梟の羽
なまえの変更
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『なぁ、俺それやめろって言ったよな?』
そう言って彼に叩かれたのは昨日のこと。
叩かれたところはまだほんのりと赤くてヒリヒリする。
『はぁ』と彼がため息をつく度に何を失敗したかと思考を巡らせ、怒鳴り声を上げて叩かれることへの恐怖と緊張から動けなくなり冷や汗が出る。
喉が蓋をされたかのようにヒュッっという呼吸しかできず、声を発することも出来ない私をまた怒鳴っては叩く。
もう散々だと思った。痛い。苦しい。辛い。
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私の現状を知っているのは親友のだけだ。
幼なじみの木兎は、昔から私が傷を作る度にどうしたのかと聞いてくるくらいお節介だ。
曲がったことが嫌いで周りが見えなくなるタイプだから、きっと私の現状を知ったらバレーもほったらかして彼の所に殴り込みに行くに違いない。
それでもたまに見えるところにつけられた傷を見つけてはどうしたのかと聞くから、転んだとかちょっとドジっちゃってと言っては誤魔化していた。
木兎にはバレーに集中して欲しい。
そう思うと何がなんでも隠し通そうと思った。
私も覚悟を決めなければならない。
そう考えたのはつい最近のこと。
親友はずっと別れるように助言してくれていたし、私もそうするべきだと思っていた。
でもまた怒られるんじゃないか、叩かれるんじゃないかと思うと何もできなかった。
でももうさすがに限界だ。
今日何がなんでもハッキリと伝えるんだ。
そう決めたことをれいに言うと、彼女は心底安心したような顔をしていた。
そして家の中では何をされるかわからないから人目に付く外で話すようにと言ってくれた。
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彼を呼び出したのは放課後のこと。
まさか私が人生で誰かを体育館裏に呼び出すなんて漫画みたいなことをするとは。
体育館からはバレー部だろうか、ドンとボールを叩く音と掛け声が聞こえていた。
ボールの音に混ざって、木兎の声も耳に入る。
『なに?』
頭の上から降ってきた声。
今まで考えてたことなんて全部吹っ飛ぶような圧のある胸が痛くなる声。
呼吸が浅くなって冷たい汗が首に流れる。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
『あのね、私と別れて欲しいの。』
大丈夫だ。言えた。
チッという舌打ちが聞こえる。
思わず肩を震わせると、『はぁ』というため息も聞こえた。
だめだ、怖い。
『お前さ、自分がなに言ってんのかわかってる?』
ごめんなさい、と言う前に声が被る。
『俺のことイラつかせんのやめて?』
『でも、ほんとに、もう無理…だから…。』
『無理?何が?』
『もう酷いことされるの嫌なの…。』
『それ、お前が悪いよね?俺の事イライラさせてんの誰?聞いてんの?お前だよね?』
でも、そう言おうとした時彼の手が上がるのが見えた。
また叩かれる。
痛いの、嫌だなぁ。
そう思った時、誰かが視界に入ってきた。
片手は振り上げられた手を掴み、もう片手は私を抱き寄せている。
『ぼく…と…?』
おもわず口から名前がこぼれる。
「お前、今何しようとした?」
その声は今まで聞いたことないくらい低くて圧力のある声だった。
「今こいつに何しようとしたか聞いてる。」
チラリと見えた彼の目は怒りに燃えていて、その目で敵を射抜くかのような鋭さだった。
『はぁ?そいつが俺の事イライラさせるから悪いんだろ?』
「だからって女に手出していいと思ってんのかよ。お前みたいなやつがひなの彼氏でいいわけねぇんだわ。」
ゆっくりと木兎の口から出る一言一言に怒りが滲んでいた。
あまりの怒気を孕んだ口調にあきらが気圧されているのがわかる。
「ひなはな、お前にはもったいなすぎるくらい良い奴だから。てめぇのストレス発散にしていいような奴じゃねぇ。」
その言葉におもわず涙がこぼれた。
「今後一切こいつに近づくなよ。少しでも何かしたら…どうなるか分かってるよな?」
有無を言わさない口調に圧倒されたのか、チッという舌打ちと共に、彼はその場から離れていった。
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『木兎…もう…』
大丈夫だから、そう言おうと口いた瞬間、大きな体に包み込まれるように抱きしめられた。
『ぼくと、くるしい、、』
「なぁ、なんで俺に相談してくれなかったの」
『木兎に心配かけたくなくて…』
はぁ、と彼の口からため息が漏れる。
ビクッと肩を震わせると、大きな手が私の頭を撫でてくれた。
「大丈夫だから。もう大丈夫だから。」
『ぼくと、、、』
優しい大丈夫に涙があとからあとからでてきた。
『怖かった』
「うん」
『痛かった…』
「うん」
『苦しかったよ…辛かったよぉ…』
「よく我慢したな。」
しゃくりあげながら、ぼくと、ぼくと、と彼の名前を呼ぶ。
「ほんとはさ、薄々気づいてたんだ。お前が毎回毎回痣作ってくるから、毎回毎回聞いても毎回毎回誤魔化すし。確かにお前はちょっと抜けてるところはあるけどそんな痣ばっか作るようなやつじゃねぇから。」
『ごめんなさい』
「もっと早く助けてあげたかったのに遅すぎた。ごめん。」
『なんで謝るの、木兎が謝るの違うよ』
「お前にめちゃくちゃ辛い思いさせ続けたあいつはいくらぶん殴っても足りないくらい腹立つ。」
そう言って拳を握りしめる木兎の手を思わずとっていた。
『木兎、ありがとう。』
彼の目を真っ直ぐに見つめて言う。
『木兎がいなかったら私、今頃どうなってたか想像もしたくない。助けに来てくれてほんとにありがとう。』
「お前はもっと俺の事頼れよな。」
『うん、これからはそうする。』
「もっとマシな男選べよ。」
『うん、これからはそうする。』
「てか俺と付き合え!」
『うん、これからはそう…する…って、え?』
「お前のこと絶対守ってやる。だから俺と付きあってくれませんか?」
『え、え、でも…』
「俺はずっとガキの頃からお前のことが好きなの!いい加減気づけ!」
『うそ…。』
「ったく…。俺の知らない間にあんなDV男と付き合うしあざ作ってくるしもう心配で心配で…。」
『ごめん…。』
「だから俺がひなを守る!一生大事にする!俺と付き合ってください!」
『………はい。』
「え?まじ、、?ほんとにいいの、、?」
『ダメなの?』
「んーん!!めちゃくちゃいい!!」
そう言ってまた思い切り抱きしめてくる木兎の顔は私が大好きな笑顔だった。
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