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【とうらぶ】短編小説

○出会ったばかりのいちみか
○鶴丸がちょい出番多め
○お題は目ですが、作中では瞳表記

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記憶がないことをこれほど残念に思ったことは初めてだった。主殿が求めて止まなかった天下五剣の内のひとつ、三日月宗近殿が刀鍛された場に居合わせ、その麗人に名前を呼ばれた瞬間に強くそう思った。
主殿に本丸の案内を任され、三日月殿とふたりきりになった時に「貴方は私のことを存じているのですか?」と尋ねると三日月殿は寂しそうに笑って肯定した。

「そうか。記憶がないのか…」
「はい、三日月殿のことも思い出せなく…申し訳ない」

裾で口元を隠すが、目元は私の眼前に曝されたままだ。その眉は悲しそうに下がり、目を伏せてしまっている姿から、彼を傷付けてしまったと慌ててしまう。私の慌てる姿を見て三日月殿がおかしそうに微笑んで「いや、そうなってしまったものは仕方ない。気にするな」と言ってくれた。微笑んでくれた理由はともあれ、悲しそうな顔は三日月殿には似合わない。そう思ったから良かったと安心する。
私たちが話しながら廊下を進むと、進行方向から白い影がやって来た。白い影、もとい鶴丸殿は私と三日月殿の姿を認めてこちらに真っ直ぐ歩いて来る。

「よぉ、一期。隣に居るのは…もしかして三日月かい?」

白く長い睫を瞬かせて鶴丸殿は三日月殿を指差した。指差された三日月殿もまた藍色の瞼を瞬かせて「鶴か…?」と首を傾げた。

「…お二人は知り合いなのですか…?」
「ああ。俺の刀工の師匠が三日月たち三条派の刀工なんだ」
「あんなに小さかった鶴がこんなに立派になるとはなぁ…」

ふわりと微笑む三日月殿に鶴丸殿は恥ずかしそうに頭をかいた。昔のことを持ち出されて恥ずかしかったのだろうか。

「そうそう、ここには君の兄弟刀もすでにいるから後で顔を見せてやると良い。彼らは君が顕現するのを首を長くして待っていたようだからな」
「兄上たちはすでに居られるのか。それは楽しみだ」

知り合い同士の思い出話に花が咲くとはこのころだろうか。若干の疎外感を感じながら楽しそうな二振りを見守る。正確には私も知古なのだが、三日月殿との思い出はないため初対面に近い感情を持ってしまうことがやはり残念だ。

「しかし、よく俺だと分かったなぁ」
「君、自分が着ている狩衣に刀紋を大きく主張しておいてそれはないだろう…。そう言えば君の代名詞とも言える打ち除けはどこに?」

そう質問しながらも三日月殿の顔を見つめていた鶴丸殿は突然「あ!」と声を上げた。

「瞳に打ち除けがあるじゃないか。こいつは驚いた!一期も見てみると良い、こいつが三日月が美しいと評価される理由のひとつだからな」

鶴丸殿に腕を引かれて三日月殿の目の前に立たされる。私より若干背丈の高い彼は「一期と目線が近いなぁ」とどこか寂しそうに笑った。なぜ寂しそうに笑うのかは分からないが、少し細められた彼の瞳の中で、三日月の模様に見える打ち除けが光り輝いて見えた。

「ああ…こうして見ると三日月殿の瞳は確かに美しい…。見惚れてしまうとは正にこのことでしょうか」

私がそう言うと、三日月殿は一瞬呆けたような顔をしてから笑い声を上げた。「そのような軟派な発言をするところはまるで変わらない」と途切れ途切れに聞こえたような気がする。軟派な発言とは一体何のことだろうか。
一通り笑った後、三日月殿は少し私に顔を近付けて、何かをしげしげと見つめて来た。

「一期の瞳だって、こうして見ると…」
「!?」

近い。もう唇が触れてしまいそうな距離から目を覗きこまれている。三日月殿の吐息が口にかかる度に心臓が体から飛び出しそうになってしまう。

「一期の瞳は太陽のようで綺麗だなぁ」

ああ、それはこちらの台詞ですよ!そう叫びたくて仕方なかった。三日月殿の宵の空を思わせる蒼の瞳の中に浮かぶ三日月がキラキラと輝いて、私の目を奪って離してくれないのだから。
三日月殿に瞳を見つめられて周りが見えなくなるほど焦ってしまった私は、すぐ真横で鶴丸殿が半眼になって「君たち俺のことを忘れているだろう…」と呟いたことには気付かなった。

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