【とうらぶ】短編小説
○季節外れの桜がメインのはずだった
○何故か微ホラー
○三日月が怖い
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本丸に春がまた来た。この間までは夏で、その後明けない夜が続いたと思ったら今度は春の日差しに逆行していた。本丸の天気は主が決めているから、春が恋しくなったのだろうかと一期は考えた。縁側に佇むと風に煽られた桜の花びらが一枚、また一枚と散っていく。
ひらり、と舞い散る桜を見て一期はふと何かを思い出しそうになった。もしかしたら大阪城にも桜はあったのだろうか。見えない何かに惹かれて一期が思わず履物もなしに表に出ようとしたのを止めたのは、ゆったりとした声だった。
「今朝主が春が恋しいとぼやいていたが、本当に春にしてしまうとはなぁ。一期も花見か?」
その声に現実へと引き戻された一期は、夢から覚めたばかりのようなぼうやりとした表情で後ろを振り返った。小首を傾げて微笑む太刀が、自分の裾で口元を隠してしずしずと一期に歩み寄って来た。己の優美さを理解しているのだろうその太刀の名は三日月宗近という。
「三日月殿…」
「どうしたのだ一期。そんなに驚いた顔をして…」
三日月に見える打ち除けを持った不思議な目に見つめられて、一期は思わず背筋を伸ばした。彼と話すと一期は何故か緊張をしてしまうのだ。相手が天下五剣と呼ばれている存在だからだろうか。
「いえ、何でもありません…少し、桜が綺麗で…」
「一期」
桜に目を滑らせようとした一期の頬を両手で包んだ三日月が、鼻が当たりそうな至近距離から一期の瞳を覗き込んで来る。まるで自分以外は見るなと言わんばかりの三日月の行動に、一期の体は緊張からか硬直してしまう。一期の緊張を知ってか知らずか、三日月は特徴的な目を細めて囁くように言葉を紡いだ。
「桜に囚われてはならぬぞ。あんなに美しい花だが、あれは恐ろしい魔物だ」
ザアアア、と桜の木が三日月の言葉を否定するように鳴いたが、一期の耳には心地よいその言葉しか入って来なかった。目を細めて笑う三日月の顔は歪んだ笑顔だというのに目が離せないほど美しかった。
「知っているか?桜の木の下には死体が埋まっているという逸話を。人の血を吸ってあれは美しく花を咲かせるらしい」
言いたいことを言い切った三日月は何時も通りの笑顔を浮かべ、一期の頬を軽く撫でた。ぞわりとした感覚が、一期の背筋を走る。
「俺が好いていた刀はな、桜がたいそう好きな奴でな。この俺よりも桜の花を愛でたがる失礼な刀だった」
「三日月、殿…」
「何故だろうなぁ…俺が好いた者はな、俺のことが一番でないと不幸になってしまう。まさか桜が対象でも駄目だとは思わなかったが。しかし、記憶を失った奴にとって見覚えのある桜は愛でる対象だったのだから、仕方ない話かもしれないな」
気が付いたら三日月の体は一期に密着していて、狩衣を纏ったその体を一期は支えた。
「お前はそうならないことを祈っているぞ。一期一振」
三日月の整った唇が一期のそれに軽く触れた。どちらも目を閉じなかったため、一期は先ほどよりも近い距離で三日月の瞳を見つめることになった。湖面に浮かぶ三日月が一瞬赤く光った気がした。
完全に一期に体を預けた三日月は戯れるように一期の頬に口づけを落とし、クスクスと悪戯っ子のように笑った。
「なあ、一期。人の血を吸った桜が淡い桃色ならば、刀の鉄を吸う桜は何色なのだろうな?」
そういえば、この一期一振は所詮二振り目であり、最初に本丸に居た一期一振は破壊されたらしい。その直後からだろうか。春の庭の本丸の桜は淡い桃色の中にくすんだ白色の桜の花びらを咲かせる木が一本混じるようになったのは。
しかし、それを知らない一期は目の前の美しい存在に完全に目を奪われてしまった。悲しそうに泣く桜の花と思い出しかけた過去の記憶のことを忘れて、今度は自分から三日月の唇に噛み付いて貪るように三日月の口内を犯した。多少強引な一期の行動にも三日月は嬉しそうな笑みを浮かべて、一期の首に手を絡めてそれに答える。そして、自分の部屋へと一期を誘った。
小窓からくすんだ白色の花びらを持つ桜の木が見える、三日月の部屋へ。
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三日月は桜が魔物と言いましたが、本当に魔物なのは誰なんでしょうね。
○何故か微ホラー
○三日月が怖い
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本丸に春がまた来た。この間までは夏で、その後明けない夜が続いたと思ったら今度は春の日差しに逆行していた。本丸の天気は主が決めているから、春が恋しくなったのだろうかと一期は考えた。縁側に佇むと風に煽られた桜の花びらが一枚、また一枚と散っていく。
ひらり、と舞い散る桜を見て一期はふと何かを思い出しそうになった。もしかしたら大阪城にも桜はあったのだろうか。見えない何かに惹かれて一期が思わず履物もなしに表に出ようとしたのを止めたのは、ゆったりとした声だった。
「今朝主が春が恋しいとぼやいていたが、本当に春にしてしまうとはなぁ。一期も花見か?」
その声に現実へと引き戻された一期は、夢から覚めたばかりのようなぼうやりとした表情で後ろを振り返った。小首を傾げて微笑む太刀が、自分の裾で口元を隠してしずしずと一期に歩み寄って来た。己の優美さを理解しているのだろうその太刀の名は三日月宗近という。
「三日月殿…」
「どうしたのだ一期。そんなに驚いた顔をして…」
三日月に見える打ち除けを持った不思議な目に見つめられて、一期は思わず背筋を伸ばした。彼と話すと一期は何故か緊張をしてしまうのだ。相手が天下五剣と呼ばれている存在だからだろうか。
「いえ、何でもありません…少し、桜が綺麗で…」
「一期」
桜に目を滑らせようとした一期の頬を両手で包んだ三日月が、鼻が当たりそうな至近距離から一期の瞳を覗き込んで来る。まるで自分以外は見るなと言わんばかりの三日月の行動に、一期の体は緊張からか硬直してしまう。一期の緊張を知ってか知らずか、三日月は特徴的な目を細めて囁くように言葉を紡いだ。
「桜に囚われてはならぬぞ。あんなに美しい花だが、あれは恐ろしい魔物だ」
ザアアア、と桜の木が三日月の言葉を否定するように鳴いたが、一期の耳には心地よいその言葉しか入って来なかった。目を細めて笑う三日月の顔は歪んだ笑顔だというのに目が離せないほど美しかった。
「知っているか?桜の木の下には死体が埋まっているという逸話を。人の血を吸ってあれは美しく花を咲かせるらしい」
言いたいことを言い切った三日月は何時も通りの笑顔を浮かべ、一期の頬を軽く撫でた。ぞわりとした感覚が、一期の背筋を走る。
「俺が好いていた刀はな、桜がたいそう好きな奴でな。この俺よりも桜の花を愛でたがる失礼な刀だった」
「三日月、殿…」
「何故だろうなぁ…俺が好いた者はな、俺のことが一番でないと不幸になってしまう。まさか桜が対象でも駄目だとは思わなかったが。しかし、記憶を失った奴にとって見覚えのある桜は愛でる対象だったのだから、仕方ない話かもしれないな」
気が付いたら三日月の体は一期に密着していて、狩衣を纏ったその体を一期は支えた。
「お前はそうならないことを祈っているぞ。一期一振」
三日月の整った唇が一期のそれに軽く触れた。どちらも目を閉じなかったため、一期は先ほどよりも近い距離で三日月の瞳を見つめることになった。湖面に浮かぶ三日月が一瞬赤く光った気がした。
完全に一期に体を預けた三日月は戯れるように一期の頬に口づけを落とし、クスクスと悪戯っ子のように笑った。
「なあ、一期。人の血を吸った桜が淡い桃色ならば、刀の鉄を吸う桜は何色なのだろうな?」
そういえば、この一期一振は所詮二振り目であり、最初に本丸に居た一期一振は破壊されたらしい。その直後からだろうか。春の庭の本丸の桜は淡い桃色の中にくすんだ白色の桜の花びらを咲かせる木が一本混じるようになったのは。
しかし、それを知らない一期は目の前の美しい存在に完全に目を奪われてしまった。悲しそうに泣く桜の花と思い出しかけた過去の記憶のことを忘れて、今度は自分から三日月の唇に噛み付いて貪るように三日月の口内を犯した。多少強引な一期の行動にも三日月は嬉しそうな笑みを浮かべて、一期の首に手を絡めてそれに答える。そして、自分の部屋へと一期を誘った。
小窓からくすんだ白色の花びらを持つ桜の木が見える、三日月の部屋へ。
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三日月は桜が魔物と言いましたが、本当に魔物なのは誰なんでしょうね。
