【いちみか】審神者、夫婦に振り回される【完結】
遠征部隊が戻ってきた。その知らせを聞いた一期は面倒臭がる審神者の首根っこを掴んで、三条の兄弟と鶴丸が居るという大広間に顔を出した。色々な刀に出迎えられていた三条は疲れたような様子は見えずに末弟の世話を焼いているが、唯一鶴丸だけはぐったりと疲れている顔を隠そうとしていない。それを見た審神者の一言目が「鶴丸めざまぁ見ろ」だったために、鶴丸と軽く言い争いをしていたのだが、今の一期にはそれを止めるという選択肢が頭に無かった。三条の兄弟たちに頭を撫でられている三日月に向けて声を掛けると、夫に呼ばれた妻は頬を桜色に染めて「お前様!」と一期に応えた。
名残惜しそうに兄弟たちの手から離れ、真っ直ぐに一期に抱きついた三日月からふわっと桜の匂いがしてくる。恐らく遠征先が春の季節だったのだろう。その暖かい薫りは三日月にとても似合っており、一期は思わず頬を緩ませた。
「ご兄弟との遠征は楽しかったですか?」
「楽しかったぞ。一期の良いところもたくさんあぴいるとやらをしておいた」
アピールの意味をよく分かっていないのであろう三日月は得意顔でそう言う。一期は頬を緩ませてアピールを頑張ってくれたらしい三日月を褒める。艶々とした髪の毛を撫でてみると思いの外手触りが良く、目を細めて気持ちそうに微笑む三日月も相まってこれは癖になりそうだと一期は思った。
(三条の方々が撫でたがる気持ちが分かってしまうなこれは・・・)
しかし、三日月の髪の毛の感触に浸っている一期は、同時に真横から感じる視線に居心地の悪さを感じて仕方なかった。妻の兄たちの突き刺さるような視線だ。一期はひきつった笑顔のまま悪意はないが、多少の敵意を感じる三条たち・・・一期からすれば妻の兄たち、人間の感覚で言うところの義兄たちに視線を向ける。
知らない者から見ればまるで三条の刀たちが一期を寄ってたかって虐めているかのようにさえ見える一期の淡い微笑みが、三条刀の気を更に逆撫でる。一言で言ってしまえば、やはり一期のことが気にくわないのだ。しかし、一度認めると誓ったのも事実。そのために三条の刀たちは何も言わずにただ一期を睨みつけるしか出来ない。
しかし、一期は見た目通りの優男ではない。三日月が夫にするというならと彼の兄たちが渋々認めたということなど分かっていたことだった。それならばどうしたら義兄たちに認めて貰えるのか、妻と義兄たちが旅行という名の遠征へ行っている間に彼なりに考えていたのだ。自信満々に口元を歪めた一期は三条派たちに真っ向から立ち向かう。
「この度再び三日月と契りを交わした一期一振と申します。勿論私のことなど既に存じているのは知ってますが、改めて挨拶をさせていただきます」
三日月と契りを交わしたの言葉に三条派たちからビリッ張りつめた空気が放たれる。少し離れた場所にいる審神者が思わず顔を青ざめていたが誰も気にしなかった。一期は三条派の中でも特に顔を引き攣らせている小狐丸に焦点を合わせた。懐から包み取り出し、威嚇してくる小狐丸に近付いてそれをそっと差し出した。
「これを…」
「これは…!」
素直に受け取った小狐丸がそれを開くと、目に飛び込んできたのは黄金色の輝きを放つ油揚げだった。油揚げを前にした小狐丸の張りつめた空気は四散し、心なしか口元が緩んでしまう。それを目の前の一期に見られ、小狐丸は慌てて口を引き結ぶ。
「お好きでしょう?油揚げ」
「好きではあるが…、ハッ!これは、賄賂のつもりか!?」
「いえ、挨拶の粗品です」
遠くから「粗品が油揚げってありえねーよ!」と審神者から野次が飛んできたが一期は華麗に無視をした。
「…っく、好物で好印象を与えようとするとは…!何という計算高い男だ一期一振…!」
そう言いつつも、小狐丸は目の前の油揚げに涎を垂れそうになっている。一期を威嚇するのと油揚げに心を奪われるので忙しいように見える。そんな小狐丸を落ち着けたのは長男の今剣の言葉だった。
「そんなことをせずともぼくたちは三日月のおっとだってみとめてますよ。だから三日月もふあんそうなかおをするのはやめなさい」
三日月の名前を出され、思い出したように一期が三日月を見ると困ったような顔をして自分たちを見守っている姿が目に入った。一期と目が合ったことで安心したように微笑んだ三日月は一期に近より「兄上たちは認めてくれたから大丈夫だ」と囁く。そんな様子で周囲を気にせずに二人の世界に入り込む弟夫婦に三条派の刀たちは一斉に肩を竦めた。
「…やっぱり寂しくなるねぇ。小狐丸」
「三日月が、幸せなら悔しいが認めるしかなかろう…」
小狐丸は口をへの字にしながら油揚げに噛り付く。見た目通り美味しい油揚げだった。
