名前変更のない場合、主人公名は長良(ながれ)になります。
風上へ
長良
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そっと、ひとつ手に取って
彼女は目を閉じた。
やがてゆっくりと目を開け
軽く指先で弾くと
ーーーーーー……
弾かれただけのソレは命を宿したように高く舞い上がり、
蝶のようにふわりふわりと、空中を遊んでから,
池の向こうまで飛行した。
生きているようだった。
「これ、は」
『…チカラをうまく含ませれば、
本来その物体が持つ素質を、最大限引き出すことが出来る。
…って、
おばあ様が修行をつけてくれました。」
飛ぶ物体はいろいろあるけど、紙飛行機なら
構造や素質を理解しやすいだろうって。
「それでこんなに…」
『コツはつかんだと思います!
…だけどもっと、
落ちないくらい飛ばしたいんです。
…見えなくなるくらい』
彼女の言う“チカラ” と、
この能力。
三仏神の依頼
龍神の憑依した女性の移送
ーーーーー…
「貴女は、」
『“長良(ナガレ)”。
…半年前、川から引き上げられたとき
おばあ様が名付けてくれました。
わたしが名前も、
何もおぼえてないなかったから、』
「…!」
ザァッ…
風が弧を描きながら
庭園を駆け抜ける。
それはきっと
記憶が抜けるほど、酷な状況だったからだ。
元が人間であったなら尚更、
そこから“自分”を取り戻すまでの日々も、
力を抑制できるようになるまでの鍛錬も、
壮絶であったに違いない
さらに今、
拠り所となっていた最高僧のもとを離れ
彼女は、旅路へ踏み出そうとしている。
「…大丈夫、ですか。」
『!大丈夫です!
お…覚えてませんし!!あまり…
大変なこととかは…!』
言葉に、詰まってる。
それでも俯きそうな顔を素早く前へ向けて
『…これだけは、
出来るようになりたいんです
ー…足手纏いにはなりたくない、から。』
「ーーーー……。」
成程
八戒はしばらく考えて、
ーーー…ひとつ、
そばに置かれた紙飛行機を,手に取った。
「…要は、フォームだと思うんです。」
『へ。』
「ホラ、長良さんさっき、まるで息を吹きかけるようにそっと手を離していたじゃないですか。」
ヨイショ、と腰を上げ、紙飛行機を構える。
「力を含ませる過程で慎重になってしまうのも分かるんですが、
紙飛行機ってね、揚力によって舞い上がるんですよ。
ですから飛ばす際は足を踏ん張って、大きく腕を振った方が、高く遠くへ飛ばすことが出来ると思います。」
ここまで言うとちらりと長良を見て、
横にどうぞ、と優しく目で促した。
『!』
ーーーーー…“一緒に”。
『…!お…
教えて下さい…!』
一つ手に、長良も立ち上がって
八戒の横に立つ。
…
触れては
数えきれないほど沢山のモノが壊れた。
それでも尚吹き出し続ける、得体の知れない感覚も、
それに対する恐怖も、
どうしたらいいのかも、
誰かに縋る時間や
権利なんて無くて
抑制を覚えて
生活に支障が無くなっても、
誰も
そばに来る事なんて、無かった。
だから
何においても慎重に、壊さないようにと
思うようになっていて、
でも今
少し話しただけのこのヒトは
ーーー“思い切り、やってみて”と
私の横に立ってくれてる。
「風が吹いている場合はうまく利用して
風下に投げがちですが、少し斜め上に投げるよう意識してください。」
『…!』
きっとこの風は
ーーーーー…後押ししてくれるやつだよ。
「風上に向かって…っ
投げて!」
『ッ!』
腕を大きく振って
2人同時に、空へ、投げた。