、目を閉じた。弟と交わしている不自然、知らないうちに毎晩慣れ親しんでいた自然、相反する二つが簡単には答えに辿り着かせない。
それを知っている俺は、唇が痛みを覚えるほどにキスを繰り返した。
本当に欲しい人間とのキスは、死ぬほど気持ち良かった。