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【とうらぶ】短編小説

○いちみか未満
○三日月視点
○微ホラー(全く怖くない)
○冒頭に猫が寿命で死ぬ描写あり

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「見ろ、一期。猫だ。」

俺はそう言って、その小さな猫に手を伸ばす。額を撫でられた猫は弱弱しくにゃあとか細い声を出すだけで、目を瞑って地面に伏せてしまう。
その儚い姿に不安を抱いて、小さな体を慰めるために抱き上げようとしたが、一期の大きな手を俺の腕を掴んでそれを止めた。

「止めなさい」
「だが、猫が…」
「我々とは違い命あるもの。そっとしてあげましょう」

一期の言葉にようやく俺はもうこの猫は死んでしまうだと理解した。一期とは違い俺は人を斬るために使われたことが数える程しかないため、その死の概念というものが頭から抜け落ちていた。
行きますよと俺の腕を引っ張る一期に引きずられてその場を離れる。その猫から遠ざかって行く中、一度だけ死に近付く猫を振り向くと、怪しく光る金色の瞳と目が合った。
驚きで小さく息を飲んだ俺の名前一期がを呼んだ。反射的に一期と目を合わせて、三日月は大丈夫と小さく首を振った。何でもないと言いながらももう一度目線を猫へと戻すと、先程の見開かれた金色の目が嘘だったように顔を伏せてぐったりとしている猫の姿しか無かった。


 *


夢を見た。
付喪神である自分が夢を見るとは何だかおかしいような気がするが、寝ている時に過去の記憶を断片的に見せられたのだから、これは夢なんだろうと結論付けた。
まだ豊臣の元に居た頃、持ち主を真似て夫婦の真似事をしていた一期と城内を散歩していた時の記憶。木々に埋もれるようにして倒れ伏せて猫が息絶えようとしていたのを見つけてしまった。
今思えば何と憐れな猫だったのだろう。人目の付かない場所で最期を迎えようとしていたいうのに、死に際を晒されてしまって。

「…はぁ…」

何となく憂鬱な気分になりながら布団から出るが、襖の障子越しに見える月明りにまだ夜が明けていないことを悟る。
もう一度寝ようにもすっかり目を覚ましてしまったのだから、俺は仕方なしに部屋を出て、少し冷える外気に身を預けて散歩へと出掛けた。

(誰かまだ起きている者が居れば時間をつぶせるんだがなぁ…)

廊下を進めど誰かと擦れ違うことはなかった。時間を確認していないが、まだまだ夜明けまでは時間がかかるだろうから誰も起きていなくても、それは全く不思議な話ではなかった。
あまり気分の良いとは言えない夢を見た所為だろうか、少し心細く感じながら廊下を進んでいると後方から聞こえた猫の鳴き声に反射的に振り返ってしまう。
しかし、猫の姿などそこにはなく、ただ自分が歩いてきた薄暗い廊下が続いているだけだった。
あんな夢を見たから、きっとそれで聞こえたと錯覚してしまったのだろう。そう思って息を落ち着かせる。

「…三日月殿?」

折角落ち着けた息が途端に乱れた。
よく知っているその声は一期のものだった。何時の間にか真後ろに立っていた一期に俺は思わず半身を引いてしまう。

「い、一期…眠れないのか…?」
「それはこちらの台詞です。どうしましたか?…少し、顔色が悪い」

そう言われてながら指で少し目尻の辺りを撫でられて、俺は目の前の一期に違和感を覚えながらも、夢見が悪くてと震える声を押さえられなかった声音で答えた。

「どんな夢を見てしまったのですか?良かったら聞かせて下さい」

手を取られて縁側に座らされた俺の横に一期は腰を着けた。
話すまで離さないと言わんばかりに強く握られた手に痛みが走る。痛い、と呟くも有無を言わせない一期の笑顔に、俺はその場に一期が横に居たことは伏せて夢の内容を話した。
一期に記憶が無かったことが悲しかった俺は無意識のうちに一期を避けてしまったため、こんなに長く話すことが出来たのもこの本丸に顕現して以来初めてとなるというのに、全く嬉しさが湧き上がらない。

「その猫は寂しかったのでしょうね」

俺の夢の内容を聞いた一期が最初に言った言葉がそれだった。

「心配して抱きしめてくれようとした腕が嬉しかったのでしょう」

「可哀想に。きっと三日月殿に看取って欲しかったのでしょうな」

「三日月殿が連れて行かれたばかりにそれが叶わなかった」

俺が言葉を挟む暇がないほどに言葉を重ねる一期は、握りつぶされるのかというくらい強い力で俺の手を圧迫してくる。

「一期、痛い」
「誰が」

一期の金色の瞳が細められた。

「誰が貴方を私から遠ざけたのでしょうか?」




一期の金色の瞳が、あの時目があった猫と被って…、



「三日月殿!三日月殿大丈夫ですか!?」

気が付いたら真っ青な顔をした一期に抱きかかえられていた。
何があったのだろうと起き上がろうと地に手を付くと、一期に握られていた方の手が酷く痛んだ。

「一期、俺は…」
「厠に向かう途中で三日月殿が庭に倒れているのを見つけたんです…。こんなに体が冷えて…どうしてこんな場所で寝ていたのですか…」
「庭…?」

見るとそこは縁側ではなく、池の前の地面の上だった。
俺は一期と話していたはずだったのに一体何が起こったのだろうか。
目の前の一期の話が本当なら一期は倒れている俺を発見したということになる。
混乱する頭を抱えてると風に乗ってまた猫の鳴き声が聞こえた気がした。。

(…ああ、そうか。猫に化かされたのか)

人を化かすのは狸の領分だろうに。
俺を心配して強く抱きしめてくれる本物の一期の熱に安堵したのだった。
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